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いにしえの「冬の旅」に来たりくる冬を思う。


昨日、彼女とモリヒコのカフェでコーヒーを飲んだ帰り、雪虫を発見した。

雪虫とは、尾っぽに白いものをつけてちらちら飛び回る羽虫のこと。雪虫の発生は初雪の到来を意味する。そういえば食器を洗う水がびっくりするほど冷たくなった。先週は中山峠で雪が積もったらしい。

ついこのあいだまで日中はTシャツ一枚で過ごしていたというのに、数日前から外出時にコートは欠かせなくなった。

本格的な秋の到来、というより冬の足音をすぐそこに感じる、十月の札幌だ。
 
九月の終わりに帯広に行った。

六花亭が管理する広大な「六花の森」の中に、六花亭の花柄包装紙を描いた画家・坂本直行の記念館が散在している。そのひとつ、「直行絶筆館」に入ると、彼が描こうとした青い山々のキャンバスとそのデッサンが展示される中、古いモノラル録音のシューベルト「冬の旅」がかかっていた。歌っているのはゲルハルト・ヒュッシュ。坂本直行はこの「冬の歌」を涙を浮かべながら聴いていたそうだ。

ちょうど「春の夢」が流れていた。朴訥で律儀なバリトンの深い音色。フィッシャー=ディスカウとは明らかに違う、たぶんひと時代前の歌い回しなのだろうが、その時代感覚がこの土地の景色と見事に融合していた。

札幌に戻って早速アマゾンで取り寄せた。1933年録音の名盤とある。しかし音質は実に明瞭で、なんとも言えないふくよかさもある。北海道で最初の冬を越す、最良の音楽のひとつになりそうな予感がする。
 
先週はキタラにサイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団を聴きに行った。

前半はシベリウスの交響詩「大洋の女神」と交響詩「タピオラ」。後半は大曲、ブルックナーの交響曲第7番だ。

ロンドン交響楽団はフレッシュなメンバーが多く、洗練された力強いサウンドだと感じた。とくに弦楽器の豊かな響きと金管の輝かしさには圧倒された。

しかし、圧巻はやはりサイモン・ラトルだろう。

終始にこやかにオケをけん引していく推進力、ときにテンポを大胆に変えながら驚くべきダイナミズムを引き出す表現力。前半のシベリウスもとてもいい曲だったけど、やはりブル7は別格だった。正直、こんなに胸に迫る曲だとは思わなかった。すべては一期一会の音楽の魔法なのだ。
 
明日からまた東京に行く。

大事な企画会議と来年一月に出す本の著者との打ち合わせ。ちょっといい本になりそうな気がする。がんばらねば。

気がかりなのは東京の合唱団が少しずつメンバーが少なくなってきていること。今月は無理だが、来月はなんとか練習に参加できそうだ。練習録音を聴いて必死に音取りをしている日々。来年秋の本番を目指して、こちらも気合を入れ直します。

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