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目の使い方で別人になる秘訣part4 実践とまとめ 世界で一番やさしいスタニスラフスキー・システム㉔ 

サイドコーチに合わせてスローモーションで行動するレッスン


「では合格発表の場面を再演して頂きますが、途中、私が横から小声でささやいても良いですか?」

「はい…?」

「いわゆるサイドコーチというものですが、私がささやく全ての指示をこなそうとする必要はありません。あなたに響くモノがあればそれに導かれてみてください」

「分かりました…」

「また、一瞬、一瞬をじっくり、ゆっくりと意識しながらやってみましょう。日常では気にも留めなかった瞬間に、私たちは、何を、どう行動しているのか、に気づくことにもつながるかと思います」

「日常では気にも留めない瞬間…」

「そうです。このようなゆっくり練習を繰り返し、小さな行動を身体に落し込む事で、実際に演じる時にはどんなテンポやスピードを要求されても、小さな瞬間を取りこぼすことなく、全ての行動を有機的な繋がりの中で流れるように実行できるようになります

「はい」

「では、演じる準備を整えましょう。準備が整ったかもと感じたら手を挙げて下さい。あなたの手があがったのであれば私は開始の合図に手を叩きます」

「分かりました」

行動の動機を身体に感じるために、先ず前提の事件をありありと想像してみましょう。五感を伴う臨場感あふれる想像で、あなたの身体に実際に変化が起きるのを目指しましょう」

私は鉛筆の走る音に耳を傾けた…
その音に囲まれながら、
埋まらない答案用紙を睨み付けている私…

このイメージはまたもや私をどん底に突き落とし
自分が敗北者だとの気分を確信させてくれる…

「前提の事件を経験出来たのであれば…
向こうにある掲示板の存在を感じて見ましょう…」

掲示板を遠めに眺める

「あなたは、そんなにも憧れているのに、
なぜか、あなたに、よそよそしく、距離をとっている…
そんな葛藤を感じさせる存在に見えるかもしれません…」

その葛藤を感じると、同時に
様々な人達の顔が目に浮かんできた…

大好きだった部活のみんな…
毎晩、夜食を運んでくれた母…

胃のあたりに緊張を感じる
消えてなくなってしまいたい…

「でも、結果は…まだ分かりません…」
「「まだ、分からない」と自分を励ましてみましょう」

私は「まだ、分からない」と言い聞かせ
笑顔になろうとすると、またもや、
泣きそうな気分が増してきた

役の目的を自分事に感じられるように唱える


「では、噛みしめるようにあなたの目的を唱えてみましょう」

「私は、あなたに 私が あなたの期待通りかどうかを 教えて欲しい」

「祈るような想いが、あなたの中に、あるのに気づけるでしょうか?」

か細い、でも強烈な想いがあるのを自覚できる…

「と、同時に不合格の瞬間に経験するであろう痛み
に備えている身体を感じてみましょう

引き裂かれる感覚がつかめると
自分が演じる準備が整ったのが分かる

状況が身体に感じられる
そして、何をしてもらいたいのか…
目的も身体で感じている

私は静かに手をあげた

前提の事件を想像で経験し動機に火をつける

障害の乗り越え、葛藤を感じながら正確に行動する


1枚目の掲示板に恐々と近づく
もちろん、表情は平気をよそおいつつ…

030020で終わっている
私の番号は030032

合否は隣の掲示板で明らかになる…

隣の掲示板に移動する
しっかり!と自分に言い聞かせながら…

番号を探す慎重な目の運びに
身体の緊張感も高まる

そして…
私の番号らしきものを見つけた!

緻密な行動の連鎖へ


瞬間の行動をおろそかにしない


「その番号から目をそらさないで、
あなたを全肯定する存在に目が釘付けになってしまうのに気づきましょう…

まるで目がその番号に吸い込まれそうになっているのに
抗っているのかもしれません

目が見開き、その番号を目に焼き付けようと
しているのかもしれません…」

時間が止まった感覚がする
心も身体もフリーズしているのが
むしろ自然な感覚…

何かが身体の内側からこみ上げてくる
目が潤む、

「まだ、喜ばないで…
涙を涙腺の奥でせき止めて…
あなたは、ぬか喜びしたくないのです…」

「あなたの身体はショックに身構えていました…」

「その身体の緊張を直ぐにはほどけはしないのです…」

「もう、頭は確信しているかもしれません…
既に爆発しそうな喜びが身体にはあるのかもしれません…
しかし、それをおさえて番号を受験票で確かめて
見ましょう…」

私は、もどかしいくらい1つ1つ確実に数字を追った

0…
3…
0…
0…
3…

2!

私の番号!

「この瞬間を抱きしめましょう」

すると、私は誰かに抱擁されている感覚がした
あなたは正しかったのだよ…と…

理屈ではなく、私の身体の熱さで思い知った…
全ての犠牲が報われたと…

ああ、私の罪悪感と劣等感の全てが溶けていく

友達が駆け寄ってくる
合格だったようだ、
その笑顔を見れば分かる…

「合格したよ!」と彼女と喜びを共有しようとすると
とたんに嗚咽がこみ上げてきた

想像の友人と抱き合いながら
涙が次から次へと溢れてくる

母の顔、仲間の顔、
体育館に響く…
バッシュがコートを弾く音
ホイッスル…

全てが報われた瞬間を味わう

演技の振り返り


「はい!ありがとうございます!非常に素晴らしい出来でした。あなたはどう感じましたか?」

「ありがとうございます…努力や犠牲が報われて自分の存在を全肯定されたという経験が本当にできた感じです!」

「良かったです!演じているという感覚はありましたか?」

「いえ、全くありませんでした。誘導されていたとはいえ、全ての行動が、つながっている感じで正に経験したという感じです」

あなたは役の人物でしたか?それともあなた自身でしたか?

「うーん、難しいですね…全ての素材は私でしたし、わざと作り出したり、絞り出したりしたものはありませんでしたが…」

「では、あなたそのものですか?」

「いえ、アレンジが違うというか…。あっ!こういう事かもしれません!私は私に変わりないのですが、色眼鏡をかけているので、世界が違って見えてました…

「なるほど」

「…で、世界が違って見えているから、私なりの反応ではあるのですが、眼鏡をかけていない時とは、全く違う感情を抱いて、その結果、全く違う行動をしてしまっているという感じですかね…

「では、別人の人生を経験しながらも、何も演じる必要なく、全てがあなたの中から生まれてきた感じですね」

「はい!そういう事だと思います!まだまだ一人でやれる自信は無いのですが…」

「そう、欲張る必要はないです。先ずは理想の場面が出来たことを喜びましょう」

「はい!今まで自分がいかに曖昧なイメージを追いかけて演じていたのかが改めて分かった気がします。今、やってみて、まさに行動を正確に積み重ねる技術が役を生きるのに重要なのだと思いました」

「ですね。基礎的な訓練の重要性を今の実践を通して理解して頂けたかと思います。さらに、行動への洞察や再現力を高め、身体的な感覚を自在に操るためにもさらに触覚、味覚、嗅覚と進めて行きましょう」

「はい!よろしくお願いいたします!」

私でありながら別人の人生を生きる


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