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#09 【新月企画:三題小説】

こんばんは。三十路を手前に、何かを発信したい(できれば友達がほしい)と思い、ポッドキャスト配信し始めた、りげりげと申します。

「星屑らじお」第9回目より、新企画となる「新月企画:『三題小説』」を始めました!
配信でも少しお話させていただきましたが、星が一番輝く新月に、私の趣味全開、好きなことをやっております!

というわけで、配信内でお題を決めましたので、そのお題の小説をぽちぽち書いております。
もしよかったら、配信を聞いたのち、小説を読んで貰えたらうれしいです!
また、小説のお題をお待ちしております!番組フォームより、ぜひ、お送りください!

ブレーカー、うさぎ、コスモス

小原がオペレーターから受けた電話では、ブレーカーが落ちたまま戻らないという話だったが、小学校の裏手にあるブレーカーを見ると全く問題がない。
「なんで?」
ブレーカーはきちんと上がったまま。ほぼ使われてない旧校舎らしいので日常生活には問題ないらしいが、時折授業で使うという工作室や家庭科室のある旧校舎の電気がつかないのは由々しき問題だ。

小原は周囲を見渡し、配線の状況を確認する。
「ん?」
よく見ると壁を這わせた配線は足元まで伸びていた。そして、配線は地上すれすれまで這っていたが、その近くにぽっかりとした穴。
「穴?」
その穴の近くの配線を見ると齧った跡があり、間違いなくこれが原因だとわかる。

配線の問題だったため、上司に配線を取り換える必要があるから一度荷物を取りに行くことを電話し、その旨を用務員の男に小原は伝えに行く。

「というわけでして。」
「ああそれ、もしかしたらうさぎかもしれん。」
「うさぎ?」

旧校舎裏の飼育場で飼われているうさぎはよく脱走するという。
改めて用務員の男と共に小原は旧校舎に向かった。

「ああまた脱走してる!」
用務員の男は慌てて飼育小屋の外に出ている白いうさぎを捕まえた。
ふとみると、のんきに飼育小屋の脇に生えた野草を口に加えている。
「悪いんですがね、この子、見とってもらえん?他に脱走してないか、見てくるけん。」
「え、ええ。」
用務員の男からうさぎを渡された小原は、うさぎを抱きとめた。
「お前、これ食べる?」
小原は飼育小屋の脇に腰かけ、近くのコスモスを手折った。小原から差し出されたコスモスにはぷい、と顔をそむける。
「グルメだなあ。」
うさぎは「はてなんのこと?」という顔で小原を見上げているのだった。

作業着、梅、ネオン

社長の飲み会の長話に付き合うのは先輩の三井さんの役目だった。ただ、三井さんが半年前に結婚してから、新婚だからーとのらりくらりと飲み会のお誘いをかわし、代わりに小原に役目が回ってきてしまった。
「飲み会だるいな…。」
作業着のままで飲み会に行くのかと思いきや、今日は着替えてこいという。
通勤用のスーツに着替えた小原は、社長と一緒にネオン街に向かった。

社長行きつけのスナックで、ママさんとチーママさんにお酌をされながら、小原はちびちびと焼酎の水割りを飲んでいた。
ころんと入った梅干しは少しつぶされていて、しっかり梅の味がする。

「小原ぁ、お前、最近どぉなんだあ?」
ママさんと一緒にカラオケを終えた社長が赤ら顔で小原の隣に座る。
「三井だって結婚したぞ?お前もそろそろだな…。」
嫌な説教が始まった、と小原は毒づく。
今時結婚しないといけないなんてことはない。
「もう、社長さん。お顔真っ赤ですよ。ちょっとお水のみません?」
ママさんがすかさずおしぼりと水を持ってきて、社長の隣に座る。
「小原さん、良かったら一緒に歌います?」
社長と反対に座るチーママさんに手を取られて、小原は立ち上がった。

「小原さん、無理して飲まなくていいですからね。薄めには作ってますけど、こっそりお水に変えますから。」
「お気遣い、ありがとうございます。」
チーママさんの手は小さく細いけれども、小原には温かい。こんな女性だったらいいなあと、心のうちで小原は一人ごちた。
デュエットソングが流れ始め、チーママさんからマイクを手渡せされた小原は顔をあげる。にっこりとチーママさんが微笑んでいた。
「ふふ、女同士、仲良くしましょうね。」

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