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号泣のレッスン 俳優の触覚を研ぎすまし演技力を向上させる  世界で一番やさしいスタニスラフスキー・システム㉕

自分の内面に役とのつながりを感じた1つの質問


合格発表の場面…あんなに泣けたことなかった。

もし、あのオーディションの場であの演技ができていたら、結果に関係なくきっと満足できてただろうなと思う。

自分の演技に自分で納得できたのはかなり久しぶりだった。

思い返すに、身体に感じた暖かさがポイントだった気がする。

以前の私は、合格って嬉しいはずって決めつけていたから、どう喜ぶか、どう泣くかという表現ばかりを考えていたかもしれない。

いわば、芝居の出来を考えている俳優という立ち位置から場面を分析していた。

目的や行動について考え始めると、この役をいかに自分事としてとらえるかという方向でアプローチできた。

今回は、役の人物の視線で物語の世界を眺められたと思う。

そして、まだ、役の感情や感覚が生じてこない自分の身体感覚を傍らに感じながらも、私を取り囲んでいる役の世界をどう扱えばそれらが生まれてくるのか、そのつながり方を探ろうとする立ち位置に居た。

いわば、場面を分析したというよりも、その物語にいる自分を分析したと言って良いのかもしれない

役にアプローチすることは自分を深堀りすることになった。

そのきっかけは先生のこの質問。

「もし、私が役の人物と同じ反応をするのだとしたら、私にどんなことが起きたのだろう?」

この質問に答えるプロセスで私は人から認められる事に強い欲求があることに気づけた。

とっくにあきらめたつもりだったけど、どこかで自分の努力は報われないんだという寂しい想いを捨てきれていなかった。

ただ、抱きしめられ、暖かみを感じるだけで安心し癒されてしまうほどの凍えた部分を隠し持っていたんだと…

自分を知る

五感の訓練 触覚


「五感の訓練を実践してきていかがですか?」

「ずっと、自分は想像力やイメージすることに苦手意識があったのですが、身体感覚に焦点を合わせるコツがつかめてくるとイメージする力は鍛えられるんだ!と効果や成長を実感できるようになりました」

「それは良かったです。感情と身体が直結していることへの気づきは演技への自信を深めてくれるので継続していきましょう」

「はい!先生の言う、解像度の高い身体感覚のお陰か、感情が生まれてくる瞬間への感覚が敏感になってきた気がします」

「おっ、いいですね!」

「日常生活でもそうなんですが、例えば怒りとか自己嫌悪みたいなあまり感じたくない嫌な感情を避けることが割と楽にできるようになってきてます」

「素晴らしいじゃないですか!」

「ちょっと前なら既に起きてしまった感情を抑えこんだり、無理して隠したりしていたと思うのですが、今は、「あっ、このままだと落ち込む方に行きそうだ」という気配を早い段階でキャッチできるようになりました」

「キャッチできたらどうするのですか?」

「私の場合、嫌な態度や言葉を発したその人の意図を勝手に探って「あんなこと言うのはきっとこんなつもりだったに違いない、いや…」とえんえんと妄想をめぐらせていることが嫌な気分を引きずったり、膨らませたりしている原因だというのに気づいたんです」

「わかります。起きたことでは無く、その後のそれの扱い方ですよね」

「ですので、見方を変えて、「私の推測通りかも知れないけど、違うかもしれない。いずれにしても、人への影響も考える能力の無いあの人のために、私の大切な時間を後どれだけ使う?」って考えるとなんだか馬鹿馬鹿しくなって、無理なく思考が転換できるようになったんです」

「それ凄いですよ!」

「はい、今までも同じように気分を転換しようとはしていたと思うのですが、いわば、急降下に気が付いて初めて操縦桿を握ってコントロールに四苦八苦しているパイロットのようなものでした。機体に負荷を与えるし、あまり良い結果は得られず、かえって落ち込んだりしていました」

「ですね。感情をコントロールできない私って未熟と…」

「今は繊細なレーダーや計器類を備えているので、軌道のずれに早めに気づけて、ほんの小さな軌道修正で済む感じなのです」

「私がいつも主張している「演技力はなりたい自分になる技術でもある」とはそういう事なんです」

「まだまだ、だとは思いますが、少なくともある人物については苦手意識が無くなって楽に付き合えるようにまでなりました」

「すごいですね!」

微妙な軌道修正を可能にする繊細なセンサーたち

俳優の「触れる」を極めたい理由とは?


「さて、五感の訓練は触覚を取り上げたいと思います。そして、次回は味覚と嗅覚を同時に扱って五感の訓練は一旦終了としましょう」

「はい」

「そして、その次の週からはより実践的な訓練に取り組みたいと思います。その時に今の訓練の重要性をより実感して頂けると思います。もう少し地味な訓練が続きますが頑張っていきましょう」

「はい」

「実は演技指導する中で「触覚」は私が最も大切にしている感覚でもあります。理由が分かりますか?」

「なんとなくですが、私が合格発表の場面でもっとも強く影響を受けたのが温度だったので分かる気がします」

「そうだったんですね。触覚は雄弁です。全身に行き渡っている広大な感覚器官ですし、眼や耳と違って肌を通して直接外界や相手に触れられる感覚器官ですから」

「ええ」

「また、光や音あるいはイメージで見聞きした刺激も、結局は肌や内蔵などへ変化を与え、その身体的感覚の変化を環境の変化と捉えて脳にフィードバックをしているのですから大変重要です」

「なるほど」

「また、肌は理屈抜きで愛情や敵意を感じ取ります。100回「大事だよ」と言葉で伝えるより、1回の抱擁で安心しあえますよね」

「はい、そのイメージと感覚が効きました」

「理性ではなく本能的に役を生きたいのであれば、肌感覚は非常に重要ですので触覚について丁寧に考察を深めていきましょう」

「はい、よろしくお願いします!」

私は内心やたら素直な返事をしている自分に少し驚いていた

皮膚感覚を大切に

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