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ひかりの再演 ~せんもち編~

せんもち
https://twitter.com/chimo_chi_


逆さの塔ってなに?

 本稿はひかりの再演についての個人的見解である。多くの方が言及していることではあるが、まずはスタァライトの象徴「塔」から考えて改めて整理してみたい。

 各レヴューには必ず星摘みの塔のモチーフが登場するというのは有名であるが、その中で異質に思えるのが「皆殺しのレヴュー」と「狩りのレヴュー」だ。何が異質かといえば「どちらにも逆さに描かれた塔がある」ことである。

 皆殺しのレヴューでは、電車の屋根、先頭部分に塔がバミリで描かれている(以下、バミリ塔と呼称)。ななの初めの立ち位置である進行方向先頭が塔の根本、それ以外の6人がいる側が塔の頂上である。この塔は、華恋が東京タワーで「舞台少女の死」を迎えるシーンで描かれるバミリ塔(このバミリ塔は劇場版パンフレットの最後のページでも確認できる) と比較すると逆さとなっている。ポジションゼロの向きが反対なのである(図1)。

【図1】(せんもち作成)

 狩りのレヴューでは、映写機・照明が逆さの塔として描かれている。【おしえて!スタァライト劇場 情報20】(*1)によれば、この逆さの塔は「ななにとっての再演定点」であり「星見純那塔台」と名付けられている。あくまで初期案であるが、少なくとも再演の鍵となっていることが窺える。「あーあ、泣いちゃった」と言いながら逆さの塔に向かい歩いていくななは、再演に向かって歩いて行こうとしていたのだろう。

 このように、再演の果てに見た舞台少女の死を伝える皆殺しのレヴューと、「終わったのかもしれない、私の再演が」と語る狩りのレヴュー、その共通点が逆さの塔であるならば、劇場版の他いくつかのシーンに出てくる逆さの塔も再演の象徴だろう(*2)、というのが私の解釈である。そしてその逆さの塔のシーンに、ひかりが関わってくるのである。


*1 【おしえて!スタァライト劇場】情報20:お言葉ギミック
https://twitter.com/KinemacINFO/status/1469311963352432641(2022/03/25閲覧)
*2 タロットカードの塔の逆位置の話、再生産時の逆さの塔が突き刺さる描写から「再生」も意味しているという話があるが、本文では触れないことにする。

1-1.遠景の逆さ塔

 はっきりとしているのは、真矢クロの楽屋シーンの次にあたる、競演のレヴューを終えたひかりがキリンと話す場面の背景に映る逆さの塔である(正直観察力無さすぎて数回見ても気付いていなかった)。再演の象徴だとすれば、ひかりにとっての再演定点かとも思えるが「華恋はどこ」「何なのよ、ワイルドスクリーンバロックって」と尋ねていたひかりは、あの時点では再演やレヴューの開催には無関係と思われる。だとすると何を示しているのだろうか。

 直後、キリンが燃えながら落ちて行き、華恋の歩くレールに火が灯る。ということは、あの遠景を共有しているシーンには華恋とひかりが揃っていたことになる。

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「彼女は役作りの最中です」
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 華恋の役作りは、すなわち劇中に挟まれる生い立ちの描写と「最後のセリフ」までの道のりそのものを表しているのだろう。「ドンドン」の場面がTV版と違ったり、その後ろに映る東京タワーの先端が滲んでいたりするのは、生い立ちの描写はただの回想ではなく、華恋の人生そのものが再演されている舞台だから、と考えることが可能である。遠景の逆さ塔のシーンは、上記の再演を示唆しているのではないだろうか。

 それなら華恋がレールを歩く場面でも逆さの塔が描かれていてもおかしくないので、少しこじつけがましい気もするが……。あるいは「やひこゐろ編」の言葉を借りれば、この後ひかりが「冒頭のレヴューを再演」するということを表しているのかもしれないなどと考えると、際限がない。みなさんはどう理解しているのか、本誌に付属する舞台創造科アンケートの結果を楽しみにしておくこととしよう。

1-2.ひかりの再演

 劇場版の冒頭、無数のポジションゼロが倒れた東京タワーから噴き出る様子が、色も含め逆さの星摘みの塔と酷似しているように見えたのだが、どうだろうか。これを逆さの塔だと捉えれば、冒頭のレヴューが再演の果てであることを示しているとも言えるのではないかと思う。

 TV版の再演は「よいでしょう」と許可を出したキリンによって行われていたように描かれる。だが、ロロロ及び劇場版ではななが主体(だからこそキリンは間に合わないと走っている)である。再演を操るなながひかりを招き、ひかりは再演に協力する者として華恋に別れを告げた、というのが私の解釈である。

 第100回聖翔祭を終え、華恋のキラめきに目を奪われたことで怖くなったひかり。そして舞台少女の死を目撃したなな。死せる舞台少女たちにそのことを伝えるため、ななは再演を行った上で皆殺しのレヴューを計画する。それと同時になながひかりを再演という舞台の上に招いたのではないだろうか。「舞台はひかりちゃん」である華恋に、「列車が必ず次の駅へ行くように、舞台少女は次の舞台に向かわなければならない」ことを伝えることができるのはひかりのみである。ひかりの冒頭の口上とセリフは「怖かったから」逃げるにしては偉そうで示唆的すぎる。怖かったというのが本音だとしても、建前としてななとの関係があったのではないだろうか。

1-3.ななの刀

 皆殺しのレヴューでは、ななの本差「輪(めぐり)」が遅れて到着する。ななの持つ2本の刀は、俳優としてのななと裏方としてのななを表しているという話をよく見るが、その通りなら俳優としての「舞」、裏方としての「輪」という名前も含めあまりにも粋な設定だと思う。遅刻した輪がその名のように再演を表しているとして、上記の解釈に基づけば輪はひかりに再演をさせるという役目を果たしていたのではないか。ひかりの冒頭のレヴューは時系列的には皆殺しのレヴューの少し前となるはずではあるものの、輪が遅れて到着したのは「冒頭のレヴューにななが関係していることの示唆」であるというのは少し突飛な解釈だろうか。わかりません。

2.コラム・神楽ひかりさんの経歴

 話は変わるが、最後に一つ、気になったことを書き残しておきたい。

 劇場版では第100回聖翔祭より後にひかりが再び退学し、ロンドンに戻っていたことが明かされている。こうなるとつい学歴について興味が湧いてしまった。履歴書の学歴欄が足りないんじゃないか? と履歴書風にまとめてみたのが図2だ。どうなってんだ。面接官が椅子から落ちそうである。劇場版後については、聖翔音楽学園(以下、聖翔)に復学したのかロンドンにいたのかは不明であるため以下のような説が考えられる。

【図2】(せんもち作成)

劇場版EDで101期生の2人に「あれ、今の人って……」と認知されていること(根拠としては薄いかもしれないが)や、劇場版パンフレットにひかりの第101回聖翔祭台本が存在し、フローラ役のオーディションに参加していると考えられることから、聖翔に復学していた説。

劇場版ED の描写で、王立演劇学院に留学したななと「そう、ちゃんとみんなに逢えたんだ」と話していることから、この時点ではひかりはロンドンに住んでいることが推測できる。王立演劇学院に復学もしくは既に卒業している説(聖翔にいたら留年不可避では?)。

結局卒業していない……中卒説。

 王立演劇学院や聖翔の入退学システムが分からないため想像でしかないが、どちらにしても聖翔在校生に代々語り継がれるレベルの入退学コンボである。学費や入学金も相当累積するはず……などと身も蓋もない現実的なことを考えてしまう。参考までに、聖翔のモデルではないかと言われている宝塚音楽学校の学費は「授業料60万円/年,入学金等48万円」(*3)である。また、王立演劇学校(Royal Academy of Dramatic Arts, 通称RADA)の学費は「9250ポンド/年(日本円にして約150万円)」(*4)であった。

 高いと捉えるか安いと捉えるかは人によると思うが、改めてひかりの実家の太さのなせる業であるなと感心する。友人を訪ねるため軽く世界一周をしているのも彼女だからこそである……。

 最終学歴の話に戻ろう。私個人としては②説ではないかな? と考えている。卒業してそこまで日が経っていないと思われる99組を訪ねているということは、ロンドンに居住していてしばらく会っていなかったのではないだろうか。王立演劇学院に在籍し、寮でななと暮らしているかも……とここまで想像したところで、ロンドン組が同棲をしているというのは集団幻覚だということを思い出した。あなたはどう思いますか?


*3 宝塚音楽学校 授業料等について
http://www.tms.ac.jp/guidance/fee.html(2022/04/01閲覧)

*4 RADA BA(Hons)in Acting
https://www.rada.ac.uk/courses/ba-hons-acting/(2022/04/01 閲覧)


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