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メルクのコロナ経口治療薬の衝撃。モデルナ、バイオンテック、ノババックス、リジェネロンなどの株価への影響は?

先週、アメリカのメルクがコロナ治療薬として経口=飲み薬の治験結果を発表しました。その衝撃は大きく、アメリカのマーケットを上昇させるほどのインパクトがありました。旅行セクター、レジャーやギャンブルなど軒並み高値を付けサプライチェーン問題で沈んだディフェンシブ銘柄が活気づくきっかけとなりました。

モデルナ、バイオンテックなどの株価も下落しましたが、さてこれからどのような展開が予想されるのでしょうか。今回は医学的な視点は専門家の分析に委ねまして株の話にフォーカスして書きたいと思います。

まずメルクの商品はワクチンではなく治療薬です。治療薬ができたからといってすぐにワクチンが不要になるわけではありません。タミフルがあるからと言ってインフルエンザワクチンを受けなくて良いという理屈ではないのと同じです。今までもギリアドのレムデシビルやリジェネロンのカクテル抗体など薬は存在していました。何が今までと変わったのでしょうか。
ここで「コロナ治療飲み薬ができると何が変わるのか」を整理しておきたいと思います。

1. 注射が不要なので医療崩壊が防げる
今までのコロナ治療は注射が必要であった為、医師や看護師が必要でした。飲み薬があることにより在宅で治療が受けられ、結果的に医療崩壊のような事態を防げます。これは政府の施策への影響の面で重要です。

2. ワクチンを打てない、打ちたくない人へのケアが可能
ワクチンを打たない人は一定数おり、それは社会的に受け入れないといけません。今まではそのような人は嫌悪され、また医療崩壊により治療に行き着く前に重症となるケースが多く、被害を拡大していました。今後は飲み薬により在宅で治すことが可能になります。それはすなわち現在のようなワクチン接種者をチェックするような態勢が消え機会の平等に繋がります。裏を返すとワクチンを拒否しやすくなるとも言えます。

3. 「飲み薬でコロナを治すことが医学的に可能である」という期待
今まであらゆる疾病が世の中に出てきていますが、手軽に治療できるかもという事実が人々に与える安心感は大きいです。医学的・技術的に可能であれば、万が一メルクの治療薬が効かなくても今後第2第3の治療薬が出てきて薬が行き渡り、コロナを沈静化させるという強い確信を与えます。

それでは株価への影響はどうでしょう。

コロナ治療薬の分野では、薬の使われ方や価格、生産スピードの比較で、劣っている薬は使われなくなってきます。販売している製薬会社にとってコロナ治療薬の売上ウェイトが高いと必然的に株価は下がることになります。もちろん、メルクの薬はまだFDAから認可されていませんので勝負はついておりません。ただし飲み薬が医学的に可能で今後大量に生産されるとなれば、今までのレムデシビル(ギリアド)やモノクローナル抗体薬(リジェネロン、イーライリリー)などは不利となる可能性があります。重症化する人数が減れば必然的に需要が減るからです。
ちなみにリジェネロンの抗体カクテルは1回あたり患者負担2100ドル、医師との問診も含めて3-4時間を費やすのに対し、メルクの治療薬はアメリカ政府に700ドルで卸される予定です。飲み薬は生産コストも10分の1以下と言われています。
現在コロナ治療薬を開発中の会社は、開発を中止する可能性も視野に入れる必要があります。安価で効果の高い薬を出せばメルクの土俵を覆すかもしれませんが、投資家にとってはリスキーです。

次にワクチン企業について。これはいくつもの要因が絡んでいます。
1. コロナ治療薬が出てきても1回あたり政府卸値で700ドル(患者負担はもっと高くなる可能性)がかかるのに対して、ワクチンは数十ドルです。国家としても個人としても負担は重くなります。すぐにワクチン停止というわけにはおそらく行かないでしょう。
2. 現時点では入院率が半減したとは言え、飲み薬が完全に効くとはわかっていません。副作用も不明です。特にコロナにかかった場合の嗅覚異常や倦怠感などの「ロングコービッド」症状の回復が、飲み薬の効能に含まれているかは重要です。もし後遺症が残るようであれば、依然としてワクチンの保護の方が「かかってから直す」より格段にマシです。
3. ワクチンについてはブースターショットに関する議論が終わっておりません。抗体がもし半年やそこらで減るのであれば再度のコロナ感染ピークが来ます。少なくとも今は「コロナパンデミックは収束に向かっている。ただしワクチンを皆が打ち続ければ」というコンセンサスです。ワクチンを打つか打たないかは任意ではなく義務に進んでいますので、この流れが止まるかどうかは慎重に観察しないといけません。もちろん、治療薬の目処がつくとブースターショット議論が後退する可能性もあります。
4. ワクチンがある程度進んで経済再開され医療崩壊も無くなると、ワクチン自体進んで打たなくなるかもしれません。それは社会には良いことでもありリスクでもあります。施政者によっては「コロナは怖いので政府や行政の言うことを聞こう」という状況を好都合と思う向きもあるでしょう。感染者が増え「感染者が減らないと○○禁止」というキャンペーンをもう一度張る可能性がありますし、逆にワクチンが十分確保できなかったり経済再開に人気を託す場合は、ワクチンなんか無くても乗り切れると宣言するかもしれません。この辺りは施政者の意向も関わってきます。ワクチンの多くは政府が顧客であるため、国の方針に左右されます。治療薬の登場は、今後ワクチンを購入しない、自国生産する、別のものに変えるといった発表が相次ぎ、ワクチン勢力図を書き換える起爆剤となることが考えられます。

また「いつまでmRNAワクチンの天下が続くのか」ということもあります。前回 コロナワクチン株のこれから。mRNAワクチン一強時代の曲がり角。集団免疫作戦の次に来るもの というタイトルでノートを書きましたが、mRNAワクチンだけで今後進むのか?については難しいと言わざるを得ません。すぐに他のワクチンが出てくるとは限りませんが、飲み薬で治せるのであれば他の技術で代用できるのではという期待が出てきます。

モデルナ、バイオンテック、ファイザー、ノババックスその他のワクチン銘柄のうち、時価総額が既に大きいもの、ワクチン販売量が減る見込みのものは決着が見えるまで株価も冴えないかもしれません。
ただし「いくらが妥当な株価水準なのか」についてワクチン関連株は依然としてハッキリしていないのも事実。ワクチンが必要以上に悲観される可能性があること、また飲み薬の実態が明らかになるにつれ明暗どっちにも転ぶ可能性があることを念頭に、ポジションを調整した方が良さそうです。
中長期的には、がん治療やその他の発明を期待して、バイオ業界に注目が集まる呼び水となるかと思います。

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