顕示選好理論の話(6):データから直接検定する理論

なんかこう、時間ないんだけど……とりあえず書こう。前回まではこちら。

で、前回述べたように、古典論だとどうやっても穴埋めできないのが、効用最大化仮説のために需要関数の情報がフルで必要だってところ。リクターの定理はきれいな必要十分条件を与えていたが、リクターの選択関数なんて観測できるわけがないんだよね。それをどうするか。

Afriat (1967)はこれに答えを与えた。「じゃあデータから直接扱えばいいんじゃね?」

で、彼は有限個の(ここが重要)需要データに対して、「整合性」という名前の条件を6つ与えて、それの同値性を証明した……というのは嘘で、実は証明間違ってる。6つの整合性のうち、たぶん選好整合性は根本的におかしいと思うので、残り5つを見ると、まずは「効用整合性」。需要データが効用整合性を満たすとは、「局所非飽和な」効用の最大化の結果として説明できることを指す。

なんで局所非飽和性が必要なのかっていうと、ここ無条件にすると、効用関数が定数ならどんなデータも説明できちゃうからだ。リクターの定理なら、情報がフルにあるからこういうことは起こらない。でも「有限個の」部分的データを扱わないといけないアフリアットの理論だと、見えてないところでなにが起こっているかを理解する情報が足りないので、こういう限定しないと本当になんでもありになっちゃうのだ。

でまあ、「効用整合性」が、今回の「検定の帰無仮説」になる。だからこれと同値な、チェックしやすい条件を作ることができれば検定がうまくできるようになって万々歳。こういう筋書きだった。ちなみにアフリアットの整合性の中には「正規整合性」という、「増加的で凹で連続な効用関数で説明できる」っていうすさまじい強いバージョンがあるが、効用整合性と正規整合性は同値である(!)。

残り3つの整合性だが、「循環整合性」「乗数整合性」「水準整合性」である。で、循環整合性が、リクターの定理で出てきた顕示選好の適合性公理とほとんど同じ形をしているので、わりと理解しやすい。残り二つはけっこうマニアックであるけど、特に水準整合性はどうも数学的に扱いやすいのか、「アフリアットの不等式」という名前で普通に一部で有名。あと循環整合性はGARPっていう同値条件の方で言及されることの方が多い印象。

アフリアットの基本定理は、この5つの整合性が全部同値だという主張だった。アフリアットは、「効用整合性⇒循環整合性⇒乗数整合性⇒水準整合性⇒正規整合性⇒効用整合性」という⇒の順番で示そうとした。ところが、「循環整合性⇒乗数整合性」のところで、0かもしれない数で割り算していたんだ。だからアフリアット自身の証明はおかしい。彼の証明であってる部分は「水準整合性⇒正規整合性⇒効用整合性⇒循環整合性」の部分と、べつのところで示していた「水準整合性⇒乗数整合性⇒循環整合性」の部分だけだった。

で、こっから先、詳しい人に教えて欲しいくらいなんだけど……たぶん、この未解決問題を解決したのはVarian (1983)だと思うんだよね……たぶん。彼は「循環整合性」を仮定して、「水準整合性」の条件を満たすパラメータの組を作るアルゴリズムを作った。だから「循環整合性⇒水準整合性」を示したことになるわけで、これで上の議論のミッシングリンクは全部消えて、ちゃんと議論は閉じたことになる。だから僕はこの理論に言及するとき、「アフリアット=ヴァリアンの検定理論」という名前で呼んでる。

で、検定の話をすると、この整合性の中でぶっちぎりで確認しやすいのが循環整合性で、めちゃくちゃ高速に確認できることがわかってます。だからいま実用上使うとしたらこれ一択。なんか最短距離問題に還元してそっちのアルゴリズム使えるらしいよ?

これだけ重要な結果がなんでこんなに知られてないのか、僕にはわりと理解しかねるんだけど……なんでみんなこれ知らないんだろうね。MWGに載ってないからではないかと邪推してるんだけど。第三章と第四章の間にこの理論を扱う節作れやオラといまでも思ってる。マスコレルがこれ知ってたってことはわかってるんだぞ。

さて、あと一回でこのシリーズ畳もうかなって。残りはまあ、関連するトピックスのごった煮みたいなの予定してます。

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