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【相続税】小規模宅地等の特例について

こんにちは。SSKC会計グループの岩田です。

今回は小規模宅地等の特例について。この単元を初めて見た時は理解に苦しみました。特に小規模宅地を”複数”相続する場合です。

今回の記事は「異なる限度面積の場合(限度内併用)」がメインとなります。それまでの項目はテキスト等で掲載されているような基本的な内容ですので、必要無い方はすっ飛ばしてください。

小規模宅地等の特例とは

租税特別措置法第69条の4で定められている特例です。
概要を書くと、

個人が相続又は遺贈により取得した財産のうち、一定の要件を満たす事業用又は居住用宅地等がある場合は、課税価格に参入すべき価額は宅地の区分に応じてそれぞれの割合を乗じて計算した金額とする。

昭和50年に出された「事業又は居住の用に供されていた宅地の評価について」という個別通達を元にして作られた特例です。この通達は、被相続人の事業用・居住用の「宅地」が相続人等の生活基盤の維持のために不可欠なものであって、その処分に相当の制約を受けることから設けられたものです。「小規模宅地等の特例」が設定された根拠は生活維持のためなのです。

この特例が出来る前は相続税を払うために居住・事業用資産を売却していたそうですが、生活基盤となる資産を他資産と同様に徴収するのはおかしいのではないかということですね。相続税の機能の一つとして「富の再分配」機能があるという話をしましたが、生活基盤の一部を富として徴収してしまうのは機能の働きとしては矛盾していますよね。

このような背景があって作られたのが小規模宅地等の特例です。

減額計算

特例の適用を受ける宅地は評価額を減額することが出来ます。

計算方法は下記の通りです。

(1)特定事業用等宅地等、特定居住用宅地等の場合
→1㎡あたりの価額×80%×限度面積
(2)貸付事業用宅地等の場合
→1㎡あたりの価額×50%×限度面積

・宅地の区分

区分は3つ。
(1)特定事業用等宅地等
 ①特定事業用宅地等
 ②特定同族会社事業用宅地等
(2)特定居住用宅地等
(3)貸付事業用宅地等

①のみ2種類の宅地の総称です。各宅地に該当する要件は国税庁が公開しているこちらのページをご参照ください。平易に書くと、

(1)特定事業用等宅地等→事業の用に供していた資産(貸付業を除く)
(2)特定居住用宅地等→居住の用に供していた資産
(3)貸付事業用宅地等→貸付業の用に供していた資産

となります。名前から連想出来るものばかりですね!

・限度面積、減額割合

特例を適用する際、宅地区分によって適用が認められる面積の範囲が定められています。

限度面積表

例えば事業用宅地を500㎡相続した場合でも、400㎡までしか減額対象にならないということです。計算式を再掲すると、

(1)特定事業用等宅地等、特定居住用宅地等の場合
→1㎡あたりの価額×80%×限度面積
(2)貸付事業用宅地等の場合
→1㎡あたりの価額×50%×限度面積

これは宅地の減額単価(1㎡あたりの価額×減額割合)は限度面積までしか認められてないよ、ということですね。超える部分は特に減額されません。

例えば、500㎡の事業用宅地で評価額が80,000円だった場合
→(80,000円÷500㎡)×80%×400㎡=51,200円
となります。

小規模宅地等の特例の存在意義は「生活維持のため」でした。ここで定められる限度面積は生活基盤の維持のために必要となる面積であり、それを超える部分は維持のために必ずしも必要とされていないため減額しないのだと思われます。

・限度面積の根拠

限度面積が定められている訳ですが、根拠が気になりませんか?私はどうしても細かい部分が気になる性分のため調べました。まあ、お偉いさんが適当に好きな数字を当てはめた訳ではないはずなので、何かしら理由はあると思った次第です。

現在、特定居住用宅地等の限度面積は330㎡ですが、これは平成25年の税制改正で定められたものであり、それ以前は240㎡でした。参考までに変遷過程の表を載せておきます。

課税の特例(平成21年作成)

引用:相続税の課税方式に関する一考察 宮脇義男著

何回も改正が行われているのが分かりますね。適用対象面積は限度面積のことです。減額割合や限度面積の改正に限らなければ、他年度にも改正が行われています。国民生活の実情に沿った税制にしないといけないため、回数が多いのは仕方のないことだとは思います(^^;

で、平成25年で居住用の限度面積が330㎡に拡大されましたが、財務省が公開している税制改正の解説でこの面積の根拠について記載がありました!

特定居住用宅地等に係る適用対象面積の上限が、330㎡(改正前:240㎡)とされました。
(注) 新たな適用対象面積の上限「330㎡」は、
・ 大都市圏においてこの特例を適用している事案の平均的な宅地面積である360㎡(三大都市圏の既成市街地等の圏内に所在する税務署ごとの実績)、
・ 全国の居住用の土地面積の平均である300㎡(土地基本統計(平成20年度)における全国平均)等を勘案して定められたものです。

租税特別措置法等(相続税・贈与税関係)の改正 p.587

国民の平均的な面積を参考に定めたようですね。そうですよね、当てずっぽうじゃなくてよかった・・・!!(当たりまえ)

事業用や貸付用の根拠は古いからなのか根拠の記載は見つけられませんでした。しかし、居住用と同じように統計などを参考に平均的な土地面積を限度面積としているのだろうと思います。ちなみに、貸付用は昭和58年から基本的にずっと面積の変更はありませんが、他宅地よりも生活維持のための制約が少ないためだと思われます。

複数の宅地等を選択する場合

ここです、私が引っ掛かったのは。異なる限度面積の宅地等を選択していて、選択宅地のうち貸付事業用宅地等がある場合の計算式が意味が分からず・・・。今となっては変なところで躓いていたような気もしますが。

では順に説明していきます。

・同じ限度面積の場合

これは簡単です。限度面積内までなら複数の宅地があっても全て特例を適用出来ます。

例えば、事業用宅地A(250㎡、30,000円)、事業用宅地B(100㎡、10,000円)を相続した場合
・適用面積
 →Aの250㎡+Bの100㎡=350㎡<400㎡
 ⇒合計400㎡以内なのでA,Bともに適用可能。
・減額計算
 →A:(30,000円÷250㎡)×80%×250㎡=24,000円
 →B:(10,000円÷100㎡)×80%×100㎡=8,000円
となります。

もしBが200㎡だった場合はA、Bの合計が400㎡を超えるためAとBのどちらかの面積を調整しないといけません。今回は1㎡あたりの金額はAの方が大きいためBの面積を小さくする方がお得です。400㎡に抑えるためBの面積は150㎡までとなるので、
→B:(10,000円÷100㎡)×80%×150㎡=12,000円
となります。

理論に関しては特に難しくないと思います。

・異なる限度面積の場合(完全併用)

特定事業用等宅地等と特定居住用宅地等を相続する場合。これは、事業用であれば400㎡まで、居住用であれば330㎡まで目一杯利用することが可能です。

例えば、事業用宅地C(500㎡、50,000円)、居住用宅地D(300㎡、30,000円)を相続した場合
・適用面積
 →Cの500㎡>400㎡
 ⇒上限は400㎡なので400㎡まで適用可能。(超えた100㎡は適用不可)
 →Dの300㎡<330㎡
 ⇒330㎡以内なのでDの300㎡は適用可能。
・減額計算
 →C:(50,000円÷500㎡)×80%×400㎡=32,000円
 →D:(30,000円÷300㎡)×80%×300㎡=24,000円
となります。

事業用と居住用でそれぞれ最大限度面積まで適用可能なため、「完全併用」と言います。

ちなみに、完全併用は平成25年に新しく出来た制度です。それまでは後述する「限度内併用」のみ認められていました。完全併用が出来たことで減額範囲が緩和されました。

・異なる限度面積の場合(限度内併用)

やっとここまで来れました。今回の記事ではこれをメインにお話したかったのですが、事前に説明したいことが多々あり長くなってしまいました(^^;

貸付事業用宅地等を含む複数の宅地等を相続する場合の話です。この場合、面積を調整する必要があります。その計算式がこちら↓

限度面積の調整計算
事業用等宅地等の面積の合計×200/400+居住用宅地等の面積の合計×200/330+貸付事業用宅地等の面積の合計≦200㎡

上記式を成立させるために必要となる式がこちら↓

限度面積に達するまでの地積計算
選択する特例対象宅地等の限度面積-既に選択した特例対象宅地等の地積×選択する特例対象宅地等の限度面積/既に選択した特例対象宅地等の限度面積

初めて見た時は式の意味が分かりませんでした・・・。こんなの覚えられない!!と頭抱えていましたが今となっては「そりゃこういう式になるよね」という感じです。意味が分かれば難しくないんですよね。

まず、限度面積の調整計算では何をやっているのかというと、各面積を貸付業の限度面積200㎡ベースに直し、合計面積が200㎡以内に収まるようにしています。

もっと簡単に言うと「各面積は限度面積の何パーセントを占めているかを算出し、全体で100%以内に収まる」ようにしています。式の形を変換すると

限度面積の調整計算
事業用等宅地等の面積の合計/400×200+居住用宅地等の面積の合計/330×200+貸付事業用宅地等の面積の合計≦200㎡

となり、各面積の上限面積を占める割合を出し、それを200㎡に乗じることで200㎡ベースの面積を算出することが出来ます。各宅地の面積をこのように算出し200㎡以内に収めるのが上記式で、100%を超えないようにするためですね。

限度面積に達するまでの地積計算は何をしているのかと言うと、限度面積のうち何㎡まで使えるかを計算するものです。

例えば、事業用宅地Eが200㎡、居住用宅地Fが132㎡、貸付用宅地Gが100㎡あった場合
※事業用、居住用、貸付用の順に土地単価が高いという前提

①まず一番時価の高い事業用宅地の200㎡を選択します。

②次に時価の高い居住用宅地を選択しますが、既に事業用宅地で200㎡を選択しているため残り何㎡まで利用出来るかを計算する必要があります。
→330㎡-200㎡×330㎡/400㎡=165㎡
 165㎡>132㎡ ∴132㎡
となり、限度面積のうち165㎡まで利用可能であり、居住用宅地の132㎡は全て特例の適用可能ということになります。
この式では、事業用で選択した200㎡は限度面積のうち何%を利用していて、それを居住用の限度面積ベースに直し、残りは何㎡まで利用可能かを算出しています。今回の例では事業用では限度面積のうち50%を利用しており、残りの50%を330㎡ベースに直すと165㎡まで利用可能ということになります。

③最後に貸付用宅地を選択しますが、既に事業用と居住用を選択しているため、残り何㎡まで利用出来るかを計算する必要があります。
→200㎡-200㎡×200㎡/400㎡-132㎡×200㎡/330㎡=20㎡
 20㎡<100㎡ ∴20㎡
となり、貸付用宅地は100㎡ありますが限度面積のうち20㎡までしか利用出来ませんので、20㎡のみ特例の適用可能となります。残りの80㎡は減額計算は出来ない、ということになりますね。

このように、200㎡以内となるように選択する必要があるため「限度内併用」と言います。計算式の意味としては、選択した宅地を全部合わせて100%以内に収めるための調整計算ということになります。

おわりに

小規模宅地等の特例のお話でした。

限度内併用の計算式が本当に分からず。数学が得意な方は計算式を見てきっとすぐに理解出来るのでしょうね。私は割合計算が苦手だからか手間取ってしまいました・・・。



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