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10年目の少年、その目に宿すもの

BTSがデビュー9周年を迎えた。
先日にはカムバックもした。
アルバム『Proof』リリースに伴い、タイトル曲「Yet To Come」を携えて。

各メディアは"王の帰還"とか、盛大な謳い文句をつけて取り上げた。
コンセプトフォトも、最初のものはまさに"王"たる威厳が溢れた"the 防弾少年団"なもので、とてもインパクトのあるものだった。「これはまた重厚感のある曲がくるのでは」とデビュー当時の重々しいヒップホップを想像した。

しかしteaserでは、広大な砂漠に海の音。
楽曲「Sea(바다)」がよぎる。
そして昔のMVを彷彿とさせる構成。
今回のアルバム発表前からスポとして言われていた'花様年華'。
「Yet To Come」の曲名発表の際、サブタイトルが「(The Most Beautiful Moment)」だったことから、それがテーマとなっていることは間違いなかった。

そして、6月10日、MVとともに楽曲の全貌が公開された。
teaserで最後のワンフレーズのみ聴くことができていたが、これでやっと聴けるという期待感と、どんな曲なんだろう?やっぱりヒップホップで花様年華期を彷彿とさせる曲なのかなという想像もあったし、どれほど厳かなMV(例えば「ON」のような)だろうと想像が膨らんだ。

いざ聴くと、想像とは違った。
厳かではなく、そこに流れていた時間は、穏やかであった。
画面の向こう、MVの中のBTSの表情も、とても穏やかだった。
花様年華期の、あのヒリヒリした感情、やるせない思いや辛さ、切なさ、その瞬間にしかない儚い美しさのそれではなかった。

そこには、穏やかな面持ちで、過去の道のりを振り返り、今思うこと、これからの未来について<ここからが始まりだ>と、静かに決意するBTSがいた。

ミドルテンポで、キラーチューンとは言えないだろう。
きっと、久しぶりのカムバならバチコーンとぶちかますBTSを期待した人も多いかもしれない。
でも、今のBTSのモードーー9年間活動してきた上での、今の立ち位置、今思うこと、そしてこれからの未来を語るタイミングでは、"届ける"ことを強く意識したんじゃないかと感じた。

「Yet To Come」は、きっと"狙った"曲ではないと思う。
純粋に、彼らを好きな人、これまで応援してくれている人へ向けた曲だ。
だから、彼らを好きな人ならわかる。
まるで、BTSとARMYしかわからない絆のようだ。
それが、じんわりと温かく心に染み渡ってくる、そんな曲。

MVに散りばめられた過去のMVのモチーフや、彼らの仕草。歌詞には、ここに至るまでの思い。
必然的に、彼らのこれまでの道のりを振り返りたくなる。
そして、それを経た今、手にしている栄光に、涙が出る。
数えきれない弾丸を受けてきた彼ら。それを弾いてきたけれど、決して痛くないわけがなかったはずだ。逃げ出したいほどだったかもしれない。
数えきれないほど弾いて、休まずに走り続けて、全身にたくさんの弾痕を刻みながら、今、ここに立っている。
そして、今、この曲を歌っている。
さらなる未来を見据えている。
その心は、とても穏やかであるということ。

きっと、強い曲で勝負に出ることもできたと思う。
でも、今カムバックするにあたり、BTSが音楽で伝えたいことは、9年間の想いと、これからの希望。そして、これまでの過去を経た"今のBTS"としての、今の想い。
苦労を乗り越えた9年間、ここまで来たの道のりを、自身で称え、希望の光とともに未来へ繋ぎ、ここを新たなスタートとするための決意表明だと感じた。

'Yet To Come=まだこれから'
<最高の瞬間はまだこれから>と歌う。
彼らのモチベーションでもあり、未来のBTSにとっての一つのマイルストーンとなる楽曲になるだろう。
名実ともにトップに立ったBTS。でも自分自身がそれに満足せず、驕らず、<まだこれから>と繰り返す。
それは、自身に言い聞かせているようにも聞こえるし、世の中へ訴えかけているようにも感じる。
ーートップに"立ってしまった"から、これ以上目指すものはないだろう。もう誰も敵う者はいないーー
もしかしたら、そんな空気が彼らの周りには流れているのかもしれない。
自身で「そうだ」と認めて、これからは活動も気ままにやって、というような、それこそ"王"のように活動したっていいかもしれない。後輩たちも頑張っているし。
でも、この曲では、常に現状に満足せず<まだこれから>と、貪欲に進もうとするBTSの姿がある。

BTSは何も諦めていないし、変わったものは多いかもしれないけれど、心の奥底の少年は相変わらずいて、自分たちにとってのベストな<最高の瞬間>を掴むために進むと、決意表明している。
穏やかな曲調で、歌っていることは実は野心バチバチだ。
今の立ち位置を手に入れたBTSが、まだまだだと、謙虚にも、貪欲にも常に上を、先を目指しているなんて。
それを、穏やかに歌うなんて。
これこそが、BTSの強さの証明だ。

デビュー9周年を迎えたBTS。
10年目でも、<ここからが始まり>だと、静かにスタートラインに立つ。
周りがどんな枕詞や、誇大な修飾語を当てはめようと、彼らはずっとデビューした時と変わらない7人=防弾少年団だし、ただただ音楽が好きで、音楽で届けるだけなんだ。

そして、ここをこれまで続いた花様年華の旅路の到達点とし、また最高の瞬間を掴むために走り続ける。
それがBTS、防弾少年団である証明だ。

そしてProof Liveでの、極上の時間が流れるようなパフォーマンス。
ダンスはなく、"聴かせる"ための音楽を届けるBTS。
今のBTSの表現したい音楽、そして届けたいカタチ。
K-POPの頂点に立ちながら、世界のトップにも立つ彼らが、これから見せていきたいもの――。

この先、彼らにはまだまだ試練が降りかかってくるだろう。
あるいはもう起きてるかもしれない。
それでも、今、彼らは目に炎を宿し、未来を見据えている。
扉を開けた先、希望の光の中へ、ひたすら走り続ける。
少年のように、ただただ彼らの音楽を届ける。
「周りなんて関係ない、どう思われようと。自分たちは防弾少年団だから」
そう訴えかけているような気がする。
だから、これからも彼らを信じ続ければいいし、一番近くで見ていたい。
そうしたら、きっと彼らが'最高の瞬間'に辿り着く瞬間に立ち会えるかもしれない。
その姿を見届けたい。

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