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832死後離婚

 死後に離婚?「死は永遠の別れ」のはず。
 嫌いになったから別れたい。これが離婚。「死ぬまで離れないよ」と約束したのに心替わりして、「お互いに他人同士になろう」と持ち出す。相手も納得すれば離婚が成立。
 その相手が既に死んでいれば、今さら離婚手続きは不要のはず。離婚調停中に相手が死んでしまった。嫌な奴の遺産を受け取らずに投げ返してやる。そういうことなのかと思ったら、死後離婚を勧めるネット記事では、「もらった遺産を返す必要はないのでご安心ください」と書いてある。
 ほかにメリットとして挙げられていたのが「義父母の扶養や介護をしなくてよくなる」。その根拠として持ち出していたのが民法833条。「直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養する義務を負い、それ以外の3親等内の姻族などでも特別の事情がある場合には家庭裁判所が扶養義務を負わせる場合がある」とあるので、「あらかじめ姻族関係を一方的に宣言することで義務を課されるおそれがなくなる」のだそうだ。

 でもねえ。裁判所が特別の事情というときは、同居して家計をともにしているなどの場合だろう。民法770条でも「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない」となっている。血族と姻族とでは扶養義務の理解が基本的に違う。「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」(753条)が、姻族である義父母との間では何もない。同居や生計同一などの事情が加わること扶養関係が生じるのだ。
逆に同居関係にあるならば、親族関係になくても扶け合うのは人間の情だろう。同居するなら扶け合う。その気もないならあらかじめ同居を解消しておく。これが普通の感覚。居住権を確保しつつ、世話関係を免れる都合がいいのが死後離婚ですよと記事は言うのだが、イイトコ取りを勧めるのはどうだかなあ。

 記事が言う「亡夫一族の墓所に入りたくない」という理由も説得力がない。墓地埋葬法のどこを見ても、親族のお骨を一カ所にまとめよとは書かれていない。祭祀を行う者が故人の生前の意思を踏まえて決定することであり、各人ごとに墓所は別が基本形だ。そうでなければ樹木葬など成り立たないではないか。
 家墓もあってよい。そこは自由なのだ。立派な家墓はあるけれど自分は個人墓がいいと思う人がいてもかまわないし、婚家には家墓がないので夫の焼骨は樹木葬にしたが、自分は実家の家墓に納まりたいという人がいてもかまわない。その場合には復氏をしておいても良いが、それは死後離婚(親族関係開所届)とは関係ない。
 自分の死後の墓所をどうしたいかは、遺言でしっかり伝えればたいがい希望はとおる。その場合に必要なのは、死後離婚という書類ワークではなく、必要費用が記帳されている預金通帳を残すことであろう。
ついでに言えば、いわゆる家墓とは、カロートが大きくて多数(6体など)の焼骨を納められる構造のもののことである。この場合に、だれの焼骨を納めるかは、その墳墓権利者の意志による。例えば養育していた里子が死亡したので家墓に納骨することを拒否することなどを第三者が妨害できないはずだ。その者と家墓の権利者との関係がどうであったか、それが基準になるはず。当然ながら墓地埋葬法にはその種の制約規定はいっさいない。ただし同法では墓地のあり方も「公共の福祉」に沿うべきとなっている。
 死後離婚という聞き慣れない言葉からいろいろ考えた。

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