スーパーレック対武尊を見た感想~武尊はヒーローかヒールか~

スーパーレック対武尊の試合を見ました。
いろんな人が言うように凄い試合でした。
格闘技を見ていて「いけ!いけ!」と叫んだのは、2010年のピーター・アーツ対セーム・シュルト以来だったでしょう。

結果はこれを見ている人はわかっていると思うし、試合内容についてもどうこう言えるだけの技術も私にはないので記載は控えます。

この試合後、日本の団体にはないリング上での敗者のインタビューで武尊が語った言葉がとても印象的でした。

大抵、今回の武尊のような立場になった選手は、「期待を裏切ってすみませんでした」というような言葉を発することが多いと思います。
しかし、武尊が発した言葉は「これ以上はできません」というものでした。
その際の武尊のあまりの悲壮感にそれまで英雄に大声援を送っていたファンが若干引いていた感じも受けました。

この言葉は偽りなき本心だと思います。
そしてどうしてこの言葉が出たのかも少し考えてみました。

今でこそK-1、日本格闘技界の英雄となった武尊ですが、元々はどちらかというとヒールキャラだったと思います。
キャリアの初期は髪の毛を奇抜に染め、舌を出し笑顔で相手を挑発しながら倒す選手でした。
新生K-1ができた時も最初から団体の顔で英雄だったというわけではありません。
その証拠に彼のキャリア初期で最もバズった試合となった対小澤海斗戦は小澤側から喧嘩を売ったにもかかわらず、彼を支持する人も多くいた印象があります。

その後、2016年に新生K-1では初の2階級王者となり、名実ともに新生K-1の象徴となった彼の前に現れたのが、あの神童です。
2010年代の後半はとにかく武尊は叩かれていた印象があります。
勝っても負けても叩かれていたし、彼の負ける姿を期待する人もK-1の外に多かったと思います。

そんな中、武尊は2018年の皇治戦後のマイクアピールや2020年のRIZIN観戦を経て那須川天心戦の期待が高まり、天心から逃げていたわけではないことを証明すると共に勝ち続けました。
そうして気づいたら那須川天心と戦う時には武尊がみんなのヒーローとなっていたのです。

そして、那須川天心に彼は敗れました。
武尊に不利とされるルールを飲んで試合をしたこともあり、負けた武尊に「ありがとう」という声が多く寄せられ、彼自身もその言葉が忘れられないというコメントを残しています。

長期休養後1試合を挟み迎えた今回の対スーパーレック戦。
彼は天心戦と同じくみんなのヒーローとして試合に出ました。
いや、天心戦以上に日本人みんなが応援していたと思います。

しかし、試合には敗れてしまいました。
試合後のインタビューでは、あの天心戦の退場の時と同じような空気感を感じました。
そんな中で彼が発した言葉が「もうこれ以上はできない」という言葉でした。

私は武尊と同じだけの人から応援されることも非難されることもないので彼の抱えるプレッシャーがどんなものか全くわかりません。
ただ、非難されることもプレッシャーになれば、応援されることもプレッシャーになるのだろうと感じました。
彼のキャリアはよく考えればファンもいればアンチもいるそんなキャリアだったと思います。
そして今は圧倒的に応援してくれるファンが多い状況です。

プロ野球界で落合博満という歴史に名を刻む選手がいました。
世間や同じ業界のOBから非難されることが多かった彼はその非難の言葉を力に変えて群を抜いた成績で周囲を黙らせる選手でした。
その落合を世間が味方したのは1996年のオフ。
詳しくは書きませんが、巨人を追い出される形で日本ハムに移籍した時、彼は中年の星として世間から支持されました。
しかし、移籍先の日本ハムでは活躍できず2年後、ユニフォームを脱ぎます。

人から応援されることが力になり活躍する人を陽とするならば、人から非難されることを力に活躍する人が陰と言えるでしょう。
人によってどちらをどう見ているかは異なりますが、天心と武尊の対比は天心が陽で武尊が陰であったと思います。
あの時期は武尊にとってきつかったとは思いますが、逆にそれが彼の反骨心に火をつけ、あの快進撃を生んでいたのかもしれません。
武尊本人もスーパーレックが有利と予想されている方が燃えると言っていました。

今回、みんなに応援されることは嬉しい気持ちと同様にプレッシャーにもなっていたと思います。
最後のリング上での言葉はファンを突き放したのかなと思いました。
私としてはそれを非難するつもりはなく、肉体的にも精神的にもそこまで追い込んでいたのだろうなと思います。

さて、気になるのが彼の次戦ですが、彼が次に向かうモチベーションがあるなら次の試合も見たいし、もし次へのモチベーションが湧かないようであれば身体も満身創痍でしょうし、グローブを置いても良いと思います。

ただ、旧K-1の全盛期に無料で地上波のテレビ中継を見ていた私が、THE MATCHにしてもONEにしても格闘技をテレビで見るためにお金を払っても良いと思わせてくれたのは武尊というファイターがいたからだということは決して頭から離れないでしょう。

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