振り返る過去は瞬く間に

振り返る過去は瞬く間に

 僕たちは半年ぶりに顔を合わせたが、そこには久し振りという言葉も、距離感の測り直しもなかった。二十年来の友人だ。半年や一年会っていなくとも関係性に変化がないのは当然と言えよう。
 居酒屋の隅で酌を交わし、スーパーで飲みきれない量の酒を買って僕の家で思い出話を肴する。
 どちらかが言い出すでもなく、どちらかが気絶するように眠るまで今日の飲み会は終わらない、という事が決まった。

「俺たちの学生時代ってしょーもなかったな」
 
 酔いと入れ替わりにやって来た睡魔と戦う僕には、親友の言葉がお経のように聞こえた。
曖昧な発声と平坦なリズムが睡魔を支援する。
実際は、僕の倍ほどのアルコールを摂取しているとは思えないほどハキハキと明瞭な声なんだろうけど。気持ちよく酔っていると全ての音が間延びして聞こえてしまうものだ。

「あー……、ね」
「学生時代どころか社会に出た今も変わらないけどさ」

 胡乱な相槌が気に入らない彼は、テレビに映る僕のアバターに最大コンボを入れてダウンさせた。照射を知らせるファンファーレが部屋に響く。
 惰性で次の試合のキャラクターを選択する。

「必死さと言うかさ……今を、これからを考えていく活力みたいなのが見当たらないんだよ」
「なにその使い古されたセリフ……ベンチャー企業にでも転職するの?」
「別に? でも新しい事には挑戦したい」
「僕たちもうアラサーよ? 夢より、女見つける方が先じゃないかい」
「茶化すなよ」と。彼はイラついた声色で言った。

 僕は選択キャラクターを連打して試合開始を急かす。
 これから始まる話は茶化して話を拗らせるか、何か別の物に集中していないと訊いていられない気がした。彼は今も昔も変わらないと言ったけど。学生の頃なら神妙な面持ちで彼の気持ちに寄り添って話し合いができただろう。
 怪訝な顔をした彼がキャラクターを選択して試合が開始する。
 さっきまではただ握っているだけも同然だったコントローラーを巧みに操り、敵のアバターの体力を削っていく。

「お前さぁ、俺と話ししたくねぇの?」
「連敗続きで目が覚めただけだよ」

 試合はすぐに終わり、ステージでは僕のアバターがガッツボーズを取っている。

「はぁ……なんか僕眠くなった」
「おいおい、目が覚めたとか言ってたじゃねぇか」
「気のせいだった」

 彼がなにやら乱暴な口調で話しかけていたが、僕の脳はもうそれを判別するのを諦めていた。何もかもどうでもいい気分だ。
 僕が横になると睡魔が猿臂を伸ばして意識を刈り取った。

 翌朝、目が覚めると部屋に彼はいなかった。空き缶とつまみが散乱した薄汚い部屋には僕一人だけが残されている。

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