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議員に報酬を支払うべきではない

 スカッとする判決が出た。概要は下に掲げた新聞社説で見るとおり。選挙違反が指摘されても居座る政治家が多い。しかし選挙違反で摘発された後も報酬をもらい続ける議員に、国民の視線は厳しい。

 僕の居住地、東京江東区の区長が違反の指摘であるや就任後半年で辞めたのは潔いほうだ。違反を指南した疑いで地元選挙区衆院議員は副大臣を辞めたが、議員資格はまだ返上していない。

 最高裁判決件の対象は、選挙違反で逮捕された後もその不当性を主張して争い、最終的に有罪が確定して議員資格が遡及無効になった者への議員報酬をどうすべきかという案件。

 1審、2審では、議員資格無効が確定するまでの期間議員活動をしていたのだから、既に支払った報酬を返還させることはできないとの判断だった。これに対し最高裁は、結果的に議員資格は最初からなかったことになったのだから、事実上議員活動をしたか否かに関わらず、全額を返上させるべきとした。

 どこで判断が分かれるか。ポイントは民主主義社会における議員の位置づけである。

 議員資格の正当性は有権者の支持の有無にある。それを判定するのが選挙。ルールに即して当選に必要な票を得た者だけが「正当性ある」と判定される。裏を返せば、ルール違反の方法で票を得た者は、選挙で選ばれたとはみなさないということだ。したがって選挙違反による当選無効者は、最初から議員でなかったことになる。よって報酬を受け取る権利があるはずもなく、支払い済みであっても全額返還しなければならない。最高裁判断ままったく正当である。

 では1審、2審は、なぜ事実上議員活動をした期間についての報酬は返還しなくてよいとしたのか。思うに議員を雇用関係の労働者と同じようなものと考えたのであろう。労働者の採用手続きミスで雇用をなかったことにされた場合でも、すでに働いた期間についての報酬を支払わなければならない。理由は賃金が労働者の生活費であるから。

 議員はここが違う。時間を切り売りしているのではなく、政治的識見を共同体のために提供するのであり、雇用労働者とは根本的に違う。議員報酬を労働者の賃金と同視するのは間違っている。これさえ理解すれば選挙違反で議員資格をはく奪された者に議員報酬を支払ってはいけないことが明確になる。

 議員の中には反論者が出そうである。何が選挙違反なのかは判断が難しい。悪意をもって讒訴され、証拠をでっち上げられて有罪とされて議員資格を無効とされることがありうるが、その場合に支払い済みの報酬を返せと言われても既に使っているから返せるわけがなく、首でも括るしかない。そんなリスクがあるのでは政治活動を志す者がいなくなる危惧がある…と。

 たしかに謀略は政治の世界ではつきもの。上記のようなそうした心配にも理由はある。それでも正当に選出された者が政策を決めるという民主主義の根本をゆがめるわけにはいかない。ではどうすればよいか。

 ボクの答えはこうだ。議員が報酬をもらおうとするからおかしいことが起きる。マンション管理組合と同じで無報酬が基本であるべき。もともと無報酬であれば、その返還もありえない。学校の学級委員も無報酬で成績に上積みなどのほうびはない。

 では資格はく奪されるまでの間、事実上議員活動をしたことの評価をどうするか。よほどのことでなければ、その貢献を無にするまでもないだろう。そしてそれに費やしたその者の活動費は支払っていいのではないか。国会議員で言えば、いわゆる「政務調査費」。こちらに関しては返還を求めるまでもない。支出に関して記録と領収証があれば議員資格を遡って剥奪されても返還義務なしとするのだ。

 ボクは議員に報酬不要。代わりに十分な政務活動費支給すべきと主張しているが、今回の最高裁判決で自信が深まった。

【報酬返還判決 議員の選挙不正に警鐘鳴らす】読売新聞社説2023/12/13

 大阪市議に当選後、公職選挙法違反(買収)で有罪が確定し、当選無効となった男性に対し、市が議員報酬と政務活動費の計約1400万円の返還を求めた訴訟の上告審で、最高裁は全額の返還を命じる判決を言い渡した。

 男性は2019年に逮捕され、保釈後も議員活動を続けたが、20年に有罪が確定した。今回の裁判では、保釈中も「同僚議員にひけをとらない活動をした」として、返還の必要はないと主張した。

 1、2審判決は、男性が勾留中で活動できなかった期間の報酬などに限り、返還を命じた。

 だが、最高裁は「男性は自ら選挙の公明、適正を著しく害した。市議の活動は価値を有しない」と述べ、当選時までさかのぼって報酬などを返還するよう命じた。

 選挙は民主主義の根幹である。その公正さをないがしろにした悪質性を重く見たのだろう。

 公職選挙法は、議員が自分の選挙で有権者を買収するなどして有罪が確定した場合、当選を無効にすると規定している。その場合、初めから議員の身分がなかったことになる。報酬などの全額返還は本来の姿だと言えよう。

 選挙違反で摘発されても、有罪が確定するまで議員の座にとどまる人は少なくない。裁判への対応に追われて十分に活動できず、説明責任も果たさずに報酬を受け取り続ける議員もいる。不信感を強めている有権者は多いはずだ。

 自治体の一部には、逮捕された議員の議会の欠席日数に応じて報酬を減額する条例などがある。ただ、多くは活動の対価とみなし、当選無効が決まるまで、報酬などを支払う運用を続けてきた。

 各自治体は今後、議員に返納を促し、応じない場合には報酬などの返還を請求するといった仕組みを設ける必要がある。

 今回の判決は、選挙違反事件を起こし、当選無効になった国会議員にも影響するとみられる。

 ただ、国会議員の歳費は憲法の定めがあり、当選が無効になっても返還請求できる規定はない。

 当選時までさかのぼって歳費などの返還を求められるとすれば、在任中に関与した政策や法律はどう扱うのか、活動の対価はどうなるのかなど、課題も多い。

 国や自治体は報酬や歳費の返還額についてルールづくりを検討するなど、議論を深めてほしい。

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