嘘三十選

木星と土星のあいだには太陽系でゆいいつ三重の輪をもつ小惑星が発見されており、「三重苦の少女」ヘレン・ケラーにちなんで「ケラー」と名づけられている。

十九世紀ドイツのエアフルト動物園のある象はゲーテの詩の一節を理解した。

ノルデンウサギは生後約一週間の雌親の愛情のかけ具合によって性別が決まる。

南米のある民族の言語体系において、「嘘」と「通り雨」は同じ一つの単語で表される。

明治二十九年の坪内逍遥の戯曲「牧の方」は、どのように解析しても当時存在しないはずのボールペンで書かれたとしか判断しえない原本が残っている。

民法に登場する固有名詞は「日本」と「大隈重信」の二つしかない。

指毛は翼の名残りである。

「宿題」の起源は、江戸時代のマニュファクチュア制において地主が労働者に時間外業務を課した制度が、しだいに同時代の寺子屋でも採用されるようになったものである。宿題のナンセンスな単調さが労働に似ているのはそのためである。

全盛期のベンツは作業効率を上げるためにただ工場を歩き回るだけの美女を雇っていた。

ロンドン郊外のある古い街には「時計が逆回りする時計塔」があり、その街の人びとには鐘の音とともに夜に洗濯物を干す習慣がある。

1980年代後半までは公道での馬車の使用とともに牛車の使用も認められていたが、1992年の「世田谷牛糞散布事件」以来、法改正がなされて禁止となった。

USJの法的区分は「遊戯施設」だが、ディズニーランドにはウエスタンリバー鉄道があるため「交通施設」に分類される。

三十四歳で歯磨き粉を発明した人物は三十七歳のときにすべての歯を虫歯で失った。

カーテンの発祥はアメリカのラブホテルである。

「爪楊枝」は「妻用事」が変化した言葉だが、その「妻」は松方正義の妻、満佐子のことを指している。

クワガタのツノの成分はカブトムシの後脚の成分とほとんど一致している。

冷たい風は集めると水になる。

「嘘」の起源は恋愛における男女の駆け引きであり、ロマンティック・ラブの成立以前に現代的な意味での卑小な嘘は存在しなかった。人間が初めてついた嘘は、十世紀前半のアラビア文学『アルサリア』における貴族の男の嘘であり、彼は巡礼者のうわさを聞いて修道女に恋をしたが近づけず、信心をいつわって修道院に入るのである。そして女もまたみずからの心に嘘をつき、男と結ばれぬ苦しみのうちに死んでいく。このような「嘘」が資本制において換骨奪胎され、詐欺や見栄としての空虚な嘘へと変容するのである。

雀は鳥で唯一涙を流さない。

歌舞伎は陽気な男たちの内輪ノリから生まれた。

「だるまさんがころんだ」のインドネシア版は「牛の骨を盗んだのは誰だ」である。

漫画『ワンピース』が連載される以前、「麦わら帽子」は「あみあみ帽子」とよばれていた。

花火は火を花のように咲かせようとする過程ではなく花を火のように燃やそうとする過程で生まれた。

刑法には「不要葛藤罪」の規定があるが、適用例は三件しかない。

「寺」よりも先に「詩」という漢字があり、寺は詩のような造形美を備えながらも、いっさいの言葉を拒む詩であるという意味で派生的に「寺」という字を与えられた。

山手線の駅は内回りで数えた時と外回りで数えた時で数が一つずれる。

全身麻酔が作用するメカニズムは解明されていないが、夢遊病の状態ときわめて近しい生体反応が起こっていることが確認されている。

一年中厚い雪雲が空を覆い、雪が降りつづけているとある地域では、星が滅多に見えない。稀に、快晴の夜に幾億の星が空を埋めつくす。その地域では星を「イ・ヴァーナ・セルク(空に積もった雪)」と呼んでいる。

すべての言葉は嘘であることを運命づけられている。

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