見出し画像

2023年2月の星の行方


無題 ー メモ


日陰に寄せられた残雪が色を失って透き通りはじめると、夜の空にきらめく星たちが地上を行き来した。流れ星のようでいて、まったく異なる光の束はグロッケンシュピールのようにキラキラと輝く音を奏で、真っ直ぐに世界中の人々の元へ向かった。光の束は物語そのものだった。

まるで御伽噺おとぎばなしのような非日常の風景が日常に代わり、現実と見なされてきた事柄が幻となって跡形もなく消えた時、人々は物語に心を奪われむせび泣いた。そして、生命の儚さがこれまでずっと他人事であったことに驚いた。

光がもたらした物語は、たったひとつの目的を実現するためだけに練られた緻密な遊戯で、年齢性別を問わずに誰もが参加できた。年単位の遊びを経験したことがない地球上の人々に戸惑いが見られたのは最初の一歩目だけで、二歩三歩と進むうちに、それなしでは寝つけないほどに人々の生活に物語は浸透していった。

次第に、光の物語は対立を軸にした世界の仕組みを無邪気に破壊し尽くした。あれだけ騒いでいた武器の必要性が皆無になり、多くの人々の思考が完全に停止した音が各地をこだまして話題になった。時を同じくして、世界中に行き渡っていたいくつものスローガンの必要性すらもなくなってしまった。まさか、地球環境や人類を救うために必要としていたそれらのスローガンと、大小様々な武器がつながっていたとは思わずに人々は愕然とし、肩を落とした。

ここから先は

1,900字
この地球に存在する重厚なレイヤーをみなさんと一緒にとことん堪能していけたら幸いです。

こじょうゆうやが、宝船のような今この瞬間を表現する感性むき出しマガジンです。毎月1日に配信する『星の行方』や、2024年3月からスタートし…

あたたかいサポートのおかげで、のびのびと執筆できております。 よりよい作品を通して、御礼をさせていただきますね。 心からの感謝と愛をぎゅうぎゅう詰めにこめて。