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standのこれまで - 01|日本の生地産地、発展と衰退の本当の理由。「stand」の思い。

丁寧な暮らしを求める人が増えつつある最近では、日常的に袖を通す衣類に関しても、オーガニックコットンのものを選んだり、国内生産品などにこだわりたいという人も、少しずつ増えてきているのではないでしょうか?

しかし、衣類選びの際に私たちは本当の意味での「産地」を理解して購入しているでしょうか。そもそも、「国産」とは何か?生地の産地のこと?縫製工場の場所のこと?など、ほとんどわからないことだらけの中でタグに記された「〇〇製」という言葉だけを頼りに選ばざるを得ないというのも実情です。

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そんな中、ものづくりの街台東区浅草橋にオフィスを構えるリブルスは、アパレルのOEM企業として30年、そしてオリジナルブランド「stand」として5年前から国産生地を使った服作りをしてきました。

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ーー社長の浦さん。30年以上の長きに渡り、OEM企業として産地とアパレル業界、双方の移り変わりを目の当たりにしてきました。

繊維業界はこの100年でどのように移り変わってきたのか。生地卸、OEMを経て、国産生地産地を応援したいという思いからアパレルブランド「stand」立ち上げた経緯についてお伝えしたいと思います。

国産生地の出発点は海外への輸出産業として

生産量が落ち込みながらも、今なお海外のハイブランドからも愛される品質の高さを持つ日本製の洋服の生地。そこには、かつて海外からの下請けとして生地生産に取り組み、発展してきた過去があります。

明治以降、西洋文化流入に伴い、洋服の生地製造技術が日本に伝わるようになると日本では生地の生産・輸出が盛んになり、その生地は瞬く間に海外で高い評判を得るようになりました。

当時、日本産の生地は「安価なのに風合いが良く、品質の高い生地が上がってくる」こと。そして、染めロットや加工ロットが変わる(一度に製造できる量を超え、2度目の製造になる)と微妙に色や風合いに違いが出てしまうことがありますが、そういった「色のブレも少なく、極めて正確であること」が高く評価されていました。

ものづくりに対する几帳面な国民性と、その品質の高さで日本産の生地は海外の作り手から愛されるようになり、生地職人はさらに腕に磨きをかけていくことになります。

さらに、対海外だけでなく、自国のアパレル産業においてもその素養を発揮します。海外から生地が輸入されはじめた当初、実は日本ではそれらの生地は広く普及しませんでした。イタリア製の生地などは確かに風合いも肌触りも素晴らしいものですが、手洗いや専門店での繊細なケアが必要不可欠。さらには、乾燥して汗をかきにくいヨーロッパと、湿潤な日本では衣類を洗う頻度も異なるため、なおさら良い状態を維持することは容易ではありません。

一億総中流な日本においては、「洗えない服は売るな」と、手入れにお金や時間を要する高級な生地は受け入れられなかったのです。

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そして百貨店など売り手も、生地そのものの品質だけでなく、そういったケアのしやすさを考慮した物性(衣類の強度や外観変化など)の基準を設ける必要があるため、どんなに良質なものでも手入れに手間やお金がかかる生地は選ばれず、簡単には店頭に並ばなかったと言います。

そこで日本の生地産地は試行錯誤の末、ヨーロッパ製の生地のような風合いや質感を保ちつつ、洗濯や手入れも簡単な生地を作ったのです。海外から取り入れた技術をそのまま習得するだけでなく、自国に合ったものにブラッシュアップする。そうした生地産地の職人の努力が日本の繊維業界全体を支えてきたのです。

生地産地、本当の意味での「衰退」とは

しかし、時代は移り変わり、大量生産大量消費の安価なファストファッションが台頭するようになると、業界全体が「品質重視」から「コスト重視」に傾いていきます。

当然、それまで「品質の高さ」を評価されてきた国産生地は大打撃を受けることになります。安価な海外製の生地に需要を奪われると、売り上げが低迷するだけでなく、もう一つの大きな問題が。

それは、安く品質の劣る中国産生地が市場の大半を占め、使われ続けることによって、消費者だけでなく作り手であるデザイナーでさえも、「本当に良い生地の質感に触れる機会」を失っていくということでした。

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「服を作る現場では短い期限の中、第一印象を決めるデザインにほとんどの時間が使われています。次々に新しい「いま」を感じることのできる服を店頭に出していくために、生地のことを深く考える時間は削られてしまっているのです。いくら生地産地が面白い技術や加工でできた生地を提案しても、すぐに使えて物性(堅牢度や強度など)が保証されている生地でないと使うことができない。デザイナーと生地屋が一緒に試行錯誤しながら生地を作っていける環境は、かなり少なくなりました」と、語るのは企画営業の内藤さん。

そのような状況の中で本当に良いものを知る「作り手」と「使い手」が減ると、毎シーズンのように衣類を使い捨てる、まさに大量生産大量消費のサイクルに。アパレル業界の商品開発サイクルは早まり、良いものを長く着る文化が失われたことで、生地の品質には重きを置かれなくなっていってしまったのです。

そんな苦しい状況でも、生地卸(アパレルメーカーに国内の生地を卸す問屋)でもあるリブルスの元には、国産生地の産地から新しい生地の懸命に売り込みがきていたと言います。

「産地が懸命にいい生地を試作しても、その生地が使われた実績がないとアパレルメーカーは買ってくれません。だから服にならない。そして「使い手」の元に届かない。それは日本の産地の声が届かないということです。この状況を少しでも変えるために、新しい素材や技術の実績を作りたい。そして、生地を「使い手」の元に届けようと立ち上げたブランドが「stand」だったんです」

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第2話目では、国産生地の魅力とstandの奇跡をお伝えします。


記事・撮影|小泉優奈


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