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中野七頭舞 岩泉高校郷土芸能同好会

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 彼らが継承するのは、いまや全国に愛好者やファンが大勢いる小本地区中野の伝統芸能「中野七頭舞」。その魅力はなんといっても全身を使って踊り上げる躍動感だろう。1000メートル全力疾走に相当するというハードな動き。それぞれの振りは異なるのに、全体を見ると一体感があり、輪になったり整列したりと次々並びが変化して、どこを切り取っても飽きることがない。表現されているのはかつてこの地で暮らしていた農民たちの姿である。

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 その昔、小本地区は夏にオホーツク海から吹き込む「やませ」で作物が育たず、大飢饉に見舞われた歴史がある。ちょうどそのころ、宮古に伝わる黒森神楽のシットギ獅子の舞い込みを基に、五穀豊穣の祈りを込めて創作したと伝えられている。

 踊り手には七つの役割があり、舞も七種類あることから七頭舞の由来になった。災害に負けず原野を切り拓き、作物を育てて収穫に喜ぶ農民の、たくましく生きる姿が踊りの根底にある。

江戸時代から多くの人を魅了してやまない七頭舞は76年に保存会が結成され、その後、地元の小本小学校でも取り組むようになった。保存会では毎年2泊3日の講習会を行い、間口を広げているため全国から受講希望が殺到し先着順という人気ぶりだ。


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 岩泉高校の郷土芸能同好会は1999年に発足し、この年の全国高校総合文化祭・郷土芸能部門で優秀賞に輝き、東京公演の舞台に立った。以来全国大会は8回、国立劇場は2回出場。14年には優秀賞・文化庁長官賞を受賞してパリ公演も行っている。

現在2、3年生は27人在籍するが、岩泉高校の2学年は総勢39人、3学年は49人と小規模校の中でこれだけの生徒が集まっている。

彼らは学校の方針で部活動もしながら、同好会の活動を週2回行っている。最盛期は大会が重なることも多く、両立は大変になるが誰一人として七頭舞から離れる生徒はいない。

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 副部長を務める箱石航星は陸上部に所属。やり投の選手として活躍しながら郷土芸能にも力を注ぐ。

「自分自身も踊るのが楽しくて。地域の人たちが踊りを見て笑顔になってくれるのが何よりうれしい。だれもが知る踊りになるようにもっと広めていきたい」

 小本小学校から踊り始めた箱石は、中学生のときに保存会に入り広報活動にも意欲的だ。七頭舞の七つの道具の中の「先打ち」を持ち、先頭に立って喜びを表現する表情は生き生きとオーラを放っている。

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「踊りのうまさが必要」と顧問の阿部恵子先生が言う『ササラスリ』の笹を持って踊るのは同じく副部長の三上祥穂。七頭舞は高校から始めたが、一輪車の全国大会で3位入賞の実力を生かし、しなやかでどこか愛らしいササラスリを舞っている。「踊りと一緒に岩泉の魅力も発信していきたい」と三上は話していた。

 昨年はコロナ禍ですべての公演が中止になり、それぞれの思いを果たすことはかなわなかった。しかし生徒たちはボランティアを提案し、地元の特養老人ホームのお年寄りに喜んでもらうため、室内からガラス越しに見られるよう駐車場で踊った。見る者だけではなく生徒にとっても充実した時間となった。

 変わりゆく時代の中で中野七頭舞はずっと変わらず人の心を支えている。今年の1年生たちにも伝承されていくことだろう。

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