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知らない感情

おじいちゃんさ、死んじゃったんだ。

2年前かな。自分が大学受験で根を詰めていたから母親が気を遣って彼が癌で、そろそろ危ないということを言わなかったらしい。

教えてもらったのは、自分が国立大の後期試験の合格発表の後だったと思う。あまりに急でいまいち母の言っていることが理解できなかった。

それから、あっという間の2ヶ月だった。


一度は退院できた。家にも帰ることは可能だった。ただもうこの時は延命治療だったらしい。もう



彼はもうほとんど昏睡状態だった。もう短いと。

特別に面会の許可をもらい会いに行った。

痩せほそったおじちゃんがいた。頑張って生きていた。大量の薬物を投与されてるから意識は朦朧としている。わたしたちに気がついた。彼はもう話すことができないから筆談でコミュニケーションをする。

「大きくなったね。」

そう文字を書いてる彼の目は透明の血がへばり付いていた。泣くなよ、お爺ちゃん強いだろ、泣くな。やめてよ。もうさよならって言ってるみたいじゃん。

手は温かく、私の記憶の中にあるお爺ちゃんのゴツゴツした指はとても優しかった。

気がついたら私は泣いていた。他の3人は泣いていたかすら覚えてない。知らない。どうでもいい。

彼の喉には穴が開けてある。それでもふりしぼて声を出そうとしてくれていた。名前を呼ぼうとしてくれたのかな。大丈夫だよ無理しないで。

人間って生き物なんだって、知ってた? そこらへんにいる蟻とおんなじなの、おんなじ生き物なの。だからいつかは死んじゃうんだ。

ずっとなんてことなく生きてるものだと、なんとなく思っていた。

彼は人生の最後に私にこの”感情”を遺して逝った。

まだ得体の知れないそれに名前をつけることはできていない。

ありがと、またね。60年後くらいにまた会おうね。ちょっとまだ時間かかりそうだからゆっくり待っててよ。

じゃあね、さよなら。