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目の使い方で別人になる秘訣part2 世界で一番やさしいスタニスラフスキー・システム㉒
懐かしい写真
「その写真を懐かしく見る事はできますか?」
「はい」
「どうでしょう、懐かしさを味わうことはできますか?」
「若い父や母、実家の玄関とか、実際、懐かしすぎるので簡単です」
「では、その写真を見る事であなたにどんな気分が生じてくるかをもう少し味わってみてください」
私は写真に見入った
見覚えのある母の服、
父の髪が黒くて多くてダサい…
玄関前で遊んだあの頃…
このドアを最後に閉めたのは…
「どうでしょう?今、何かしらの感情を感じられていたら、あなたが、今どんな目で、それを眺めているかに気がついてみましょう」
目のあたりが緩んでいるのが分かる…
呼吸もいつもより深い、
なんだか少し微笑んでいるかも…
「逆にそうした身体的な状態があなたの感情に影響を与えている事にも、ふんわりと気付いてみてください」
確かに、自分の身体的な状態にそっと意識をむけると、余計に懐かしさが増すのが分かった…
「では、その身体の状態、あるいは感情と呼んでも良いですが、その状態であなたは今、何をしているのでしょう?行動を探ってみてください」
「懐かしいという感情の状態で…、私は遠い過去に触れようとしているかもしれません」
「では、その行動を少し意識してみましょう。何か変化がありますか?」
「…取り戻せない時間という障害を感じて…郷愁や、感謝や後悔みたいな複雑な感情や感覚が生じてくるのが分かります」
「あなたは今、ある状況の中で、行動していると自覚できますか?」
「はい、身体に起きている事と、意志でしようとしている事を区別できます」
「では、今のその感覚のまま、その目の表情のままこの部屋を眺められますか?」
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身体感覚を維持したその見方で見る
なぜか、そのスタジオが懐かしく感じられた…
壁に貼ってある写真たちが愛おしいような…
「どうでしょう、何か感じますか?」
「はい、なぜか懐かしい感じや複雑な気がします!」
「この部屋を「懐かしい存在」として見るのに、何かしら幻想を見る必要や、何かに置き換える必要が無いのに気づけますか?」
「はい、確かに、なんだかこのスタジオに数年通っていたような気分です。これが、今、ココに、その存在を身体で感じて見るということですね」
「はい、あなたは今、単に表情を作っているのではなく、その目でこの部屋を懐かしい存在として扱うという行動をしています」
「なるほど…」
「その行動の結果として感情が生まれているのです」
「やはり、無意識にとって行動が最も説得力があるという事ですね」
「その通りです。では、その気分を正当化してみましょう。なぜ、そんなに愛おしくこのスタジオを扱っているのでしょう?」
「…はい」
「ストーリーを頭でひねりだす必要はありません、ひらめくのを待ちましょう…必ず、身体の状態にあった物語が、思いつくと思います」
「…私は、このスタジオを閉鎖するのだと思います…私は、どうも、ココで演技教室を長年やってきたようです…」
「…そうでしたか…では、今日は、どんな日なのでしょう…?」
「はい、今日は…このスタジオの、最後の日なのだと思います…」
と、言葉にするとなんだか急に泣きたくなってきた…
「いいですね、では、その状況でどんな行動をしそうでしょうか?」
「はい、私はこのスタジオを記憶に焼き付けようとしているのかもしれません」
「では、その物語の中でしたいように行動してみましょう」
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即興で演じる
私はサッシの枠に愛おしく触れながら
ゆっくりと窓を開けた
外の冷たい空気を鼻から吸う
パチンコ店のネオンと街の騒音に微笑んだ
小さく高い夜空を見上げる
ガラスの動物園のトムもこんな風に非常階段から夜空を
見上げただろうか…
壁に呼ばれている気がして室内に振り向く
痛みを予感しながら壁に近づく…
懐かしい写真たちが私を温かく出迎える
私は、その中の一枚をまるでかさぶたを剥すかのように
そっと壁からとった…
笑顔の女優さんと先生が映っている
なぜか、それを見ると、突然、先生は既に死んでいる様な気がして
涙がこぼれてきてしまった。
「いいですよ、そのまま、この物語に決着をつけてみましょう」
私は涙をふき、ティッシュを取り出し鼻をかんだ
窓をキチンと閉め、
袖幕まで行った
が、振り返り、
改めてガランとしたスタジオに感謝と別れを告げ、
振り切るかのように退場した。
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「はい、ありがとうございます!素晴らしかったです。私を殺してスタジオを廃業にして欲しくは無かったですがアハハ!」
「えっ…伝わってましたか?」
「もちろん、ああ、私は死んだんだろうなと伝わってきました」
「すみませんでした…」
「あなたは、このスタジオ全体をまるで大切な存在、しかし、お別れしなければならない存在として扱い続けてくれましたね」
「はい」
「その行動が、あなたに虚構を信じさせ、信じたからこそ、様々な感情、感覚、思考が生まれ、それに導かれて新たな行動も生まれ、物語も進行したのだと思います」
「やってて凄く楽しかったです」
「どうでしょう?これは合格発表の課題に使えそうな経験でしたか?」
「はい、今の経験を応用すればできそうな気がしてきました!」
「まるで~、」が引き起こすインスピレーション
「素晴らしいです!スタニスラフスキーはあなたが今使ったテクニックを「まるで~」(as if~・アズイフ)と呼んで重宝していました」
「まるで~…」
「はい、あなたは、まるで懐かしい部屋のようにこの数回通っただけのスタジオを見ました。まるでもう亡くなってしまった人物のように写真の中の私を見ました。まるで二度と帰らないかのように退場しました」
「はい、その通りです」
「そして、そのまるで~のようにの行動は確実にあなたに作用して、役が感じるであろう感情、感覚、思考を今、ココで、あなたの内側に生じさせたのです」
「ええ、そうでした」
「あなたがそれらの感情をどこか他所から引っ張り出してきたのではない事に気づいてください」
「なるほど、その通りです!過去や幻想など見ている暇はありませんでした。ただ、なぜか先生が亡くなった気がして、「後は君に頼んだよって」最後に言われたという物語さえ浮かんできてしまって…」
「アハハ!良いですね。別人になりきってますね」
「すいません、あまりにおこがましいですが…」
「もちろん、今の話は即興ですので何を思いついても自由です。ただし、筋書きがある場合にはやはりそれに沿った創造された物語が欲しいわけです」
「ええ」
「ですので、あなたがしたようにバスケ部を辞めた話を事前に準備しておいたのは素晴らしいです」
「はい」
「しかし、演技の際に懸命に創った物語を思い出すのではなく、行動を正確にしていれば、準備した物語は今のような自然な流れの中でよみがえってくる感じになります」
「そうなんですね」
「あるいは、事前に創ってた以上の深みを感じることもあるはずです」
「ひらめくのですね」
「はい、しかし、そうしたラッキーなひらめきは、入念な準備と正確な行動がなされている時にやってくるのであって、訓練や準備が必須だということに変わりはありません」
「はい」
「では、このまるで~、と小さな行動を正確にする事を使って、合格発表の場面をやってみましょう」
「はい!」
その場面を十分に演じられるという確信はまだ無かった。
さっきの即興とは違い筋書きが決まっているしラストの感情は相当ハードルが高い気がする…
ただ、何をどう試行錯誤するべきなのかが少し見えていた。
この枠組みが見えるという事は私をことのほかワクワクさせた。
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【編集後記】
いつもお読みくださり誠にありがとうございます。下記の動画は「みんなの演技力を劇的に向上させるスタニスラフスキー・システムの本当の使い方」という動画教材の一部です。
今回の視覚についての学習や訓練が動画を見ながら自宅で可能です。
有料で販売中の教材ですので全てという訳にはいかないのですが一部を公開していく予定です。
今後、その他のコンテンツもYouTubeにアップする予定ですのでチャンネル登録や高評価の程よろしくお願いいたします。 アクティングコーチ田中徹
俳優の環境を少しでも良くする一助になればと頑張ります。よろしければサポートお願いいたします。より、分かりやすく、役立つお話を創る原動力にさせて頂きます!