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楽しい推し活のために著作権の話を聞いてきた

BTSのファンになり、初めてK-POPカルチャーに触れて驚いたことランキング。

1.すごく髪の毛の色が変わる(BTS調べ)
2.すごく互いの距離が近い(BTS調べ)
3.すごく著作権周りがフリーダム(BTS調べ)

3つ目について特にインパクトがあったのは誕生日広告ですかね。メンバーの誕生日を祝うために、ファンが街中におめでとう広告を出しちゃうやつです。お祝いで広告を出すという発想がなかったし、メンバーの写真でラッピングした電車って…スケール大きすぎません?笑 それポケモンとか鬼滅の刃とかでやるやつやん、みたいな。

他にもファンメイドの動画がYouTubeに山ほどあるし、メンバーのインタビューが出れば各国の言語に翻訳されたものがすぐに流れてくるし、新曲リリース後には「ARMYには天才しかいないんですか?」と問いたくなるようなクオリティのファンアートが生み出される。ファンが最高のコンテンツメーカーであり、最前線に立つ宣伝部隊。ファンがファンを生みファンを育てるサイクル、これを生かすためにコンテンツ周りの規制を厳しくしてないんだなと。とても経済的合理性の高い判断だなと思いました。

私も「よく分からないけど公式が公開している画像は大丈夫…ですよね…?」くらいのフワッとした感覚で、彼らのコンテンツを自分のnoteの記事に使わせてもらっています。このふんわり感を少しでも払拭しようと、note主催の勉強会「クリエイターが知っておきたい著作権」をのぞいてきました。

弁護士の山田邦明氏が、著作権の基本や創作時の考え方などについてレクチャーするという内容。配信のアーカイブはこちら。山田氏がまとめた当日のレポートはこちら

1時間のセッションなので範囲は限定的でしたが、それでも著作権のはじめの一歩を知れてスッキリしたので、自分の推し活に関連しそうな部分をまとめてみました。これは日本の法律の話なので韓国のアーティストであるBTSに当てはまるかは分からないのですが、勉強がてらということで。網羅的な内容ではないので、情報が不足していたり、視点が欠けているところもあるかと思います。その辺りはコメントで優しく教えていただけると嬉しいです。

注)山田氏が当日の資料を解放してくださったので、使わせていただきました。


1. そもそも著作権ってなに?

そこからですか?と思われた方、すみません。そこからなんです(恥)。この時点での当方の知識は「誰かが作ったものには著作権というものが発生して、他の人が勝手に使ってはいけない、みたいな?」という程度。その権利は誰が持つのか。その権利によって何が守られるのか。第三者がどういう行動をとったら「権利を侵害」したことになるのか。権利を侵害したら何が起きるのか。全く分かっちゃいませんでした。

まずは大前提の話で、著作権って何のためにあるんでしょうか。それはずばり「クリエイターの権利を守り、文化を発展させるため」。

(目的)第一条 
この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
引用:国益社団法人著作権情報センター 著作権データベース

背後にある思想は「文化的所産=コンテンツの自由利用と保護のバランスをとって、創作を増やし文化を豊かにしていこう」というもの。ここをおさえたら、著作権に関するもろもろを理解しやすくなりました。こちらの記事に詳しいので、よろしければどうぞ。

では、著作物ってなんなのか。「著作物」にあたらないものには著作権は発生しません(進次郎的ロジック)。

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著作物とは「創作性があるかどうか」がカギで、メニューや時刻表など事実を羅列したものや、形として表現されていないアイデアなどは著作物にあたらないんだそう。BTSに関するコンテンツはほぼ著作物にあたるという理解でよいと思います。

===== ちょっと休憩 =====

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足、、、

2. 何をしたら「著作権侵害」になるの?

著作物を創作した時点で著作権が自動的に発生し、著作者が権利を持つことになります。BTSコンテンツの著作権者はHYBEでしょうね。誰かの著作物を利用するには、例外をのぞいて、著作権者の許諾が必要になります

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「例外」にあたる場合には、利用条件を満たした上でなら、許諾なしで使っていいよ、ということになります。

じゃあどんなケースが「例外」となるのか。推し活に関係しそうなのは下記のふたつ。(例外は他にもあります)

【例外1
個人的な使用または家庭内その他これに準ずる範囲内であれば、権利者の許諾なく著作物を使用できる。

私的使用のための複製(第30条)
家庭内で仕事以外の目的のために使用するために,著作物を複製することができる。同様の目的であれば,翻訳,編曲,変形,翻案もできる。
引用:文化庁 著作物が自由に使える場合

私的使用ってナニ?どこまでが私的使用?営利目的じゃなければ私的使用てことでOK?とか思うじゃないですか。全然違いました。

私的利用かどうかの判断に営利か非営利かは関係がなく、条文にある通り「家庭内」に近い状況のみ私的使用とみなされるそうです。2-3人程度の非公開グループLINEへの投稿くらいならギリギリOK、Twitterなどの不特定多数が閲覧できる場所での利用(投稿)は私的使用の範囲を超えるとのこと。つまりNG。なかなか厳しいラインですね。「人様からお金とってなければ著作権問題ナシ!」という話ではなかった。

私が自分の記事にBTSの画像を貼ってnoteに投稿するのは、私的使用の範囲を超えているので、この点においては著作権を侵害しているということになります…ヒエー(泣)。

例外2
条件を満たした上での引用であれば、権利者の許諾なく著作物を使用できる。

引用(第32条)
公正な慣行に合致すること,引用の目的上,正当な範囲内で行われることを条件とし,自分の著作物に他人の著作物を引用して利用することができる。
引用:文化庁 著作物が自由に使える場合

条件というのは、「ここからここまでは引用です」とはっきり分かること、出典を明示すること、著作物を改変しないことなど(他にもあり)。下の表は、noteの記事で著作物を引用するときの望ましい形式(山田弁護士の提案)。YouTubeの動画は埋め込んだ時点で引用の条件を満たすようにできてますね。

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私がnoteの記事で利用しているBTSのコンテンツは、ほぼ公式が公開している動画か画像なので(公開された著作物)、リンクなどで出所元を明示すれば法的にセーフ(著作権を侵害していない)になりそう。ホッ。ただしこの記事の画像は、公式画像を自分で加工してしまったので引用にあたらない、つまりアウトってことですね。申し訳ありません…(泣)。

===== ちょっと休憩 =====

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キルトからのぞく内転筋、、、

3. 著作権・肖像権・商標権はどう違うの?

ちょっと話が横道にそれますが、著作権・肖像権・商標権の違いについても簡単に説明がありました。このあたり、素人にとっては区別が難しかったりするのですが、法律家にとっては「何が分からないのか分からない」ほど異なるものだそう。ポイントは、何を守るための権利なのか。

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著作権は創作の話で、肖像権と商標権は創作とは別の話として整理しましょう、とのことでした。

雑にまとめると、許可なく誰かを撮影すると肖像権を侵害する可能性がある。許可なくブランドやサービスのロゴを使用すると商標権を侵害する可能性がある。ということですね。BTSのメンバーは自分の肖像権について、「使っていいですよ」的な契約をHYBEと結んでいるはずです。


4. 「グレー」って、どういう状況のことなの?

これ、法律の話と現実の話、ふたつに分けて整理するとすごくスッキリしました。

まず、法律の話。上にあげた条文を見て「定義があいまいで、正直よく分からん」と思ったあなた、慧眼ですね。法律って白黒はっきりつけられるイメージでしたが、著作権については、こんな感じだそう。

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グレー部分、だいぶ長すぎません?笑 あいまいな部分が非常に多く、はっきり事柄が決まっていないため、弁護士でもはっきり「こうだ!」と言える部分が少ないそうです。つまり法律だけに焦点をしぼっても、正解・不正解がはっきりしないグレーゾーンが大きいと。

そして、法律の話に空気・慣習・雰囲気・倫理などを加えた現実の話はどうなっているかというと、

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こんなにもあいまいな状況だそうです。これがどういうことなのか、同人誌の例で説明されるとすごく理解できました。同人誌も著作権的にグレーなどと言われていますが、法律「だけ」の話に限ると、同人誌の位置はこちら

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真っ黒でした。著作権を侵害している。じゃあなぜ捕まらないの?というと、「公式が黙認している」から。分かっていて見逃しているってことですね。著作権侵害は権利者が訴えない限りは罪になりません。第三者が「アナタの権利、侵害されてますよ」とタレコミしても、権利者が動かなければ何も起きないのです。

自分たちの権利が侵害されているのに、なぜ見逃すのか。それは公式にもメリットがあるからでしょう。二次創作する人たちの多くは熱狂的なファンで、掲載誌も買えばコミックも買うし、グッズその他にも惜しみなくお金を落としてくれる。推しの画を描いてはTwitterにあげてくれるので、その作品がSNSでグルグルと回りながらファンの熱量を増やすし、バズった日には絶大な宣伝効果となる。新たなファンが増えれば文化も発展し産業も栄える。法律NGなことは絶対しちゃダメ!!!と言い切れないのは、こういうことですね。

と、ここで。

あれ?これ、BTSとファンダムの構図と同じじゃない?

おそらくファンメイドのBTSコンテンツは、法律「だけ」の話でいえば、「黒」に位置するものが多いだろうと思われます。誕生日広告も著作権的には黒でしょうけど、HYBEが見逃しているので現実ではグレーゾーンにいる。同人誌の構造と同じで、そうした方がHYBEにとってメリットが大きいからです。

HYBEという会社のミッションは「We believe in music」で、「音楽で感動を伝え、良い影響力を分かち合い、人生の変化を作っていく」ことを目的としている。その実現のためにアーティストを育て興行をし、コンテンツを作り販売して収益を得ている。著作権の保護はそのための手段のひとつにすぎない。利益が不利益に勝るという判断のもとに、法的に黒いものも現実でグレーゾーンに置いてくれているのだと思いました。

今やTwitterのフォロワー数は3600万人、オンラインライブでは130万人を動員するBTS。ダメなものはダメ!権利侵害許すまじ!でやっていたら、マイナー言語である韓国語のコンテンツが、ここまで世界に広がることは難しかったんじゃないでしょうか。なので法律NGなことは絶対しちゃダメ!な状況は、おそらくHYBEも望んでないような気がします。望んでいるなら、そのような意思表示をしているはずだから。

===== ちょっと休憩 =====

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手の甲、、、

5. グレーゾーンだったら、このままでいいよね?

勉強会で、山田弁護士が何度も口にしていたのが「自分がどの位置(ゾーン)にいるか理解して創作しましょう」というコメント。理由は、昨日OKだったものが今日からNGになる、ということも起きうるから。なぜなら、まず法律自体があいまいで、ケースバイケースで判断が変わる。そしてグレーゾーン(法的に黒、現実ではグレー)にいるということは、権利者の気持ちひとつで、突然黒いエリアに強制移動させられることがあるからです。

法的にも現実的にも黒となり、著作権侵害として訴えられたらどうなるのか。損害賠償や、刑事罰までいったら懲役(!)が課される可能性もあるとのこと。訴訟を起こされなくても、コンテンツを消されたりSNSアカウントが凍結されたりすることも起きますよね。実際に最近も、何かのコンテンツがひっかかったのか、アカウントを突然凍結された方の例を見ました。

「法的には黒だけど、見逃してくれている」と理解していれば、仮に規制が厳しくなったときに、「もともとグレーだったから」とコンテンツをささっと閉じたり、もろもろの対応をしやすいかとおもいます。心の準備も物理の準備もできますし。


6. で、結局どうすればいいの?

自分も楽しくアーティストも喜ぶ推し活をしたい。でも怒られたり捕まったりしないラインがいまいち分からない。山田弁護士のアドバイスは「権利を持つ人の意向を知りましょう」でした。BTSの場合はHYBEの意向に沿った推し活であることが基本ということですね。

気をつけておきたいのが、何がOKで何をNGとするのかは、権利を持つ人が決めるというところ。例えば「無料でオンラインライブを見れるようにしたら、もっとファンが増えるはず。そしたらBTSの利益になるからこっそり配信しちゃおう!」はダメということです。なぜならHYBEが「オンラインライブのアップロードはダメ」と表明しているから。実際オンラインライブ周りは厳しく取り締まっていて、大きめのSNSアカウントを停止させたりしてました。

NGと明示してあることはしない。あとはHYBEの動向を観察しながら、この創作は望ましいことなのか、彼らに不利益をもたらさないだろうかと想像して行動すれば、おおむね大丈夫な気がします。ファンベースが急速に巨大化しているので、何かしらの方針変更は徐々に訪れるかもしれませんが。

===== ちょっと休憩 =====

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パジャマ、、、

7. 楽しい推し活のためのまとめ

日本の法律「だけ」の話に照らすと、

・BTS関連のコンテンツは基本的には許可なしに利用できない
・家族くらいの小さな閉じた場所で使うならOK
・非営利目的であっても、不特定多数が閲覧できる場所への投稿はNG
・引用とはっきり分かる形での利用ならOK

現時点でのHYBEの意向はたぶん、

・有料コンテンツを使ったアップロードはNG
・そのほかはHYBEとBTSの利益(広い意味での)につながることならOK

こんな感じでしょうか?HYBEの意向については個人の見解にすぎないので、確証はないのですが。それとYouTubeやTwitterなどの各プラットフォームの利用規約については調べられていないので、今後補足すべきことを発見したら更新していこうとおもいます。

著作権に関して、他に参考になる記事があるのでおいておきますね。


山田弁護士による勉強会のまとめ

note運営と弁護士の方の対談

コンテンツの運用・制作をされている方の見解

ARMYの方による徹底調査

LDHのガイドライン


長文にお付き合いいただき、ありがとうございました!

最高の癒しを約束する、お口直し動画をどうぞ~

ジミン&Vと子どもたちのやりとりがかわいかった。癒し、、、

※本記事のヘッダー画像はこちらからお借りしてます。


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