落ち着いているけれど退院できない人
入退院を繰返しているAさん。
病棟内では何の問題もなく過ごし、時に他患のお世話もしてくれる。
といっても今は患者に他患のお世話をしてもらったり、掃除の手伝いをしてもらったりすることは保健所からダメといわれるため、見守りや声掛けや何か異変があればすぐに職員に教えてもらうという程度である。
普段は言わないものの、ごくまれに思い出したように「退院したい」と言うことがある。
病棟内では何の問題もなく、穏やかで身の回りのこともしっかりできるため、実際に何回か退院をしている。
しかし退院して数か月も持たずに状態が悪化する。
定期的に通院し服薬もしっかりしているものの、それでも外の世界では刺激が強すぎるのか、次第に落ち着かなくなり、眠れなくなり、動き続け、金遣いが荒くなり、家族や近所の人に攻撃的となり再入院となってしまう。
前回の退院時には、多額の借金を作り、部屋で火遊びをして入院になった。
入院すると1ヵ月も経たない内に落ち着き、退院前の本人の状態に戻る。
そしてたまーに「退院したい」と言い出し、退院は無理だよという説明に納得せず退院請求をすることもある。
当然ではあるものの、家族はもう退院はさせたくないと思っている。
退院請求で見に来た人は落ち着いている本人を見て、退院できるのではないか?退院するためにもっと病院は努力するべきなのではないか?ということを言ってきたりする。
審査に来た精神科医はこういった人たちを一杯見ているので、「今は落ち着いているけれど、なかなか退院させずらいですよね」と理解するものの、法律関係者や福祉関係者は「今落ち着いているんだから退院できるんじゃないですか?」となる。
退院して本人が不安定になったときに、家族が金銭的・時間的・心理的な負担を全く負わなくて済むなら、今までの経過は考えずに今良くなっていれば即退院させればよい。
本人が不安定になれば、近所の人、友人、知人、警察などは、家族に「何とかしてください」「病院に連れて行ってください」「家族でしょう」と言い出す。
本人が起こしたトラブルを「家族でしょう!」「あなたたちは悪いと思ってないの!」と家族にしりぬぐいをさせようとする。
「退院できるんじゃないですか?」と言った法律関係者や福祉関係者は何ら力になってくれない。
力にならないどころではなく、退院した後 その人が落ち着いて過ごせているかどうかにすら興味がない。
重要なので繰返す。
退院して本人が不安定になったときに、家族が金銭的・時間的・心理的な負担を全く負わなくて済むなら、今までの経過は考えずに今良くなっていれば即退院させればよい。
今の日本は、欧米のように精神科の治療を受けさせる・受けさせないは個人と社会の問題であって家族は無関係であると割り切れてもいない。
今の日本は、他のアジアのように家族は親戚一同が関わり面倒をみるという体制はすでに崩壊している(おそらく今後他のアジアの多くも崩壊していく)。
この状況では、今は落ち着いていても、退院させるとしばらくすると不安定になり、家族に大きな負担をかける可能性が高い人は退院を躊躇せざるを得ない。
これが日本の精神科病院の入院期間が長い理由の一つである。
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