出会い系で会った業者に2万円イカれた話

昨日の仕事終わり。俺はふと思い立って、出会い系で割り切り相手を探すことにした。

別に家庭内に不和があるとかそういう訳ではない。むしろ、妻のためにシュークリームを買って帰って、ウッキウキで声を掛けたら妻が友人たちとVC有りでのゲーム中でお通夜状態にしてしまったくらいには夫婦仲良好である。問題は、単純に俺の性欲が強すぎる点だ。1日3シコがアベレージである俺からのアプローチは、妻をほとほと困らせていた。

幸い、と言えるかどうかは怪しいが、我が家はどちらも精神構造がラオウだったため、肉体の純潔性にそこまで強い執着はなかった。色々と話していく中で、結果として出会い系サイトを始めてみることになった。

数ヶ月前にサイトを始めてから、俺は趣味のパチンコ貯金がそれなりに貯まると、いわゆる割り切りに手を出した。割り切りとは、お金で性サービスをやり取りする身体だけの関係で、関係性を重視しない自分には都合が良かった。金で性サービスを受けることへの一抹の寂しさは有ったものの、その行為はそれなりの満足感を俺に与えた。

そんなこんなで、俺は昨日に至るまで3度の割り切りを経験していた。本番の有無は人によって違ったが、それら全ての経験が俺の中に”慣れ”を産んでいた。

だが、それが今回の過ちの始まりだった。人間にとって、”慣れ”は多くの過ちを引き起こす要素であると、俺は今回の経験を通して改めて実感させられた。

前置きが長くなったが、話を昨日へと戻そう。

仕事が終わって出会い系サイトを開いた俺は、暫しのサイトサーフィンの結果、割り切り募集をしている女性の中から、琴線に触れた女性を発見した。頭が海綿体でできていた俺は、特に何も考えず、彼女へメッセージを送った。

……昨日の過ちポイントその1である。ご存知の諸兄も多いだろうが、出会い系では往々にして「プロフ詐欺」というものが横行している。いかにも男受けしそうなプロフで男を釣り、実際にはプロフとはかけ離れた人物がやって来る……というものである。そのため、口コミを探す、掲示板を見るなど、様々な方法で詐欺を見抜くことが必要不可欠だ。

慣れのせいか、今回俺は深く考えず、「始めて間もない感じだし大丈夫だろ」なんて適当に女性をチョイスした。だが、業者の世界には、プロフに悪い口コミなどが付き始めたら新たにアカウントを作り出す。いわゆる「転生」である。転生はVtuberだけの特権ではないのだ。

そんな初歩的なミスを犯した俺は、意気揚々と待ち合わせ場所へ向かった。……だが、相手からの連絡は無く、姿も見えない。待ち合わせ時間を5分ほど過ぎてからやっと、遅れますという連絡があった。

過ちポイントその2である。初対面の人間との待ち合わせ時間を平気でブッチするヤツがまともな人間なはずはないのだが、頭に海綿体しか詰まっていなかったためその考えに至らなかったのである。

結局、俺は霧雨降る街の中、会ったことない人間のために都合30分待たされることとなったのであった。ハチ公もびっくりである。

「すいません、サイトの方ですか?」

長い待ち時間の末、やっとご対面……だが、歴代一のハズレだった。今まではなんかこう、加工してました!ゴメンね!って感じの範囲だったが、今回はシェケナダムからドスコイさんがいらっしゃっていた。俺がプロフで見た地雷系女子はどこだよ。

”アタリ”に慣れてしまっていた自分にとって、これはかなりのショックだった。しかし、もうかなりの時間を使っている。それに、胸はデカいからワンチャンあるかもしれない。まだ、取り返せる……!

……典型的な負のループである。今年の3月ごろにPダンまちでタコ負けした時から何ら精神性が成長していない。

そんなこんなで、天気の話をしつつホテルへ直行。だが、部屋に入った瞬間、ドスコイの雰囲気が変わった。

「じゃあ、取り敢えず貰うものだけ貰っていいですか?」

突然、ドスコイの霊圧が跳ね上がった。急に言葉から”温度”が失われたのだ。温度を失った言葉は俺の心臓を縮み上がらせ、興奮状態の脳が一気に冷却される。

「あ、はい」

行為の前にお金を渡すのは別段おかしなことではない。だが、その言葉の温度差が、死神の鎌のように俺の首筋に「ある可能性」を提示していた。

業者じゃね……?

「じゃあ取り敢えず服脱いでもらって、勃たせてゴムつけてもらっていいですか?」

業者じゃん。これもう業者じゃん。急に全てを投げるじゃん。今までの子はちゃんとプレイしてくれてたのに。絶対業者だろこれ。
死神の鎌が振り下ろされた瞬間である。これには流石に抗わざるを得ない。

「あの、前戯とか……」

「いや、私はそういうの無いんで。今まで会われた子がどうだったかは知りませんけど、それはそれですね」

キレられた。その後数分に渡って滔々と説教された。全裸で。既に泣きそうだった。人生で一番の屈辱感を俺は味わっていた、俺だけ全裸で。説教の”圧”が凄すぎて、俺は赤べこになることしかできなかった。

「じゃあとりあえず、ゴムだけつけてください」

結局、ゴム越しに扱いてもらうこととなった。だが、いかにも作業といった風が全開で、一ミリも興奮しなかった。そんな息子の様子を見て、ドスコイの”霊圧”が膨れ上がっていくのを全身で感じ続ける。

“圧”全開で作業をされ続けている俺。神経がバグり散らかしてピクリとも反応しなくなった息子。怒るドスコイ。そんな地獄の中で、俺はサーモンランでドスコイに襲われるイカの気持ちを追体験していた……。

「あの、どうにかしてくれませんか?」

暫くの作業の痕、ドスコイの言葉のフライパンが俺をぶん殴ってきた。その一撃は、ズタボロになっていた俺の精神には効きすぎる。俺のライフはもうとっくに0なのに、バーサーカーソウルでも使っていたのだろうか?

「アッ、スイマセッ」

吐きそうなくらいに目の前がチカチカして、呼吸がどんどん荒くなっていくのを自覚していた。こんな感覚は、去年上司に本気で詰められた時以来である。なんで俺は大金はたいて地獄をリバイバルしているんだ。

「いや、すいませんじゃなくて、どうすればいいですか?」

もはや限界だった。早くこの地獄から解放してくれ。そんな思いが俺に何とか言葉を紡がせた。お金のこととか、性欲とか、そんなものはとっくに何処かへ行っていた。

「あの、もういいんで、帰って貰っていいですか」

「………………」

ドスコイは、ゴミを見るような目を俺に向けた後、荷物をまとめると無言で部屋を去っていった。とどめを刺された俺は、二度とゴミを見るような目をご褒美などというような浅はかな行為は辞めようと心に誓った。

ドスコイが部屋を出てから暫くして、部屋の内線が鳴り響いた。抜け殻と化した身体を引き摺って、俺は何とか受話器を取った。

「お客様、お連れ様が先に出られたようですが、お客様はいかがなされますか?」

「あ、えっと……」

退室します、と答えようとして気づく。自分の声が酷く震え、しわがれていることに。と同時に、自らの頬に温かい液体が伝っているのを感じ取る。……これは、涙?泣いているのは、私?

「……まだ、少し部屋にいます」

「分かりました。退室の際はルームキーをお持ちください」

通話の切れた受話器を戻し、俺は吼えた。哀しみと悔しさと後悔と虚しさと絶望と……ありとあらゆる負の感情が俺の中を駆け巡り、咆哮と共に吐き出されていった。防音性に優れた部屋は、そんな俺の慟哭を優しく吸収してくれた。

長い時間が経った。延長料金がかかる前に、俺は逃げるようにホテルを後にした。精神がどん底の底の底の底の状態のまま、家に着き、飯を食って、風呂に入って、同期たちと通話して寝た。

……そう言えば、同期たちは今日、みんなで美味しいラム肉を食べるらしい。でも、俺は行くと言えなかった。昨日、諭吉を二人失っているから。
今俺は、部屋でカップラーメンを啜りながらこの文章を書いている。ラム肉とカップラーメン。俺はどこで道を間違えたのだろうか。食べることは叶わぬラム肉を想って、俺は静かに涙を流した。

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