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珍しくないけれど、悪質

腐敗しきったタイ警察…。

タイに住んでいると(あるいはタイをよく訪問していると)、身に染みてわかることです。

でも、助かることもあるんです。私自身、300~500バーツを警察官に渡したことで…駐車違反やスピード超過を見逃してもらったことなどがありますから。

※賄賂を渡さずに交通違反切符を切られたこともありますが、所轄署に出向く必要が生じるなど手間がかかりすぎ。たいへんな思いをしたことがあります。ま、交通違反をした私が悪いわけですけど。

タイ警察の汚職は、なにも交通違反に関することだけでなく、警察行政多岐にわたります。

麻薬売買組織、麻薬常習者とのつながり。風俗や飲食業者とのつながり。警察内部でも、「稼げるところ」に配置されるには、相応の上納金を上司たちに支払う必要があります。バンコクの有名な歓楽街、パッポン通りを所轄するバーンラック警察署長に任命されるには、最低でも数百万バーツを用意して上司たちから推薦してもらう必要がある、と聞いたことがあります。それだけの「投資」をしても、数年の在任期間で資金回収できる旨味があるのでしょう。

このように、タイ警察は汚職の温床でありますが、それにしてもここまで悪質な事件は珍しい…タイ北部、ナコンサワン県の警察署内で起きた「殺人事件」です。

同署の管轄内で、2人の麻薬密売人(夫婦)が逮捕されました。

当初、麻薬犯罪捜査官が「100万バーツ(約330万円)を支払えば、釈放してやる」と持ち掛け、夫婦もそれに合意。ところがこの捜査官が「密談成立」を上司であるティティサン・ウタナポン署長に報告したところ、署長が「200万バーツ払わせろ」と厳命したのです。

一旦合意した金額を覆すのは、これは汚職の世界でもご法度です。しかし捜査官は、署長の命令ですからそれに従わざるを得ません。一方麻薬密売人は、「200万バーツで合意したら、さらに金額が吊り上げられるのではないか。100万バーツで合意したのだから、100万バーツを支払う」と、値上げを拒否。それで困った捜査官が、夫であるティラポン容疑者(24歳)の頭にビニール袋をかぶせ、虐待を始めたのです。

多分、200万バーツの現金を用意するあてがなかったのでしょう。

ティラポン容疑者は、200万バーツの支払いに応じぬまま、窒息して気絶します。慌てた捜査官たちが、ティラポン容疑者に水をかけたりして意識を戻そうとしましたが、同容疑者はそのまま息絶えてしまいました…。

これは、あまりにもひどい。汚職に慣れた警察官たちであっても、警察署長による厳命は、許し難い悪質なケースだったのでしょう。

だから、警察署内の防犯カメラの映像が、タイで有名な弁護士の手に渡った…。内部提供者がいなければ、それは不可能なことです。

この著名弁護士は、ボカシを入れたうえで映像を自身の Facebook に公開。マスコミにも事情を説明し、警察へ「正義」を求め始めました。

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早速マスコミが、このティティサン署長の経歴を洗い出しました。

すると、警察署長にしてはかなり若い41歳であることが判明。タイではよほどのエリートか、しかるべきコネがない限り、50代で署長になるケースが一般的なので、それを思えばこれはスピード出世です。さらに、署長は日頃から派手な生活だったことも明るみに。最初に結婚したのは高級自動車販売の裕福な女性。ところがこの署長(当時はまだ署長ではありませんでしたが)、すぐにモデルの女性と浮気を始め、それが理由で離婚に至ったそうです。さらにこのモデルとも別れ、あとはこのモデルの伝手で知り合った芸能界、セレブたちと愉快な私生活を堪能していたよう…。たしかに、ルックスは悪くありません。

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警察庁は、当初は曖昧な対応をしていたのですが、流出した映像が間違いなく警察署の防犯カメラのものと一致し、かつ編集された痕跡がなかったことが確認されたことから、情勢が一気に動きました。捜査官らナコンサワン警察署員が、虐待の事実を認めたことも大きかったようです。

警察庁のサワット長官は、すぐさま副長官であるスチャート警察中将を捜査責任者として現地に派遣。通常こうした汚職容疑では、裁判で有罪が確定するまで管区警察本部の閑職に異動させるのですが(日本だと、「官房付」とかいう人事になるのでしょうね)、サワット長官はこうした通常の手続きを飛び越えて、ティティサン署長を即刻解雇しました。若くして出世していたので、彼の後ろにいる庇護者までがマスコミに晒される可能性に、危機感を感じたのかもしれません。

また悪評判を重ねることになった、タイ警察。

この事件で明らかになったのは、汚職体質ではありません。それはもう、これ以上明らかにできないほど明白ですから。そうではなく、明らかになったのは賄賂のやり取りにおいても、「仁義」がある、ということでしょう。たとえ犯罪者との約束であっても、一旦合意した金額を覆すのは、「人道上の犯罪」だ、ということです。

…おや、どうもこの結論、なんだかヘンな方向になっていますね。どうやらタイに長く居すぎて、感覚がおかしくなってきたのかもしれません。


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