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劇スにおける星摘みカウントについて

白隼
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1.はじめに

 『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(以下、劇ス)では、同じ言葉を意図的に繰り返す演出が各レヴューにみられる。本論文では、この言葉の積み重ねの過程を調査し、何が意図されていたのかを考察する。

 本論文の流れは以下の通りである。

  • 第1章:はじめに

  • 第2章:語の定義

  • 第3章:トマトのヘタの数の象徴から導き出した同じ言葉の積み重ねの回数の仮説提示

  • 第4章~第10章:各レヴューにおける仮説の調査と演出意図の考察

  • 第11章:最後に

2.語の定義

 劇スのレヴューでは同じ言葉を積み重ねていく演出を通して、舞台少女がレヴュースタァライトという壁を乗り越えて次のステージに向かう姿を表現していると筆者は考える。この同じ言葉の積み重ねの演出を「星摘みカウント」と本論文では定義する。例えば特定の言葉が3回登場した場合には、「3カウント」と表記する。「星摘み」は『戯曲 スタァライト』におけるフローラとクレールの塔に上る行為から命名した。

3.星摘みカウントにおいて6 が重要になる根拠

 劇スにおいてトマトは執着を象徴しており、ヘタの数が増えるごとに執着の種類が変わり、舞台の上に生きる者としてのステップが上がる様を表現している、と筆者は考える。

 劇スに登場するトマトのヘタの数は4種類あり、4つ、5つ、6つ、そして7つ以上である(表1)。

ヘタの数別のトマト登場シーン(筆者の資料をもとに主催が作成)

 それぞれのトマトの登場シーンから、ヘタの数は以下を象徴していると考える。

4:執着の原点
5:舞台への執着
6:レヴュースタァライトへの執着
7以上:レヴュースタァライトを演じきった先

 上記から、筆者は2つの仮説を立てた。

(仮説1)共演者とセリフを掛け合いながら星摘みカウントを6回とることで、レヴュースタァライトを演じきることを表現している。

(仮説2)6より多いカウントをとることで、レヴュースタァライトを演じきった先の未来を表現している。

 次の章からは、各レヴューにおける同じ言葉の積み重ねに着目して上記の仮説を検証する。

4.冒頭

 星摘みカウントは以下のようになっている。

星摘みカウント表(筆者の資料をもとに主催が作成)

 まだ2人で1つの運命に区切りをつけられない華恋は「わかんないよ……ひかりちゃん!」と言ってしまう。華恋はひかりから一方的に“最後のセリフ”の1つ前のセリフ「貫いてみせなさいよ、アンタのキラめきで」を投げかけられても応えられず、約束タワーブリッジの分裂は失敗に終わる。華恋は次のステージへの覚悟ができていなかったため、6ヘタのトマトは破裂するのだ。

5.皆殺しのレヴュー

 星摘みカウントは表2のようになっている。

星摘みカウント表(筆者の資料をもとに主催が作成)

 「列車は必ず次の駅へ。では舞台は? 私たちは?」と「なんだか、強いお酒を飲んだみたい」がそれぞれ3カウントを分け合っていることに着目したい。これは大場ななが計画的に分けたのではなく、本来「列車は必ず次の駅へ。では舞台は? 私たちは?」6回の予定だったものに「なんだか、強いお酒を飲んだみたい」がアドリブとして3回ねじ込まれたのではないかと筆者は考えている。

 「列車は必ず次の駅へ。では舞台は? 私たちは?」は、舞台女優になるための覚悟を問いかけるセリフである。冒頭が神楽ひかりから愛城華恋に対する問いかけだったことに対し、「皆殺しのレヴュー」では塔の導き手の役を演じる大場ななから、星見純那、天堂真矢、西條クロディーヌ、露崎まひる、石動双葉、花柳香子への問いかけが行われる。

 塔の導き手として放った「列車は必ず次の駅へ。では舞台は? 私たちは?」に対して、「なんだか、強いお酒を飲んだみたい」は大場ななが自分の役、すなわち星見純那というクレールにケリをつけるフローラの役として放ったセリフである。

 なぜ大場ななは星見純那のために「列車は必ず次の駅へ。では舞台は? 私たちは?」ではなく「なんだか、強いお酒を飲んだみたい」というセリフを放ったのだろうか。大場ななの胸の内を想像すると、他の誰にも星見純那とのやり取りを邪魔されたくなかったということが言えそうだ。「列車は必ず次の駅へ。では舞台は? 私たちは?」のセリフの対象はその場にいる全員に向けられるため、天堂真矢が「私はもう、舞台の上」と先に答えてしまうという事態が発生している。星見純那だけに答えてほしかった大場ななとしては、星見純那に特別にセリフをアドリブとして用意する必要が出てきたのではないだろうか。

 加えて着目するのは、なぜ皆殺しのレヴューのタイミングで「なんだか、強いお酒を飲んだみたい」が発せられたのかということである。星見純那へのケリは本来、「狩りのレヴュー」でつけるべきではないだろうか。「なんだか、強いお酒を飲んだみたい」の後、ななによる演出で純那の首から血が吹き出す描写に関しても、狩りのレヴューの冒頭で、ななが純那の首に斬りかかったことを思い出すと、これもまた狩りのレヴューの先取りと考えられる。ケリをつけるのを先走ってしまうほど、皆殺しのレヴューの時点で大場ななの心は星見純那で溢れかえっていたのではないかと筆者は考えている。
 星見純那への執着に囚われて同じセリフを重ねられなかった上に、共演者とも掛け合っていないため、このレヴューでは星摘みカウント6回は成立していない。したがって、皆殺しのレヴューだけでは、レヴュースタァライトは演じ切れていないのだ。

6.怨みのレヴュー

 星摘みカウントは以下のようになっている。

星摘みカウント表(筆者の資料をもとに主催が作成)

 「怨みのレヴュー」は全レヴューの中で最も星摘みカウントの攻防が激しいレヴューである。

 注目するのは5回目まで星摘みカウントがされて残り1となった時の描写である。

 「うっとうしい」では、香子が立てつづけに「うっとうしい」を言い放ち五重塔がせり上がる。この塔は星摘みカウントが5まで行われたことを表現している。曲の盛り上がりと重なり、非常に切迫感のある場面だ。

 「なんで」では、香子の問いかけから始まり、双葉が「なんで」と返してカウントが5になったところで「ずるい」という双葉の本音が引き出される。「ずるい」の5回目が放たれたタイミングで双葉が掴んでいた木は折れる。

 「うっとうしい」「なんで」「ずるい」。あと1回言えばレヴューを終了することはできたが、お互い縁切りはできなかった。自分たちの腐れ縁に対して「しょうもない」と言い本音を聞いた上で新しい約束を交わし、それぞれの道を行くことを認めるという決着が怨みのレヴューでは描かれていた。

7.競演のレヴュー

 星摘みカウントは以下のようになっている。

星摘みカウント表(筆者の資料をもとに主催が作成)

 このレヴューにおける星摘みカウントは、まひるがひかりに6回「ねえ」と叫ぶことである。これは、序盤の演技練習でアレハンドロを演じる華恋が「なぜ」と言った回数と同じだ。つまり、まひるが華恋の気持ちを代弁している表現とも取れる。劇スでは、まひると華恋が直接会話する描写はないが、ひかりが出て行った後もまひるが華恋を気にしていたことがわかる。まひるが「ねえ」とぶつけることによってひかりの目に華恋のハイライトが映し出されるという構造が、セリフ、画、歌で同時に表現されていたのである。

8.狩りのレヴュー

 星摘みカウントは表2のようになっている。

星摘みカウント表(筆者の資料をもとに主催が作成)

 狩りのレヴューは、ななの「眩しかった」や「届かない星の眩しさ」といった言葉の斬りかかりが、純那の「今この舞台の私が、眩しい主役、星見純那だ!」を引き出したことを特徴とする。

 このレヴューでは、輪と舞の二刀を携えたななが、純那の翡翠弓の宝石を破壊し、舞を純那に渡す。純那が覚醒するためには、相手との距離が遠くなってしまう弓を手放して燃料とし、新たな武器を手に取ることが必要であった。つまり、狩りのレヴューではセリフと画の両方で、大場ななが星見純那の覚醒において必要不可欠であったことを表現しているのである。

 上掛けのボタンを弾いた後にカウントされる「やっぱり……眩しい」は、ななの未来を示している。純那のキラめきを信じて、なな自身も大学で裏方のことを学びながら、演者と裏方の二刀流として活躍する舞台人として純那と再会を果たすことを決めたのではないか、と筆者は解釈している。自分自身の新たな武器を手に入れた純那が、借りていた舞をななに返す未来が「でも、いつか。いつかまた、新しい舞台で、一緒に」に込められているのではないだろうか。

9.魂のレヴュー

 星摘みカウントは以下のようになっている。

星摘みカウント表(筆者の資料をもとに主催が作成)

 「魂のレヴュー」では、星摘みカウントが5まで積まれた後、レヴュー曲内でクロディーヌが「二人には ライバルを」という歌詞を歌い上げる。このタイミングで真矢の上掛けのボタンが弾かれクロディーヌがレヴューに勝つが、6 回目の星摘みカウントはレヴューの決着後に交わす「ライバル」であると筆者は考える。魂のレヴューにおいては勝負がつくこと以上に、未来に続く2人の永遠の契りが重要になるように描かれていたのではないだろうか。

10.最後のセリフ

 星摘みカウントは以下のようになっている。

星摘みカウント表(筆者の資料をもとに主催が作成)

 「最後のセリフ」はワイルドスクリーンバロック全体を総括する役割を担っているため、これより前のレヴューとは性質が異なる。

 ここで、ワイルドスクリーンバロック全体においても6カウントが成立していることを示したい。カウントの1から4は、舞台少女たちが共演者とともに同じ言葉を繰り返してケリをつけたレヴューが担う。華恋が舞台少女の死を迎えた後にT華恋の棺に入り、東京タワーに戻ってくる際、「アタシ再生産」の看板が4枚重なっており、4枚の看板を潜り抜けた後に棺が開く描写がされている。これは、怨みのレヴュー、競演のレヴュー、狩りのレヴュー、魂のレヴューによってカウントが4まで行われていることを表現していると解釈できるのではないか。

 そして冒頭と同じように、ひかりに「貫いてみせなさいよ、アンタのキラめきで」と投げかけられ、今度こそ最後のセリフがわかった華恋が「私も……ひかりに負けたくない!」と言うことでレヴュースタァライトは閉幕するのだ。6ステップで完結する点で、ここまで見てきた星摘みカウントと同じ構造になっている。つまり、各レヴューにおける、同じ言葉を積み重ねる星摘みカウントと同時に、「ワイルドスクリーンバロック」という大きな枠組みで、レヴューそのものを積み重ねる星摘みカウントがなされていたと筆者は解釈する。

11.最後に

 本論文では同じ言葉の繰り返しに着目し、舞台少女がレヴュースタァライトを乗り越えて舞台女優という次のステージに進む過程を分析した。画と歌に加えて言葉がこの作品の重要な表現の核を担い、互いに化学反応を起こすことで、あのようなキラめきを放っていたのだ。

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