雨模様12
「全部で100体のミヤオ君を作りました。さあ、こっちへ」
つばくろさんはウィンクを一回して、さっさと歩いて行ってしまった。
「ちょっと!ちょっと待って下さい!」
つばくろさんを追って歩き始 めると、サバンナのようだった景色は少しづつ透明になり、地面さえ見えなくなった。
「何だか空中に浮かんでいるみたい。」
晴れやかな青空の雲間に何かがふわふわと浮かんで来た。
よく見ると沢山の猫…そうミヤオがいっぱい浮かんでいる。それは言葉には出来ない不思議で美しい光景だった。
つばくろさん、或いはJCN9000が作り出した仮想空間とは分かってはいるけれど、青空に沢山のミヤオが浮かんでいる、この風景は印象派の絵画のように優雅でかつ非現実感を纏っていた。
あたしは歩みを止めて、この不思議な雰囲気を味わいながら全身の力を抜き、コピーのミヤオ(それでもミヤオはミヤオだった)をお腹の上に乗せ、空中をたゆたった。
101匹の猫、いや101匹のミヤオ…あたしは再び猛烈な睡魔に襲われたけど、つばくろさんの抱えている本物のミヤオを手に入れるまでは、うとうとしている場合ではなかった。
「さあ、また難題だよ。本物のミヤオ君はどれだか分かるかな?」
つばくろさんは、抱えている「本物のミヤオ」だと言っていた猫さえ、空中に離してしまった。
あたしはミヤオの特徴は少しは憶えていたものの、ふわふわと浮かび入り混じる「101匹のミヤオ」の中から本物を探すのは不可能だと思った。
つばくろさんは、どんどん歩みを早め、最後はスキップをしながらあたしの視界から消えてしまった。
あたしは再び猛烈な焦燥感に苛まれたが、恐らくこの難題も「何もしないのが正解」だと直感的に判断して、手元に抱えていた「コピーのミヤオ」をそっと、晴れ渡る青空に放ってやった。
あたしは、不可能だと分かっていながらも、悔し紛れに言った。
「つばくろさん、あたし、この101匹のミヤオを全部引き取ります。全てのミヤオを連れて帰るから、元の世界に戻してちょうだい。」
返事はない。
つづく