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幽霊みたいになりたくないな

お話も面白くて、仕事もできる才女の友人がいた。

彼女はレズビアンで、カムアウトした頃(ちょうど10年前くらいだったと思う)はほんの少し不安定だったけど、基本的には幸せそうだった。

ブラック企業に勤めていたが、仕事ができてしまうものだから彼女はどんどん仕事に飲まれてしまって、心を病んで日本を離れた。

カナダだかアメリカの西海岸からかかってきたスカイプが最後の会話だったような気がする。日本でも一緒に酒を飲んだ記憶はあるが最後かどうかが定かじゃない。

北関東の実家に帰ってきていると聞いたが、ラインもろくに返ってこないし、今後会う予定もなさそうだ。人の噂では、実家に女の子を連れ込んでいるらしいが、それもあくまで噂話だ。

彼女が実家に女の子を連れ込んで半同棲してる様をたまに想像する。今いくつだ?32?死んではいないと思うが、東京が心底似合っていた人だったから窮屈に暮らしていないかな?と少し不安に思う。

本当は都会と反りが合わなかっただけなのかも。誰とでも話が合わせられる人って、なんというかDV体質っぽい。絶妙に受け身な姿勢が痛々しい。ま、これも後付けの印象なんだけれど。

とにかく、楽しく遊んでいたあの頃から10年経って、彼女が今東京にいないことが信じられない。『最後から二番目の恋』で森口博子が言っていたセリフを思い出す。

「東京って近いか遠いかじゃなくて、いるか・いないかなんだよね」

あなたがいない東京で、僕は今30歳に手が届きそうですよ。今年のTRPは過去最大の規模だったそうです。一緒にパレード歩いてたよねきっと。

死んだわけじゃないのに、もう会わない人がいる。この街にいられなくなった人、いる理由がなくなった人。

センチメンタル極めてた頃の僕だったら、この人生のシステムを恨んでいたと思う。だけど、こうやってたまに彼女のことを思い出すんだから、それはものすごい恩恵なんだと思う。

自分もダラダラと東京にいないで、誰かの人生の死人になりたい。幽霊みたいに同じ時間をどろどろ生きるよりは、彼女のように一度誰かの死人になって、どこか違う場所で生まれ変わった方が幸せなのかもしれない。

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