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顧問税理士が知っておくべきM&Aの会計・税務~(その3)取引価額とは?

今回は取引価額について解説します。株式譲渡を前提とすると、取引価額は専門用語では“株式価値”と言います。企業価値と書かれた出版物も散見しますが、本稿では“株式価値”を用いることとします。

株式価値の算定手法は様々ありますが、中小企業のM&Aでは、時価純資産額にのれんとして営業利益の3年分程度の金額を乗せた金額を取引価額とすることが多いです。
なお、これは相続税評価額とは異なるものであり、M&Aでの株価評価で相続税評価額を用いることは基本的にはないと言えるでしょう。

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下記4は取引価額の計算例です。時価純資産は、簿価純資産額をスタートとして、資産の含み損益や簿外債務を加減算することで算出されます。

調整項目の考え方ですが、上場会社が買い手となるケースを除いては、会計基準や税法よりも経済的実質つまり今後のお金の出入りを基準に考えます。本例では、回収不能売掛金5百万円を調整項目としていますが、この判断基準は税務上の貸倒引当金や貸倒損失の計上基準ではなく、実態ベースで今後の回収見込みがほとんどないことに基づいて調整しています。また、予想クレーム対応費用は、今後発生するであろうクレーム対応に係る見積り費用であり、確定債務ではないため、損金算入要件を満たしませんが、キャッシュアウトが見込まれれば純資産の調整項目となります。
このように調整した結果、時価純資産は70百万円となり、これに過去3期の営業利益の平均値である10百万円×3=30百万円をのれん代として加えた100百万円が取引価額となります。

顧問先から相談を受けた場合には、簿価純資産を基準に、わかる範囲内で資産の含み損益を調整して時価純資産を算出し、直近の営業利益を3倍した金額をのれん代として加算することで簡易的に株式価値を試算できるでしょう。

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