『深夜高速バスに１００回ぐらい乗ってわかったこと』 記事の思い出 （スズキナオ） その３
朝日新聞「天声人語」でも紹介されるなど話題となり、現在までに5刷と大好評の『深夜高速バスに１００回ぐらい乗ってわかったこと』（スタンド・ブックス）。
著者・スズキナオさんが、収録の全6章29編についての思い出を語ります。
各章ごとに6日連続公開、第三章です！
(前回の第2章はこちら）
第3章 目的地まで移動してる時というのは、人間にとって一番の許された時なんじゃないかーー旅
⑩ “たこせんべい”の楽園 明石～淡路島たこせんの旅
何も調べずに出かけて長い距離を歩き、なかなか心細い旅だった。その後、明石と淡路島を結ぶジェノバラインに何度も何度も乗ることになるとは、この時はまだ知る由もなかった。
今、私の荷物の中に合計何枚のたこせんがあるのだろう。１０００枚ぐらいあるかもしれない。近くのベンチに座って食べ比べてみる。大きく切られたタコが入っていて、さっぱりしつつもあとを引く塩加減に抑えてあるもの。 少ししょっぱめで、お酒のアテに最高だろうなというもの。 塩気は控えめで、そのかわりタコの風味が非常に濃厚なもの。と、それぞれに個性があり、食べ比べが楽しくて仕方ない。１枚１枚はそれほど厚みもなく、サクサク食べれるので止まらない。海を渡り、今、私は淡路島でバリバリととめどなくたこせんを食べている！（143p）
沈みゆく太陽と、丸いたこせん
タコ看板がいたるところに
⑪ 六甲山系の登山道を自力で整備した「えっちゃん」のモダン焼きを山頂で食べる
記事を読んでくれた方が同じコースで山頂を目指してくれたりして嬉しかった。店主の深田さんはその後、膝を悪くされ、しばらくお店を閉めて治療に専念。復活は間近と聞いている。全快を祈願して改めて山頂まで登った際、深田さんが整備用の丸太を集めている場所にたどり着いた。そこで見た丸太の大きさ、びくともしない重さに圧倒された。
ーー深田さんがあの山を一手に引き受けてるっていう感じですね。
深田さん 頂上の見晴らし台の少し下にもベンチがあったでしょう。そこに座ってるおっちゃんがいたら「それがえっちゃんや」ってネットに書いてあるらしいで。
ーーハハハ、都市伝説みたい！（155p）
深田さんが照れながら見せてくれた力こぶ
「エマニエル夫人」と深田さんが呼んでいるベンチ
⑫ 三重の離島にある「ロンク食堂」で旬の魚とゆるやかな時間を味わう
答志島の路地裏は独特の雰囲気があった。あれ以来、よく「こうしている今もロンク食堂は営業しているんだな」と思い出す。伊勢志摩には離島がたくさんあって、あちこちめぐってみたいと思っている。
フェリーがするするとやってきて、あっという間に私は船上の人となった。お昼にロンク食堂を訪ねた時、神社でいただいた梛の葉っぱに気づいた静代さんが、ティッシュを水で湿らせてラップでくるんでくれた。
それを見た鶴枝さんが、「凪っていうのは、波が穏やかなこと。いい日のことです」と言ったその言葉を、船の上で思い出した。（169p）
海を見ているだけの時間
めひびがどっさり入ったうどん
⑬ 瀬戸内の海小屋で漁＆自炊「四つ手網」体験記
岡山の地域情報サイトの編集に携わる方がこの記事で四つ手網を知り、取材に行ってくれたりしたらしい。地元の方でも知らない人が案外多かったという。岡山にはまだまだたくさん面白いものが、ひっそりとある気がしている。
小屋の中で賑やかに飲み食いしながら、ボタンを押すとその時どきのタイミングで海の幸が手に入る。そしてそれをいろいろな食べ方で楽しみながら引き続きワイワイ過ごす……のん気で満ち足りた時間。私はずっとこういうことがしたかったのかもしれないと思う。（182p）
小屋の右側に見える網で魚介類をすくい上げる
今度は大きな魚がかかった！
⑭ ジャンボフェリーはもはや海上の酒場だ
その後も何度も乗っている大好きなジャンボフェリー。乗る度に船内で流れるジャンボフェリーの歌が脳裏にこびりつき、３日間は抜けない。元記事が掲載された雑誌『酒場人』が船内の売店に置かれているのを見つけて嬉しかった。
これもまた行きの船では食べそびれていた、船内のうどんスタンドの「オリーブうどん」をすすってみる。小豆島産オリーブオイルの上品な香りがふわっと立ち上がり、うどんはモッチモチ。高松で食べたうどんももちろん最高だったが、船内で食べるうどんもまたやけにおいしい。（189p）
ジャンボフェリー名物だという「オリーブうどん」
フェリーこそが理想の移動式酒場なのではないか
『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』店舗限定購入特典ペーパーのための書き下ろしに、大幅に加筆・修正を加えた。
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