見出し画像

梨ジュースの冷

8月10日(土)
こどもと水遊びをしてから、神保町に。めざすは、韓国小説の翻訳を多く手掛ける出版社クオン(CUON)が同階で営むブックカフェ「チェッコリ」。

クオンが出版する ”新しい韓国の文学“ は、韓国現代文学の翻訳シリーズ。現在19まで出ている。選書にもそそるものが多いのはもちろん、一色ベタのベースにさっと置かれるイラストで出来上がる装丁がまた美しい。まだ2冊しか読んでいないけれど、期待を寄せて2冊を購入。

いま読んでいるのは『13 アンダー、サンダー、テンダー』。タイトルはそれぞれ「age」の接頭につけて意味を持たせているそうで、under age(未成年)、tender age(いたいけ)はもちろん、thunder ageという著者の造語が面白い。あまりにも強烈かつ切実な十代の感覚を表しているのだと、訳者あとがきで紹介されている。情報の拾いにくい翻訳文学においては、特にあとがきと解説を楽しみに読んでいる。

会計時、レジ横に、セウォル号がシンボルのキーチェーンがテイクフリーで置いてある。シンボルを見ただけではピンとこなくて、セウォル号と言われて初めて気付く自分が恥ずかしい。韓国文学をきっかけに韓国のことを知りたくなり、『目の眩んだ者たちの国家』も購入する。

◎「セウォル号以後文学」の原点

2014年4月16日に起きたセウォル号事件。修学旅行の高校生をはじめ、助けられたはずの多くの命が置き去りにされ、失われていく光景は韓国社会に強烈な衝撃を与えました。

私たちの社会は何を間違えてこのような事態を引き起こしたのか。本書は、セウォル号事件で露わになった「社会の傾き」を前に、現代韓国を代表する小説家、詩人、思想家ら12人が思索を重ね、言葉を紡ぎ出した思想・評論エッセイ集です。

本書に寄稿している作家たちの文学作品は、近年、日本でも広く翻訳出版され、多くの読者を獲得するようになりました。それら新世代の作家が深く沈潜した場所から発した研ぎ澄まされた言葉の数々は、揺るぎない普遍性を獲得し、「震災後」の世界を生きる日本の私たちの心の奥深くに届くものであると確信しています。

8月11日(日)
「ねえ まま おきて あそびにいくよ」と起こされる。実家に向かう地下鉄、こどもが懸命に銀色の手すりを両手で掴むのがかわいい。こういうふうにこどもの頭のてっぺんを見るとき、低い視界からみえる世界はどんなふうだろうと思う。

大きく迎えられた実家で、こどもは水遊びに夢中。このごろは何かを洗うのも好きで、シャンプーやボディソープのボトルを取り出しては入念に洗う。私は読書をしたりうたたねしたり。夜は母が用意してくれたごはんを食べる、こどもが一瞬でも場を外れれば瞬く間に家がしんとする。

8月12日(月)
赤い京急でめざすは馬堀海岸、横須賀美術館「せなけいこ展」。芝生と海を前に横長のガラスが目に映える美術館で、はじめて見たとき、うれしいため息をついてしまう。

落語家の夫や、切り絵師である兄弟子からの影響を受けながら、遅咲きの絵本作家デビューを果たしたせなけいこさん。貼り絵でできた絵本原画は、『ねないこだれだ』『ふうせんねこ』など知っている作品はもちろん、雑誌や書籍装丁に寄せていた原画の細かさに目を奪われる(たんぽぽの綿毛も切り絵なのだ)。子育て中にデビューされたので、絵の具だとすぐに作業を開始したり止めたりができず、手法として貼り絵がぴったりだったそう。虎屋の包み紙や、安倍川餅、近所の文具店の包み紙なんかが飾られていた。こどもは妖怪おばけののれんを何度もくぐって楽しそう。

海軍カレーをたべて、夜は父がモツ鍋をつくってくれた。至れり尽くせりの実家で、こどももずっとはしゃいで、よく食べている。こどもの隣で寝たふりをしたままリビングで眠る。

8月13日(火)
実家から出勤。実家からの方が渋谷のオフィスに近い。世間はお盆で、メールの受信ボックスも、オフィスもいつもより静か(コルクの夏季休暇は5月から10月の間で自由にとるスタイル)。仕事は順調に進み、夜はこどもを迎えに待ち合わせた駅で、父とこどもとつばめグリル。ドイツビール、牛肉とポテトの北欧風、和風ハンブルグステーキ、ロールキャベツ。こどもは新幹線ホームでもらったシールを2枚、父に貼ってはうれしそう。

8月14日(水)
相変わらず静かなオフィス。仕事は「人に連絡をすること」と言われるように、誰かが休んでいると、誰かも静かになる。雨降る東京から飛行機で3時間の上海ではブックフェアが開催中。日本からは平野啓一郎さん、角田光代さん、森見登美彦さんなどがゲストとして招待されている。東京以外での読者の広がりはどんなだろう、と東京からインターネットを追っている。

夜は、中高からの友人ふたりとごはん。ひとりはこどもにTシャツを、ひとりは先週行ったらしいハワイのお土産に歯磨き粉をくれる。このごろ気になっていたのだけれど、これだけファッション用語がアップデートされ続ける中、「Tシャツ」って、もうすこしカッコいい名前に売れ変わることはないのだろうか。一軒目のイタリアンでも、二軒目のバーでも、ワインを飲み続ける。12歳から知り合っているふたり、thunder ageではないけれど、逆に変化が意識される。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?