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554年金給付金の怪 さすがにそれはないだろう

自民党がこの夏の参院選対策として、年金受給者に5千円の特別給付金を出そうと検討しているとか。年金支給日は偶数月の15日。6月に配れば参院選投票日の直前になる。これで高齢者の票をいただこうという作戦だろうが、さすがに「公金を使った高齢者買収ではないか」(立憲民主党小川政調会長)などと批判されている。ネット意見も否定論が圧倒的。
批判は当たり前なのだが、批判する側がどれだけ年金制度を理解しているのかが真の問題である。新聞報道(『読売』3月18日)では、立憲民主党執行部の一人は「うちも自民と似たような政策を訴えている」と述べたとのことだ。裏を返せば、「自分たちが与党であれば、同じことをするであろう」ということであり、政権に就けば選挙民買収的バラマキをすると予告している。政策ではなく、カネで票集めを競う。情けない。
国民は民主主義志向であっても、それにふさわしい政治家が選ばれていない。先行きが大いに危うい。

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年金受給者への特別給付金支給がなぜ不当か。その理由は簡単でかつ明瞭。わが国の年金は社会保険方式を採っている。特別給付金支給はこの原則を壊す。
年金の財源である保険料は、納付者である現役世代の収入の一定比率。厚生年金の場合18.3%。現役世代の収入は長期的には物価にほぼ連動する。そこで物価が上がれば年金金額を増やすし、物価が下がれば年金額を減らす。こうすれば年金財政は安定する。物価とは生活費の必要額に直結するから、物価に応じた年金額の増減は高齢者の暮らしの安定も寄与している。これが年金の物価スライドという仕組み。
参考までに企業年金などでは、年金額はずっと変わらないから、物価が下がれば高齢者は得した気分になるが、物価が上がれば年金の価値が目減りする。そして物価は長期的には緩やかに上昇するから。物価スライドは長生きには強い味方になる。それが国民の合意となって昭和48年の福祉元年に導入された。

昨年の物価は下落した。当然、今年の年金はその比率の0.4%減額されることになった。制度がそうなっているのだから、受給者は納得している。納得できないというのであれば、物価スライドという仕組みを廃止すればよい。そうすれば物価が下がっても年金額は維持されるが、物価が上がったときでも年金額は据え置きになる。経済通の見通しでは、今後の物価は上昇傾向になるらしい。そうした中で、物価スライドの仕組みの廃止に賛同する高齢者がいるとは思えないのだ。(プロパガンダに乗せられやすい人を除いては)。

今回の自民党案のさらに筋が悪いところは、物価スライドによる年金減額を補うためと称して、政府の一般財源を使おうとしていること。赤字国債の借金累積が1000兆円で行く末が懸念されているのが、まさにこの一般財政。社会保険システムの年金特別会計には借金などない。積立金が200兆円近くあり、GPIFという特殊法人を使って資金運用をしている。
ならば積立金を崩して、年金財源を使って特別対策をしてはどうかという別案が出てきそうだ。だがそれがとんでもないことであるのは、すでに実証済みなのだ。
平成11年から13年にかけて物価が下落したが、その後に物価牙城したときにチャラにすればよいだろうとの政治的思惑で年金額を据え置いた。ところが物価が反転上昇しなかった。そのため本来の年金よりも2.5%高い年金が継続支給され、毎年度約1兆円ずつ年金財政が棄損された。この異常事態を解消するために、平成25年から27年にかけて物価上昇にも関わらず、年金額を引き上げないとことを続けて、ようやく正常化した。しかし支給済みの2.5%分を解消できるわけはなく、年金財政の穴は埋まっていない。永久に失われている。“政治配慮”に振り回されて、社会保険制度が壊されている。
詳しくは下などを参照。
国民年金額決定法の歴史的経緯 | 年金情報部 (nenkinbox.com)

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5千円支給は1回限りというが、その保証はない。一度破った壁の修復は難しい。またもらいたいとなるのが当然の人情だろう。
この愚策が強行されたらどうするか。給付実務を担う年金機構の理事長や役員に訴えたい。機構で寄付金受け入れ窓口を設置せよ。そして寄付希望の年金受給者に振り込む5千円を、機械的に受け入れる。寄付目的を①ウクライナ支援、②少子化対策、③生活環境整備…⑨その他、くらいに分けておく。寄付の集まり具合を公表することで、高齢者(老齢年金受給者)と弱者(障害年金・遺族年金受給者)の政策関心事項もわかることになる。

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