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空中日記|09.28-10.04

9月28日(月)

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土曜は鷹ノ巣山に行ってけがをした。足がほんとうに棒になって、棒だからまともにあることことができない。それで1日くたばっていたいけど、BONUS TRACKの仕込みがいよいよ佳境のため、たくさんの連絡を打ち返す打ち返す。たくさんの連絡をさばくことが思えば一番精神を不調に導くのだけど、打ち返す打ち返す。

お昼。何かとんでもない冒険に出かけるような決死の覚悟でセブンイレブン。右の前十字靭帯と両方の四頭筋が死んでいる。かつどん。セブンのかつどん700kcalで想像していたより高くない。とはいえそこそこの数字だ。どうでもいい味をどうでもいい感じで食べたいきぶん。足が棒だからなんだか少し投げやり。

夜、オンプラ。自転車日和だけど地下鉄で行く。昨年NYからの帰りの飛行機のどこかでなくしてしまったKindle Oasisをあらためて買って、そのクラウドの購入履歴から召喚した武田百合子『犬が星見た』をいれて読む。紀行日記なのに、どこを引用してもいい感じになるような、やっぱりこの人の文章はとんでもないなあと思う。目がすごい。ずっと世界をきょろきょろと見続けていて、自分の情緒の中に浸るひまがないような感じ。好きな書き手の能力を神さまがくれるよ、といったら「武田百合子で!」と即答しようと決めた。

都営新宿線でそうやって読んでいたら、目の前に異様にスカートの短いややゴスっぽい女の子が足を組むから、本がうまく読めなくなった。その次の曙橋の駅で、その女の子の隣にやたら図体がでかいサラリーマンが乗ってきて、そいつがどういうわけか頭の上に小さな白いふあふあの毛でできた犬の耳のカチューシャをつけていた。そのまま真面目な顔で日経新聞を取り出して熟読する。なにかパーティかの帰りに、そういうグッズをつけたまま乗っちゃったというようなわけでもなく、強い意志を感じる。だからますますぼくの読書はうまくいかなくなった。

ゲストはCollioure。押くんがオリコンの新譜リストから引き当てて、大絶賛のひと。打ち合わせのときから、すぐに好きになってしまうような屈託のないお人柄。本番でももっと話したくなってしまう。たぶん相手にもぼくのその感じは伝わっているのだろう。互いに感情を把握しながら、でもリモートで距離がある、という対話のもどかしさ。リスナーにはどんな風に伝わっているのだろう。

9月29日(火)

11時起。すぐに身の回りの用意をして、久しぶりにRAILSIDEに行く。
事務所というものの意義が薄くなってしまう生活が続いていた。podcastの収録もリモートでスタートし、家での作業環境が次第に整えられていった。HHKB、ちゃんとしたオフィスチェア、模様替え、蔵書整理。家を快適にするほどに、事務所の意義が薄れていって、5月にいろいろな事情から移ることになった今の事務所をうまく使えないまま月数万円のお金が流れていくことは、それが税金対策として有効だということはわかった上でなんだか自分の心をじくじくとむしばんでいるようだった。

田中さんがいて、花塚さんがいて、田中さんチームがいた。小田さんとかいどーさんがいて、こびーさんはまだいなかった。窓際の席について前回に事務所に来たのは1ヶ月くらい前かと思う。このRAILSIDEという場所で隔月で開かれていたバーイベントに、何度も出かけていた。スイカにウォッカを指したやつをシシさんとじゃばじゃば食べて、不覚にもぐらついた。屋上でみんなが花火をしているのを、酔いで混濁した頭のまま、仰向けで下から見てた。それはなんと昨年の夏だった!もっと前のできごとかと思った。

「世界でいちばん好きな喫煙所!」とバーイベントの時に人にいうのが好きだった。小田急線の上りと下りが交差するときが好きで、今日そのタイミングにであえたからストーリーズに動画をあげた。小田さんと近況報告。約束しないで人に会えて、会えたからちょっと話す、みたいなことから実はたくさんの仕事やアイディアが生まれてきたよな、って当たり前のことを思い出す。やっぱり事務所は必要。

M.E.A.R.L.の定例会議をして、新見と今週の講義の用意をして、やってきた鍵っ子さんとNotionについて話す。鍵っ子さん、スタープランナーを経てなんだかガントチャートのようなセルがたくさんあるフィジカルのノートで日課を管理するようになった、ただ手書きは手間、これNotionでなんとかならないかしらと思っているよう。Notionにはこまかなセルを使ったフォーマットがなく、ぼくの知識ではどうやったらいいか検討がつかない。とりあえず「こんなふうにぼくはNotionしています!」というご紹介をする。

DOした日課をひとつのセルとして、そこをDOしたらマーカーで引く。その上にボールペンで追加タスクを書いたりしているのがミソで、EXCELだとそれができない。なので思いついたのは、EXCELでフォーマットを組んでPDFで吐き出し、surface(鍵っ子さんはsurfaceユーザ)上のノートアプリで使用するというものだった。スマートとは言い切れないけど、かれがやりたいことは実現できる。でも鍵っ子さん、自分で日課管理アプリを作ったらいいなーって思う。少なくとも、ぼくはぜったいに買う。

鍵っ子さんのつくっているサウナマガジン『トトノイ人』を買うのに小銭がなくって、崩しがてら一緒にナチュラルローソンに行く。普通のコンビニよりやっぱり楽しい。

大葉味噌と押し麦のおにぎりというの買う。鍵っ子さんはオーガニックなバナナ。「バナナって形かっこいいですよね」といっている。事務所に戻って作業しながらおにぎりを食べた。食べ終わってふと振り返ると、鍵っ子さんが目をそっと閉じてなにかを確かめるようにしながらバナナを食べていた。視覚を減じて味覚を上げているような感じがして、真摯だ、と思った。

9月30日(水)

鍵っ子さんに会うと影響をたくさん受ける。で、やっぱり日課だ!脳をハックするんだと思って、昨夜にやりたい日課をNotionにまとめてみた。で、起床それよりずれ込む。身体がなんだか単純に疲れている。7時起の予定が9時に。IKEAで前に買ったダイニングテーブルのセットを全部捨てよう、その間に新しいダイニングセットを探そうといっていたが間に合わず、ぼくが寝てる日にじゅんこが粗大ゴミをひとりで全部だしていた。力持ち、すごい、と思う。だから起きてサーバーから水を出しながら眺めたダイニングには、ただ空間だけがあった。

いそがしい日。日記を書いたり事務作業をしたりして、BONUS TRACKのMTG。最初の目玉企画が3日、4日だからもう今週末に近づいていた。わちゃわちゃしてきている。1時間半くらいやってあいまにさっと昼食。病院帰りにじゅんこが京王百貨店で買ってきてくれた、鮭を白醤油で焼いたよ、というお弁当。味が濃すぎなくていい。だいたいのお弁当、保存の意味もあるのだろうけれどしょっぱすぎ。

山本さんのMTG。対面しないままに作品制作を依頼するなんて暴挙も、こんな時代だからできちゃうわけで、せめてzoomでお顔合わせしようということにした。やってよかった。作りてとの距離感なかなかうまくできない時代、と考えるか、対面せずとも関係できる時代と考えるか。

バタバタと着替えて外苑前のnoteのイベントスペースへ。フォントのモリサワが主催する「FONT COLLEGE」というオンラインイベントの収録。ブックデザイナーの佐藤亜沙美さんのお話を聞く。CEKAIからモデレーターをやってほしいと来て、快く引き受けた楽しみな仕事だった。外苑前、自宅から行くのに3線も乗り換えないと行けない。

時間的にはそんなにかからないけど、この無駄な乗り換えっていうのがほんとうにいやで、でも足が痛くて自転車には乗れないから迷わずタクシーを拾う。登壇前にはタクシー、としていたかつての気分も思い出す。人前で話すなんて実はちょっと異様なことなのだから、そういう時は自分を芸能人やアスリートのように考えて、その場でのパフォーマンスだけにフォーカスさせてあげるのは大事なことだ。

対話はものすごく楽しいものだった。ぼくの拙い書体知識が、実は場にとってちょうどいい加減だったような気もする。冒頭「武田さんはゴシックっぽいかんじですね」と佐藤さん。書体占いっていうのができそうって思う。書き手と本のあり方とそのアプローチの仕方から、書体を選んでらっしゃること、遊びをどこに設けるかのこと、WEBのデザインと違ってアイディアに原資が必要だから、その知識がないとなかなかブックデザインの幅は広がらないのこと。

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もっともっと話したいことばかり。そして佐藤さん、自分の仕事を語るときに使われる言葉のセレクトがユニークでかっこいい。本当に素敵なひと。90分が短い。終わったあと、タコスやナチョスなんかがあって、ビールやハイボールと一緒にみんなで中打ち上げ。こういう時間が久しぶり過ぎて、尊い。なぜか誰よりもずっと緊張していた杉本さんがどっと疲れていて笑ってしまう。

佐藤さんのお召しになっていたスカートが、ぼくにはわからない構造の複雑なものだった。複雑な構造の服をみると、かっこいいなあと思ってうらやましいような気分になる。おとこの服は構造がわかるものばかりでつまらない。帰り際佐藤さんが「滝口が今度野球やりましょう、っていってましたよ」と伝えてくれる。滝口さんと阿久津さんと3人で、とっても心地よい広場のような場所でキャッチボールをしている。そんな風景を想像しながらタクシーで帰る。


10月1日(木)

日課だ!と思った翌日。だけどこれを書いているのはすでに10日が経過した11日のことで、教訓深酒をするとぼくの脆弱な週間はすべて消失するということだった!

この日は午後めいいっぱいを使って、MOTION GALLERY CROSSINGの初のリアル収録の日。出発直前にばたついてタクシーでスポンサーである、九段ハウスへ。こんなところにこんな邸宅があったのか、という素晴らしいところ。

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目の前が暁星で、そのすぐわきに九段中学校がある。偏差値も高い土地柄。入り口から大高さんに案内してもらって社交界感がすごい、と大高さんと盛り上がる。磨き上げられた手すりの滑らかさ。地下には茶室とかつて使われていたという炭式のボイラーというものがあった。

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はじめて対面した長井さんは緋色を少しピンクに寄せたようなカラーのセットアップを着ていた。足元にはマーチンのブーツを合わせていて、それがかっこよかった。ぼくはぼくでブルー・グレーのセットアップにエアジョーダン。前の晩からなんとか長井さんに恥をかかせないように、なんども考えて着てきた組み合わせだった。スニーカーとビビットなソックスで崩す、というのがぼくにできる精一杯のおしゃれのようで、思い返せばそのワンパターンのテクニックだけでこれまでも少しフォーマルな場をやり過ごしてきたことが理解できた。

セットアップのふたりが並ぶと、なんだか合わせてスタイリングしたような感じ。それで撮影。背景が強いのでわざとちょけたり、色々とやる。さすがに長井さんはプロで、フォトグラファーから指示などされなくてもワンカットずつポージングを変えている。そんなことぼくにはできない、と思っても撮影をなんとかスムーズに進めたいという気分から見よう見まねでポージングを変えてみる。

軸足と添える手の変更、がいちばん簡単なポーズの変え方で、それで都合4パターンが生まれる。そこに重心を前後に振りわけるで2パターン。手をポケットに入れたり出して腰に添えたりでまたいくつか。それをシャッフルして、たまに目線を二人で合わせる。そういうことをしていたら、撮影が終わった時点ですでにどっと疲れていた。

終わったあとタクシーで神楽坂に移動して、はじめてのメンバーでの飲み会。秘密の二階のようなところで、ワインが飲み放題だった。ヒラメのカルパッチョ、クジラのユッケなど海のものが出てきてたのしい。大高さんが「シメの焼きそばが旨いんですよ〜」と言って楽しみにしていたのだけど出てこず、お店のおじさんに「あの……焼きそばは……?」と聞いてみると、それは実はパスタのことで今回のおまかせのコースには入っておらず追加で頼んでいた。お腹がいっぱいになっていたけど、うずらのレバーを使ったというそれは赤ワインとの相性抜群で、戦うような気持ちでわしわし食べてごくごく飲んだ。

2軒目に移動する間のほんのわずかな徒歩の時間、竹子(激安の居酒屋)から出てきたとおぼしき酔った大学生集団がたぶん長井さんの方を眺めていたのだろう。その瞬間にさっとマネージャーさんが間に入り腰に手を添えながら道の隅にアテンドしていったその一連の動作が、たまらなかった。あまりにも自然であまりにも素早い慈愛とリスクヘッジ。帰ってからもその速度と潔さをなんどもなんども反芻していた。

10月3日(土)

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BONUS TRACKでのMusician’s Marketの初日だった。イベントを登壇ではなく運営側として関わるのは久しぶりのことで、というかそもそも不特定多数の人と現実の場で会うこと自体が久々のことで緊張しているのが朝の段階からわかっていた。

11時に現地について、出店者の人たちを待っている時にずっとそわそわしていた。企画してブッキングをして当日を迎えてしまったらぼくにできることはほんのわずかなものでしかなく、それゆえにソワソワしていたのかもしれない。手が空けばすぐに仕事を探していくうちに、10年以上前に道路工事とイベント現場でのアルバイトをしていたときの感覚が、ゆっくりと戻っていくようだった。

気づくとフル回転していて、出店者の荷物を一緒にガシガシ運び、予定より遅れてしまった会場装飾を休むことなく作っているししだくんを手伝い、出店者同士を結びつけるために飛び回っていたら、ああこうやって仕事をしてきたんだよなあと思う。

音楽関係者の知り合いたちも何組かやってきて、みんな口々に「とってもいい場所だね」だとか「こういう風に人と会えるのってほんといいよね」などと言ってくれる。それで毎回そんな話をするたびに「ぼくたち(編集者とかディレクターとかイベント企画する人とか)って、こういう風に人と出会って紹介しあって、そうやって仕事をしてきましたよね」って話をすると、みんな「ほんとそうだよね!」って答えた。

つまりぼくは、ぼくらは、これまでやってきたような仕事の仕方ができなくなっていたことすら、感じ取れていなかったのである。それはリモートの恩恵とも言えるし、あるいは感覚が鈍麻になっていて失われてものにすら気づけなくなっていたとも言える。

この企画に持たせたかった重要な部分として、ミュージシャンが横につながる場、というものだった。ライブというのは当然アーティストにとって発表の場であり興行の場であるけれど、そこには同じイベントに出演した他のアーティストとつながりをつくる場でもあったはずだった。楽屋ではじめましてーと話して出番前後にライブを見て、そこで刺激を得て打ち上げで話している間に次のEPでコラボしよう、スタジオ遊びに行ってもいいですか? なんてコミュニケーションがたくさんあったことは想像するまでもないことで、ライブが満足にできない世の中ならば、その横につながる対話だけでも復活させられたらって思ってた。

だから日が落ちたころ、マイカちゃんが静かに噛みしめるように「こんなに人と会ってしゃべったの本当に久しぶり。これが生活から失われたことだったんだ。今年で1番楽しい!」と言ってくれたのが10日経っても感触もそのままに忘れられない。

10月4日(日)

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Musician’s Market2日目。昨日全方位にエネルギーを拡散し続けてしまっていたため、疲れが抜けないのでうまく「流す」ことを意識して自分を運用することにした。コロナ禍の生活の中で、日毎の総アクション数が減っていた。だから1つのアクションにコストをかけることができていて、それが誠実な働きかけだと自分でも実感の持てるような仕事のしかたができていたのかもしれない。大きくメンタルの調子を崩すことがなくなっていたのは、そういうヘルシーさのおかげだったんだろう。

でもこういうイベントでは無尽蔵にアクションが増えていく。コミュニケーションの量も段違いになる。でも楽しい。楽しいから人と人を結びつける。その先が見えていくような気がして。アクション数が増してもドーパミンか何かが出ているから乗り切れる。時折おとずれる一人だけの時間の中でも、ぼくには会場を流れていく人の気配の残像の中に、未来につながる対話の導線のようなものがぼんやり見える時がある。それはあるいっときを逃すと、はかないものだから消えていってしまう。だから消える前にそのしっぽを手繰り寄せる、対話の地場みたいなものにダイブしてたぐりよせて、もう一方につながっているはずの人を呼び寄せて結び直す。

そういうことをしていたんだ、ってこの日も思い出す。これ、編集でしかないって思う。でもはたからみたらにぎやかなところで満面の笑みで楽しそうにしているぼく、という像しか浮かび上がってはこないんだろう。だから勘違いをされてもきたんだよな、と思う。きらきらとした明るいところで、人の波間をかき分けて上の方を見ながら大きな口で笑うぼくは、さぞかしポジティブに見えるんだと思う。ぼくは影の部分を人前に出す能力が、欠けている。

全部が終わって、出店者も帰ったあと、小田さんが戻ってくるということになり待っていた。別のトークイベントが終わるのを待っていたはなちゃんとししだくんと、そして新しく知り合ったひとと小田さん、それで広場の真ん中のテーブルとベンチで打ち上げをした。小田さんが「義理はねえけど、なんか今日はおれがおごるよ」と言ってくれた。

ANDONのつまみは、どれもつまみとして優秀でそれだけで楽しかった。おでんが届けられたとき「わあああ、おいしそうう!」と声に出して小躍りしてしまって、お店のお姉さんに「そういう反応うれしくなっちゃう!」とよろこばれる。素朴な感情をこんなふうに表明したことがよろこばれるのは、生きている感じがする。

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