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月にみえる街灯

8月5日(月)
インタビューに立ち会った際、いち読者として話しを聞いてみると、自分の好みがよくわかる。小説の物語性や息遣いのようなヴォイス、繊細な文体や華麗な比喩ももちろん好きだが、なぜその小説を書いたのか、書けたのか、小説家の口から聞くのが好きだ。

そして、ひとつの小説のことをじっくり聞くのも好きだが、小説という面白いメディアをまるごと繰り出して、小説とは何で、何に深いのか、小説を読むとはどういうことか、小説を好むとはどういうことか意見を聞き、自身でも考えて沼に嵌るのが好きだ。ひいては、小説の可能性を高く見上げることが好きで仕方がない。現代文学を牽引する小説家の話を身近に聞ける贅沢を思う。そして、贅沢はみんなで共有したいとも思う。

夜、夫がトマトパスタをつくってくれている間に、保育園を休んでいたこどもとクリーニング屋さんに。こどもはクリーニング屋さんを「ラムネを くれるところ」と認識している。「ラムネ くれるといいね」とおしゃべりして出発。

片道5分の間、ベビーカーから月を見あげて「おつきさま いるかな」「おつきさま くもに かくれちゃうかな」「ああ かくれちゃったねえ」とずっと教えてくれる。たまに街灯を月と見間違えるのはいつまでだろう。突然、あれは月ではないと気づいて、街灯が月に見えたことなんて忘れてしまうのだろうか。

8月6日(火)
仕事が落ち着いていて、ひとつひとつ業務を整えられる日だった。その余裕が伝わったのか、唐突に「読むのに夢中になって電車を乗り過ごすなんて、どんな本?」と並びの席の読書好きに聞かれて、先日Slackにそう書いたことを思いだす。あのとき読んでいたのは『殺人者の記憶法』。今度、下北沢で行われる江國香織さんのイベント、翻訳と小説のもたらし合う影響について話す。

19時まで仕事をして、靴ずれするパンプスで表参道まで急ぐ。大学の友人ふたりとごはん。ハウスワインを飲みながら、蛸のマリネ、帆立のカルパッチョ、アスパラガスのアーリオオーリオ、ジェノベーゼ、クリームブリュレとガトーショコラ。私たち変わらないね、とうれしく幼く盛り上がる。好きなドラマは、全員口を揃えて「やまとなでしこ」。達者でいようね。

8月7日(水)
仕事に余裕があるときに休んでおこうと、有給日数を確認して、明日も来週も再来週も半休を入れておく。1日お休みするよりも、普段どおり起きて休める4時間に集中できる半休が好きだ。

お昼は月に2度のシャッフルランチ。さっぱりおうどんにしようと思っていたけれど、酷暑に負けない行列で、道を曲がって、kikiに。店員さんがおすすめしてくれたハーブライス、生のとうもろこしや色々ハーブがびっくりのおいしさ。同席するなかに縄文時代を好むインターン生がいて、もう生涯聞かないような縄文時代の話が新鮮だった。

夜は友人と飲みに。ビール、梅酒サワー、こぶ酎、ゆずサワー。お新香、たたきおくら、刺し盛り(タン、ハツ刺し、ねぎまみれのレバ刺し)、ゆでタン、串焼き。トランペットのネックレスをつけていたら褒めてもらう。「でも大学の頃につけていた、はてなのネックレスも良かったよね」なんて、私のあの頃のネックレスを覚えているひとは他にいない気がする。クラフトビアバーに寄る。

8月8日(木)
午前は小説の打合せ。インタビュー形式で小説の核を明らかにする。

午後は半休。シアター・イメージフォーラムで『サマーフィーリング』。サシャが亡くなって、恋人のローレンス、サシャの妹ゾエが3年間をかけてその死や周りのことを味わい、経過してゆく物語。後半に続く、ローレンスの瞳、ゾエの陶器のような佇まいも美しいけれど、開始5分、サシャがまるでただスイッチをオフしたように崩れ死ぬのが印象的。

夜、以前酒場で食べたゴーヤのしらす和えを自宅で真似する。しらす和えにはわかめをたっぷり混ぜる。何を隠そう、今、私の冷蔵庫にはおいしい塩漬けわかめがある。これは、学生時代にお鮨屋さんでアルバイトをしていた頃に知った、塩漬けわかめ。このわかめを先日近所のスーパーで光り輝くように見つけて、購入。このわかめは生わかめと食べ間違うおいしさと歯ごたえで、何に入れてもワンランクアップさせるわかめ。

8月9日(金)
何時に眠っても5:30に目覚める。昨夜届いた、Tsuru by Mariko Oikawaのミュールフラットを早朝から確かめる。ハラコ素材とコットンパールがかわいい「Richard」。他にも、この夏を乗り越えるためのバックラウンドキャミソールがふたつ届いていた。ワンピースの下で、背中が生地に密着していないというのはいい。

仕事は順調に、ヨガをして帰る。こどもと夜ご飯。高野豆腐のから揚げ、蒸しなす、お味噌汁。お風呂に入浴剤を入れるのはこどもの仕事。風呂桶をハンドルにして、「のりもの なあに」と遊ぶのがかわいい。めずらしく穏やかに眠り、翌朝はご機嫌に早起きした。

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