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 このように嫌なことなら、いくらでも思い出すことができる。私自身の暮らしている世界には、嫌な出来事がありふれていたから。きっと、それらは普通のことではなかったはずだ。普通の中学生なら、経験しなくて済んだようなこと。でも私は、それらを経験してしまった。なぜなら私は、「普通の少女」ではなかったから。中学校に入る少し前に大病を患い、中学三年の夏になるまで外出許可が下りなかったこと。そのせいで、中学校では一人も友達ができなかったこと。もっと言えば、そもそも私が左利きだ、ということさえも、普通ではないことなのだ。小学校以来に感じる外の空気を、めいいっぱいに吸い込むことで私は、心のどこかで失われた「普通」を取り戻そうとしているのかも知れなかった。
 ふと空を見上げると、見慣れない鳥が飛んでいるのが目に入った。あれは・・・インコだろうか。こんな場所にインコが飛んでいるというのは、果たして普通のことなのだろうか。そう思いながらも、少女はメモ帳にそのことを書き記そうとした。しかし、遠くからこちらへ向かってくる声に気づいて、私はメモを取るペンの動きを止めた。
「帰っておいでぇーー!おねがいだからぁー!」
 それは、希美(のぞみ)の声だった。小学校時代に仲良くしていた同級生である。


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