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アイドル彼女は素っ気なくて甘くて 第100話

"ここで速報です"


"女優で元アイドルの山下美月さんが

一般男性との交際を公表しました"


◯◯:美月さんが交際宣言かぁ、知ってた?


蓮加:うん、なんかそういう話は聞いてたよ。


朝のニュースから、

花咲く何気ない会話。


買い替えどきの眼鏡をかけて

寝癖のまま朝食を頬張る俺と、


完璧なメイクと服装に

外出準備が整っている蓮加。


◯◯:周りはもう、そういう時期且つお年頃ですか…


蓮加:昔から"彼女"持ちのあなたが、言えたことじゃないよ。


吹き付ける風が若干暖かくなり

春が始まりそうな頃、


…俺と蓮加は"同棲"を再開した。


もちろんタダではないので

家賃を出し合うことを前提に、


お互いに良い物件を相談し

白石先生の力を若干借りて決めた。


大変お金持ちの彼女に

甘えるわけにもいかないし、


割と給料の良い家庭教師のバイトを

みっちりとやることにした。


蓮加:じゃ、仕事行ってくるね。◯◯は今日は大学?


◯◯:うん、2限からね。


蓮加:あんまりダラダラしてないでよ?


◯◯:はいはい、


椅子に腰掛けてる俺に対して

彼女は少し姿勢を低くして、


こめかみの傷のところに

キスをして颯爽と仕事に向かった。




一人になった部屋を少し掃除してから、

大学に向かうことにした。


ちょっと前の家とは

二回りも広い空間、


今はもう慣れてきて

掃除の手際も良くなってきた。


"お兄〜、今日は蓮加さんと一緒の仕事だよ"

"すまん、蓮加さんは私のものじゃ"


妹からのメッセージを見ながら、

スポドリを飲んで出かける準備をする。


美佑も"乃木坂"を卒業したあと

タレントとして活動をしていて、


最近は売れてきているんじゃないかと

兄目線でも思っている。


特にラジオが評判で、

いつもの毒舌もチラッと聞けたり。


同棲再開の意向を家族に伝えた時

「え、マジ?草。」と言い放った妹が、


猫を何匹も被ってテレビに映る様子は

言葉をそのまま返したくなるほど面白い。


それぞれがそれぞれの先へ向かって

活躍の様子を見聞きする度、


人生の"気まぐれ"さとか

一瞬一瞬の大切さとか、


柄でもなく20歳を過ぎても

物思いに耽ることは多い。


◯◯:"はいはい、せいぜい頑張って"…と。


そんな気持ちとは反比例して、

変化を拒む心情は薄れていった。


踏み出さない状況より

"挑戦"すること自体に挑戦する、


上手く言い表せないが

沢山の人にそう教えられた。


勇気を出してみたその先の世界は、


…きっと

生き甲斐のあるところだ。




ーーーーーー




深夜、

バラエティ番組を見ていた。


画面の中には彼女が居て、

その首元には綺麗な"ネックレス"。


蓮加:ただーいまっ


◯◯:おかえり。


テレビで今まさに観ている人が、

何食わぬ顔で家に帰ってくる日常。


毎日新しい発見があって、

ますます想いは積もっていく。


蓮加:また私見てるし、


◯◯:そりゃ見るでしょ、蓮加が出てるんだから。


蓮加:超ヲタクじゃん。


そんなセリフを繰り出す彼女だが、

「いひひ」と楽しそうな声が漏れていた。


伝えたいことは分かるよ、

それくらいには君のことを知ってる。


◯◯:夕飯作っておいたから、支度して待っててね。


蓮加:はーい。


寝転がっていたソファから起き上がって、

身支度をしている彼女を抱きしめた。


大人っぽい香水の香りが

疲れた身体に染みる。


蓮加:なんだよー、


◯◯:なんでもないよ。


蓮加:あ、美月さんに"ニュース"のこと聞いたらね、ガチ照れしてたよ。


◯◯:そっか。


蓮加:…


◯◯:…


ちょっと前まで

冗談めかして言い合えた言葉が、


ひどく恥ずかしく感じてしまって

喉の頂点でつっかえていた。


蓮加:ちょっと、いつまでくっついてるのさ。


◯◯:もうちょっと、


…ただしその変化に対して

素早く順応できるのかどうかは、


また別の話であって

必ずしも良い方向に傾くものではない。


不器用で

決めきれない自分自身は、


容易く変えられるわけない。


こんな"自分"を受け入れてまた次へ、

また次へ、


それだけで良い。




食後、


暇な大学生と

超多忙な芸能人は、


深夜にソファに横並びになって

デザートを食べていた。


◯◯:なぁ、蓮加。


蓮加:ん?


◯◯:俺、3年じゃん?


蓮加:うん、3年生。


◯◯:今年から、"就活"が本格的になるんだけどさ、


年齢的にはまだまだガキで

社会を知らないけれども、


人というのは早い段階で

何重もの壁に当たると思っている。


◯◯:本気で、将来を考えた選択をしたい。


蓮加:…


◯◯:院には行かずに、就職したいって思ってる。


その壁を誰もが

それぞれの価値観のもとで、


試行錯誤して苦しみながら

乗り越えることを期待されている。


◯◯:蓮加には、応援してて欲しい。


蓮加:ふふっ、もちろん。


◯◯:だから何だって話だよな。その、あれだ…


自分のエゴのために

その"期待"を上回るとかじゃなく、


これまで俺を支えてくれた人や

今、隣に居る人のために、


全力になりたい、と

らしくなくカッコつけた。


◯◯:ちゃんと決まって、一丁前になったらだけどさ、その…


巡り合えた「最愛」のあなたと、

普段の幸せを共にしたい。


何でもない日に限って、

いや、何でもない日だからこそ、


一歩に対してより真摯に

なれるんだろう。


◯◯:これからも、ずっと。


蓮加:なんだよ~、ハッキリ言えよ~。


いたずらな表情で笑っている彼女は

俺の肩にそっと頭を寄せて、


手を繋いでから

頬を若干紅く染めていた。




◯◯:ごめん、上手く言えないや。


蓮加:私が好きなのは、そんな照れ屋な◯◯だから許す。


俺たちの歩幅で

夢を追い続けて、


同じ"とき"を過ごして

楽しく食卓を囲んで。


◯◯:も、もう寝るよ!


蓮加:えぇ~、"恋バナ"しよーよぉ。


◯◯:恋バナって、自分達のことだろ…しんどいわ!!


愛しくて。


幸せで。


たまに素っ気なくなって、

甘えだしてみたり。


綺麗な笑顔の"花"に

囲まれたような、


色とりどりの暮らしを

2人でしていきたい。




ーーーーーー




蓮加:おはよ。


◯◯:おはよ…


蓮加:寝ぼけすぎ、今日も大学でしょ?


◯◯:そうだね、割と大事な課題あるし。


久しぶりに"課題"の類の

言葉を聞いたのか、


下唇を出して拒否反応を

表情だけで示している蓮加。


蓮加:うぇぇぇ~、ちゃんと出しなよ?


◯◯:大丈夫、根は真面目だから。


蓮加:いひひ、そっか。


昨日の夜の"恋バナ"をしているときと

同じように彼女は俺を抱き寄せて、


唇に優しくキスをしてくれた。


蓮加:ちゃんと伝わってるよ、◯◯の気持ち。


◯◯:恥ずかしいってば。


蓮加:もうちょっと経ったら聞きたいな、マジのやつ。


◯◯:急かすなよ。必ず、"約束"したこと守るから。


こんな"普通"な日々が

これからも続いていく、


「アイドル」だった君と出会うまでは

思いもしなかったことだ。


蓮加:今日も大好き、◯◯っ!!


◯◯:愛してる、俺も。




"女優 元乃木坂"


"岩本蓮加"




"一般男性との結婚を発表"


そんな事実がニュース番組や

ネットの見出しになるのは、


もう少し先の

未来のお話。




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長編作品

アイドル彼女は素っ気なくて甘くて


おわり




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アイまい第100話

参考楽曲


AAA

「Lil' Infinity」




アイまいフェーズ6

参考楽曲


Bee Gees

「How Deep Is Your Love」


ソナーポケット

「花」




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アイドル彼女は素っ気なくて甘くて

参考楽曲


Marron 5

「Sugar」

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