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478 日大事件を教訓に、補助金受益団体の運営透明化を

わが国屈指のマンモス大学、日大の田中英寿理事長が東京地検特捜部に逮捕された。直接の容疑は所得税法違反だが、本質がそこではないことは、国民だれもが分かっている。司法だけでなく、行政府、立法府すべてが本気で取り組まなければならない国政上の大問題なのだ
田中理事長が独裁制を敷いていたことが問題の根本部分。大学における専制・独裁と非民主的運営の排除であり、学問の自由などとはまったく関係ない。国内の法的主体である組織や団体での非民主主義的な運営を許していいのかという、憲政の骨格に関わる。
組織のリーダーはだれなのか。その選出プロセスが明瞭であり、選出が手続きどおりに公正に行われていること。この点がブラックボックスである組織は民主的ではない。日大の田中理事長は13年間トップに君臨していた。この間に、さまざまな疑念が持ち上がったが、トップ交代の必要性を口にするだけで粛清された。日大が北朝鮮国内の大学であれば模範的な組織であろうが、ここは日本であり、民主主義を国是としている国なのだ。
森喜朗総理はまったく評判が悪かった。その根本理由は、総理選出への手続き的正当性がなかったから。急病で重体の前総理の病室に集まった5人ほどが、「次はあんたがやったらよかろう」と談合した。意識不明の者から「後継指名があった」との強弁で納得すると民主主義下の国民を判断したのが致命傷。密談談合した政治家たちは、日本を非民主主義体制に変えることを企図したのかもしれないが、さすがに国民を甘く見過ぎた。
民主主義国である以上、国内の組織・団体に根本的考え方は共通する。構成員には代表を選ぶ権限がある。政治分野では、有権者は一人1票と同格だから、多数の支持を得たものがリーダーになる。株式会社では株式ごとに同格だから、多数株を持つ者の投票権が優先する。
では構成員を有さない公益の財団法人、社会福祉法人、学校法人などではどうか。組織の目的実行に賛同すると期待される者を選定し、その者に理事等の運営責任者選出を委ねる仕組みがとられている。この役職を公的な法人では評議員という。評議員が適正に選出され、正しく機能しているのか。それが理事長や理事会の専横を防止する要(かなめ)なのだ。
運営責任者が民主的に選出されたならばあり得ないことがなぜ起きるのか。これがポイント。日大だけの特殊事例ではなく、わが国の民主主義が空回り、形骸化しているのではいか。それが国民の疑念なのだ。
日本人に民主主義徹底を要求するのは「八百屋で魚を求めるようなものだ」という者がいる。そうした者であれば、中国の民主派弾圧への感度が低く、冬季オリンピックにもいそいそと出かけようとする。ウイグル民族ジェノサイドを、アメリカでの黒人容疑者への暴行と同視してしまうのだ。民主主義は社会の隅々に実践されてこそ本物になる。

抽象的ではなく、具体的な対応策を考えたほうがよさそうだ。ごく簡単な方法を提案しよう。公的な補助金が支出されている団体・法人での、運営役員の選出が、評議員会で適切に行われているかの証明を求める。方法は簡単。議事風景をそのままそっくりビデオ録画し、デジタル記録として主務官庁に提出させ、ネットで配信する。関心がある人はだれでも閲覧できる。既に地方議会などで実施されている議事風景のネット公開と同様にするのだ。こうしておけば「異議なし」で選出しているさまが一目瞭然になり、評議員会をスルーして理事に就任するウラ技も通用しない。問題が起きた際の隠せない証拠になる。
当初は対象法人をさらに絞りこめば即効性があろう。憲法89条に該当する法人から始めることが考えられる。同条は「公金その他の財産は、宗教上の組織もしくは団体の使用、便益もしくは維持のため、または公の支配に属しない慈善、教育もしくは博愛の事業に対し、これを支出し、またはその利用に供してはならない」と明記する。日大を含む学校法人や社会福祉法人が主な対象になる。それぞれの根拠法で評議員会は最高機関としての位置づけがされており、その実行度を確認するものであるから、憲法に忠誠を誓った国会議員や官僚であれば反対論はないだろう。
法の趣旨にもとる運営であることを自覚する法人の場合、当面の救済策として、補助金の対象にしないことで、世間からの指弾をやわらげる逃げ道を開いておく。その上で法を厳格に運用する。違反法人が補助金を受け取っていれば詐欺罪で告発、故意に許容していた官庁幹部を共犯の罪に問うことだ。法の確実な執行こそ、民主主義下での法治である。
 これらは岸田総理が「民主主義とはかくあるべし」とつぶやくだけで実現する。

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