mixiみたいな駄文 #2
19歳のとき、ロンドンに住んでいる叔母のもとで数ヶ月だけ暮らしたことがあります。
高校をドロップアウトし、大学進学も考えていなかった当時の僕に母が提示してきた唯一の条件でした。
留学、と呼べるほどたいそうなものではなく、日本人の少ない語学学校を叔母が選んでくれたはいいものの、午後からのクラスを2つ受けるだけのゆるいスケジュールで、残りの時間は一人でバスとメトロを駆使してロンドン中を散歩しているだけの本当の遊学でした。
朝遅くに起きて、簡単に朝食を済ませてから、当時叔母がやっていた子供服のセレクトショップに顔を出してから学校へ。
2コマの授業に出たあとは、その日の気分で夕方の有志のクラスに出てみたり、ふらふらと街へ繰り出したりと今よりも豊かなその日暮らしをしていました。
お金もなかったので、本当にあの時はよく歩き、二階建てのバスからひたすらロンドンの街を眺めていました。
僕はバスの二階部分の奥の方によく座り、大きい車体がぐわんと揺れるのを楽しんでいました。
そして、人に隠れていないゲイのカップルを初めて見たのもあの時でした。
クマ系のダディーカップルが目の前の席に座り、白昼堂々とキスをしていました。その光景は今でも鮮明に思い出せます。
なぜカップルと分かったのか、二人のキスには初期衝動のようないやらしさがなく、キスのあとメガネをかけた方のダディーが本当に幸せそうに、そして照れくさそうに微笑んだからです。
なんてピースフルなんだろう。そのモーメントはドラマでもなんでもなく、自然に街に溶け込んでるように見えました。今までテレビや映画で見てきたものは嘘だったんだ! と、僕は彼らに教えてもらったのです。
ロンドンはクリスマスになると全ての公共交通機関が停止します。地下鉄もバスもタクシーも全て。
ホリデーだから休んで当たり前だ。だからお前も大人しく家にいろ。と街全体が休むことを強制してきます。
しかし、19歳の異邦人である僕はそう大人しくその国のルールに従うこともできません。語学学校の友人らが家に集まりクリスマスパーティーをするというのです。異邦人同士、一人の友人邸に集まり寝て起きて過ごそうと言うのですからもちろん誘いにのりました。
クリスマスイブの晩、料理をしたりゲームをしたりダラダラと寒い雪の夜を過ごしていたのですが、どうにも寒くてたまらないのです。パーティーだからと薄着で来てしまったせいだろうと思っていたのですが、徐々に体は重くなり、頭がガンガンと痛み始め、挙句友人のベッドに倒れ込んで一晩眠りました。
朝目覚めても体調は一向によくならず、悪寒はするわ、関節は痛いわ、これはまずいと叔母に連絡をして迎えにきてもらうことにしました。
公共交通機関が全てストップしているため、ピックアップされやすい駅まで出るのも一苦労でしたが、出稼ぎにきているであろう数少ないタクシーを何とか捕まえてことなきを得たのです。こういうとき異邦人は異邦人に救われるのかもしれません。
ヘトヘトで家に帰り、熱を測ったら40℃近い高熱。
あぁ、街に大人しくしてろ言われてたのに…… と思い自分の匂いのするベッドになだれ込みました。
そこから3、4日ほどインフルエンザに苦しめられるのですが、出国のときも、クラブからの帰り道に深夜バスが目の前を通り過ぎて歩いて帰る羽目になったときも、それなりにアドベンチャーとして楽しめていたのに、このときばかりは猛烈に寂しくなってしまったのです。
「なにか食べたいものはある?」と叔母に聞かれて、僕の体調不良の定番であるフルーツの入ったゼリーを所望しましたが、そんなものは売っていない、プリンじゃダメ? というのが最後の引き金になり、本当になんでこんなことで泣いているんだろうというくらいワンワンと泣きじゃくりました。
ゼリーにはじまり、Skypeで母の顔見て泣き、当たり散らす。普段本当に泣くことがない僕は自分で自分に驚くくらいの涙を流しました。たらみのゼリーを思い浮かべながら、ポカリスエットの味を恋しく思ったのです。
なぜ、こんなことを書くに至ったのか。
先日から、叔母と16歳になる従姉妹とその親友が我が家に滞在しているのですが、今さっき従姉妹と親友の女の子が近所の銭湯に行って全然帰ってこないと家中がプチ騒動になっていたので、自分の異国での体験を思い出したんでしょう。
彼女たちには全てが非日常のアドベンチャーでも、こちらは日常の中のハプニング。
あの頃、たくさんアドベンチャーをして、ごめんね叔母さん。