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タイ警察演出のオセロゲーム

またまた、始まりました。タイ警察プロデュースの「オセロゲーム」が。

クロがシロになり、シロがクロになる…。これはなかなか、見ものです。

このブログで8月25日、26日と、2日続けて警察署長が主導した麻薬密売容疑者虐待殺人事件について、この note で記事にしました。26日夕方、逃走していた警察署長、ティティサン警察大佐(すでに懲戒解雇)が自首。直ちに警察庁長官が自らこの元署長を事情聴取したうえで、21時過ぎから警察庁が電話を通じての記者会見をアレンジしました。以下、その電話会見の要点です。

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ティティサン容疑者(41歳、一部報道では39歳)は会見で、「虐待の動機はカネではなく、情報収集だった」と説明しています。

虐待によって殺害されたジーラポン容疑者(24)は、これまでの警察の内偵捜査によって、ナコンサワン県中心部を縄張りとする主要な麻薬ディーラーだったことが判明。そのため彼と、彼の妻(一部報道ではガールフレンド)を逮捕し、家宅捜査を行いました。もちろん、麻薬はありません(末端の密売人ならとにかく、密売組織の中枢にいる人物が自宅に大量の麻薬を隠しているわけがありません)。

しかし捜査官は、ジーラポン容疑者のスマホに大量の麻薬が写った画像があることを把握。そのためティティサン容疑者は、麻薬を隠匿している場所を白状させるために、部下に自白させるよう指示した、と説明しました。

これ…。当初の報道では、検問でチェックした自動車から大量の麻薬(10万錠)が見つかったため、ジーラポン容疑者と同乗していた女性を逮捕。一旦100万バーツ(約330万円)を支払うことで釈放する、と合意したものの、ティティサン容疑者が、「200万バーツ払わせろ」と強く要求したことから、虐待が始まった…とされていました。

ところが警察の記録では、「自動車から10万錠の麻薬が見つかった」という公式報告はないのだとか。それゆえ警察は、「これはマスコミの誤報だ、そうでないのなら、証拠を示せ」と逆切れしています。

ジーラポン容疑者死亡後、署内の防犯カメラを撤去するよう指示した理由について、ティティポン容疑者は、「取り調べ中に死亡したことで機が動転し、してはいけない指示をしてしまった」と反省しています。ただ、部屋に設置されていた防犯カメラ(このカメラの記録映像が、今回の事件発覚のきっかけとなりました)については、「部屋の中にカメラが設置されているのを知らなかった」と説明しました。

電話記者会見は15分ほどで、ティティポン容疑者が所有している膨大な資産について記者が質問しようとしたところ、警察側が会見を打ち切ってしまいました。

ティティポン容疑者が、バンコク都クロンサンワ―区に所有している2億円相当のプール付き豪邸。独立行政機関である「汚職調査委員会」が調査を始める意向を示している一方、財務省税関局が興味深い事実を公表しました。

それはティティポン容疑者が、2011年から2017年の間に、密輸された高級車368台を摘発していた、というのです。

そして当時は、押収された違法輸入品(自動車だけでなく)を競売にかけ、その収益の30%を摘発に関わった人物や組織に還元していた…。2017年に規定が変更され、現在は競売収益の20%に減額。さらに1年で得られるインセンティブ(報奨金)の上限も設定されましたが、それにしても、これは破格ですね。まぁ、タイだけではなく、開発途上国では一般的な制度なのかも知れません。

つまりポイントは、「ティティポン容疑者は、汚職で超リッチになったわけではなく、このように手柄があったから多額の報奨金収入があったのだ」と言いたいのでしょう。しかし密輸自動車の摘発はティティポン容疑者一人でできることではありませんし、当時は署長になるかなり以前のことですから、彼は単なる摘発チームの一員で、上司がいたことでしょう。報奨金すべてをティティポン容疑者が独り占めできるわけがない…。

さらに。

マスコミの調べで、ティティポン容疑者の現在の妻は、第6管区警察本部長の娘さん(テレビで司会などをしています)だったことも判明。一時は「退役警察中将」と報道されていましたが、現役の警察中将ですね。それに第6管区といえば…ティティポン容疑者が署長を務めていたナコンサワン署も統括しています。つまり、「上司の娘」だったわけです。知人の話では、この結婚に際し、ティティポン容疑者は今年1月、6億円の結納金を支払ったのだとか。

現在、「妻」とされるテレビ司会者さんは、事務所を通じて「結婚してはいない、友だちの一人としてお付き合いをしていた」と説明しています。でも、こんな写真がネットで出回っていますね。入籍したかはわかりませんが、少なくても、「友だちの一人」というわけではなさそう。

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女性のことはさておき、この一件で、ティティポン容疑者の超スピード出世の後ろには、警察中将である義父の存在が見えてきました。であればなおさら、クロをシロにしていかないと、叩けば叩くほど、ホコリが出るばかり。

「カツアゲしようとして、誤って殺害してしまった(故意の殺人)」→「麻薬の情報を得ようとして、誤って殺害してしまった(過失致死)」

「これまでの賄賂の集積で、豪邸と高級車購入」→「密輸自動車摘発の報奨金」

このように、クロをシロにしていくわけです。

一方、弁護士やマスコミは、「誠実に取り調べる中で誤って殺害してしまったなら、なぜ、内部者が映像を流出させたのか」という点を突いてくるでしょう。もちろん、「取り調べであっても、虐待は許されない」という点は、いくら警察であっても、クロをシロに変えられない。しかしタイ警察がプロデュースしているのはオセロゲームですから、シロの数がクロを上回れば、結果的に「勝ち」になるのです…。

だいたい、ティティサン容疑者も「逃走中に逮捕された」のではなく、「自首」による逮捕。さらに、すでに逮捕されている7人の部下に対しては、「彼らは私の命令を実行しただけだ。責任はすべて私にある」とのコメントが公表されています。すでにシロの陣取りが有利になるよう、仕込みが始まっているのです。

サワット警察長官曰く。

「容疑者が警察官であったかどうかは関係ない。法の下で平等に捜査する。なぜなら、警察組織は、国民の信頼の上に成り立っていなければならないからだ」。

長官、まさにその通り。でもその言葉、これまで歴代の警察庁長官が何度も何度も口にしてきたことです。

だけど、タイ警察は変わらない。警察改革に取り組んだある有識者が嘆いていました。「この組織を改革するよりも、新たな組織を立ち上げた方がずっと簡単だ。それほどタイの警察は腐りきっている」。

タイでは警察とマフィアがつながっているのではなく、警察自体がマフィアなんだ、と言われています。「今回の事件は、たった1%の警察官の悪事が暴かれただけ。残り99%は、暴かれないまま悪事を続けているのだ」と、辛口コメントをするネット民もいますから、その腐敗度はかなり深刻なのでしょう。

今回の事件があっても、浄化はあまり期待できない。でも、こうして私が記事にできるようになっただけでも、進歩はあります。あまりにも遅々としていますから、タイ警察の浄化が先か、地球の滅亡が先か、という懸念は残りますけれど。

下の写真は、ティティサン容疑者が所有しているランボルギーニ・アヴェンタドール。世界で100台しか売られていないそうです。タイ警察署長の月給、諸手当込みでも40,000バーツほど(約13万2,000円)なんですけどね。

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