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多剤併用・大量使用が続いてしまう要因

抗精神病薬の多剤併用・大量使用は大きな問題である。

特に日本では多剤併用・大量使用が多いと言われている。

これには様々な要因がある。

医師側の要因

1)医師の裁量権が強すぎる

かなりひどい処方でも認められ、保険も切られない。

この裁量権は制限の多い医療制度のなかで、適切な医療を行うためにある程度は必要なものであるものの、不適切な医療が許容されるという問題も抱えている。

2)「上手い」多剤併用が精神科医の技と見なされていた

色々な薬を上手く組み合わせて精神的に安定させることが、上手い精神科医の技と考えられていた時代があった。

上手い精神科医は、少量の向精神病薬を微妙なさじ加減で組み合わせるという、多剤併用を本当に上手にすることができる。

下手な精神科医は多剤併用に手を出さないほうが良いものの、下手な精神科医に限って自分では上手いと勘違いして多剤併用に手を出してしまう。
皮肉なものである。

3)治療の正当性や客観性が評価されていない

エビデンスではなく自己流を続けてしまう。

残念ながら医学はなかなか厳密な意味でのサイエンスになりづらい。

治療法Aで良くなったときに、その人は治療法Aのおかげで良くなったのか、勝手に良くなったのか、何もしなければ本当はもっと良くなっていたものの治療法Aで少し悪くなったのか、区別することは困難である。

多剤併用をする医師は、多剤併用をすることで良くなる人を結構 目にすることになるので、自分のやり方を継続してしまう。

4)調子の悪い人をずっと担当し続けないといけない

精神科の大きな特徴の一つとして、どんなに重症でも精神疾患で死ぬことはほとんどない。

そのため重症の人たちが自分の担当する長期入院として増えていく。

調子の悪い人を毎日毎日見ていると「何とか良くならないか?」「もう少し薬を増やしたら良くなるのでは?」と思ってしまう。

5)多剤併用・大量使用にすると良くなる人が確実に存在する

単剤では安定しなかった人が2種類目の薬を追加すると、良くなる人たちがある程度の割合でいる(上記3参照)。

それはプラセボ効果なのか、鎮静作用なのか、たまたま良くなる時期だったのか、分からない。

しかしそういう経験をするとついつい薬の追加をしたくなってしまう。

6)多剤併用・大量使用中の人を少しでも減らすと悪化する

長期間安定している多剤併用・大量使用をしている人の薬をほんのわずかでも減らすと、あっという間に悪化してまうことが良くある。

これは減量や整理の仕方の問題であったり、過敏性精神病の可能性であったりするものの、多剤併用・大量使用がどうしても必要な人たちが存在すると思ったりしてしまう。


患者や家族側の要因

1)薬ですべて解決して欲しいと期待してしまう

困ったときに病院に行き相談すれば、何でも解決してくれると思っている人たちが多い。

現実的にはそんなことはない。

上手くいかず悩んでいる人
不安になっている人
イライラが強くなっている人
眠れない人
病院で相談することは悪いことではない。

しかし病院で薬ですべて解決して欲しいと期待することは極めて危険である。

あえて厳しい言い方をする。

あなたの悩みは薬を飲めば治るほど単純で簡単なものですか?

2)ドクターショッピングをしてしまう

今の医療制度は、どんな病院でも、何か所でも受診しても保険が適応されることになっている。

病院を何度も受診して良いため、不安になる度に、困ったと思う度に、何度でも、夜中でも、休日でも受診してしまう。

始めは丁寧に応対し薬が増えないように努力していた医師も途中から嫌になる。

話を聞くだけでは金にならず、本人も薬を出してもらえず不満に感じ、診察での押し問答の時間が長くなり、その日は引き下がってもすぐに受診し同じやり取りをする羽目になる。

結局 本人が求めるままに本人が訴えるたびに薬を増やしてしまう。

良心的に説明を繰返し薬を出さない医師は存在するものの、本人は不満を感じ「真面目に取り合ってくれないひどい医師だ」と別の病院に行き薬をもらってしまう人が多い。

多剤併用・大量使用への対策

2種類目の抗精神病薬は無条件で保険適応外にする
多剤併用・大量投与の減量法の習得を精神科専門医の資格の要件とする
などの、現実的な対応を取る必要がある。

多剤併用・大量使用は、医師の無知や怠慢だけから起こるものではない。

様々な要因が影響しており、これらの要因を一つ一つ解決・改善させるための方法や制度を作り、意識づくりをしていかない限り、なかなか解決していかない問題である。

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