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 震える足になんとか力を込め、おずおずと立ち上がりながら私は岩から顔を覗かせた。インコの姿はもう見当たらないが、まだ遠くには希美の後ろ姿が見えた。彼女もまた息を切らし、肩を激しく上下させていたが、しかしまだ諦めたわけではなさそうだった。上気した表情でじっと空を睨みつける彼女は、私が知っている彼女よりも一段と凛々しく見えた。いつの間にか私は、久々に見る彼女の姿にすっかり引き込まれていた。そしてほとんど無意識のうちに、私のペン先は彼女のことを綴り始めていた。彼女の姿に見惚れるがあまり、彼女がついにこちらに気がついたということにさえ、私は気がつかなかった。

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