見出し画像

抗うつ薬の併用はしない。しかし例外はある。

私は基本的に抗うつ薬を併用(=2種類以上使用)をしない。

併用することで、うつ病に対する効果が高まり、難治性のうつ病が改善する可能性がある。

しかし併用することの弊害は大きい。

併用することの弊害

1)副作用が増える

薬は量が増えれば増えるほど、種類が増えれば増えるほど副作用が多くなっていく。

一つ一つの副作用は許容できる範囲だったとしても、2種類、3種類と増えるうちに、許容範囲を超えていく。

2)副作用と効果の区別がつかなくなる

併用した途端に眠気や倦怠感などが強くなれば、副作用であることはすぐに分かるものの、しばらく使ってから副作用が目立つようになったときには、副作用なのか症状なのか区別をつけることは難しくなってしまう。

すぐ疲れる、体が重い、頭が働かない、集中力がない、物忘れが多いなどの「症状」が、うつ状態に伴う症状なのか、薬の副作用なのか分からなくなってしまう。

この差を見極めれることができる医師は併用してもいい。

(私を含めた)見極めることができない医師は併用は避けるほうがいい。

実際に多くの種類の薬を飲んでいた人が転院してきて、薬を減量・整理するだけで「うつ状態」が改善する。もちろん減量・整理が失敗することもあるので何でもかんでも減量すればいいというものでもはない。

少なくとも全く良くならないうつ病の人は薬を足すのではなく、まず整理することから始めるべきである。

3)まれに躁状態になる

抗うつ薬の併用は非常にテンションを上げる作用が強くなるため、もともと双極性障害(躁うつ病)の素因を持っている人は、上がりだすとあっという間に躁状態になってしまう危険性がある。

躁状態になる危険性をしっかりと説明し、元気になってきたらすぐ受診する、元気で睡眠時間が普段より2時間短いことが2日続いたらSSRIやSNRIをやめる、などの注意点が守れる人でなければ危険である。

4)併用でしか良くならない人はクリニックで見るべきでない

もちろん抗うつ薬を併用しないと改善しない難治性のうつ病の人は存在する。

しかしそこまでの重度かつ難治性のうつ病の人は、入院治療が可能な精神科病院での治療が望ましく、クリニックでの長期間の併用は禁止にするべきである。

ということで私は基本的に抗うつ薬の併用はしない。

ただ全くしないというわけではなく、併用することもある。

以下の薬は他の抗うつ薬と併用することで、うつ病の症状の改善が期待できる。

ミルタザピン(®リフレックス)

<期待する効果>
睡眠の質の改善
食欲改善

<薬理作用>
モノアミンを他の抗うつ薬とは別ルート(α2拮抗作用、5HT2c拮抗作用)で増加させる。

特にSSRIやSNRIとミルタザピンの併用は、薬理的な作用が大分異なるため、効果が不十分のときに期間を決めて併用するのは非常によい選択肢の一つである。

実際 難治性のうつ状態の人も、ミルタザピン30㎎+ベンラファキシン150mgなどの処方で改善していくこともよく経験する。

SSRI:パロキセチン(パキシル)、セルトラリン(ジェイゾロフト)、エスシタロプラム(レクサプロ)、フルボキサミン(デプロメール)
SNRI:デュロキセチン(サインバルタ)、ベンラファキシン(イフェクサー)、ミルナシプラン

トラゾドン(®デジレル)

<期待する効果>
睡眠の質の改善
悪夢の軽減

個人的にはうつ状態を改善させる力はほとんどないと思っているものの、睡眠薬では改善しない不眠に効果があることが多い。

<薬理作用>
多くの抗うつ薬の作用であるセロトニン再取り込みポンプ阻害は弱く、セロトニン2A受容体を強力に遮断する。

スルピリド(®ドグマチール)

<期待する効果>
食欲改善
早期のうつ状態の改善

<薬理作用>
少量でシナプス前ドーパミン2自己受容体を強く遮断する。

抗うつ薬では無く抗精神病薬に分類されるものの、少量で食欲を改善したり、うつ状態を早く改善することができる。

長期間使用するのはあまり好きではないものの、治療初期に25-50mg使用すると非常に効果的である。100mg以上使う医師もいるものの、錐体外路症状が増加するため避けるべきである。
内科から紹介されてきた無表情で動きがあまりない人はスルピリドや胃薬などによる錐体外路症状の副作用であることがよくある。

抗うつ薬の種類変更のときに、一時的に併用状態となる

急に前の薬を止めて次の薬に変更すると、前の薬の離脱症状が出て急激に状態が悪化することがある。

それを防ぐために前の薬を減らしながら、次の薬を開始することは良くある。

薬の変更途中に急激に良くなったときに、それ以上薬を変更することを本人が嫌がり、そのままになってしまっていることがまれにある。

抗うつ薬の併用は基本的にしない。

その原則は守られるべきである。

しかし例外はまれにあるということを強調しておきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?