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569私学助成は憲法違反 自民党元総裁の述懐に触れて

憲法の規定は抽象的であるべき。そうでなければ改正が頻回になり、社会が安定しない。ただし、かなりの拡大解釈をしても抵触する場合は、その施策をやめるか、憲法の規定を書き換えるしかない。それが憲政の根本である。このことを強く感じさせる文章に出会った。
元自民党総裁の谷垣禎一さんが産経新聞に連載している「話の肖像画」。その6回目(2021.4.6)で見かけたものである。
谷垣さんはよく知られているように、政治家になる前は弁護士だった。その司法試験に受かるのに7年ほど勉強されたとのこと。大学には裏表8年通った(山岳部で山登りに没頭されて留年を繰り返した)とのことで、入学前の浪人を加えると、司法修習を経て弁護士事務所に就職するときには37歳になっていたと自己紹介されている。初志貫徹に向けての意志の強さには敬服するばかりだ。
谷垣さんは政治家に転じて頭角を現し、ついには自民党総裁の座について、総理になるチャンスは洋々たるものだった。惜しいことにサイクリング事故で下半身を損傷し、夢がついえた。わが国のためには惜しい政治家を失ったと惜しまれている。しかし代議士を辞めても見識はあるはず。この国が方向を誤らないよう後輩政治家たちを説教、助言をしてもらいたいと思う。

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では具体的に何をしてほしいか。それがこの日に述懐の中にある。
司法試験の科目である憲法を勉強していて、谷垣さんは疑問に突き当たった。それが私学助成金。谷垣さんは迷う。
●憲法89条は、公の支配に属しない教育事業に公金を支出してはならないと明記している。どう考えても私学助成は憲法違反である。
●一方で、私学助成はすでに制度化されている、それを「憲法違反だからやるな」という人はあんまりいない。
 憲法をまともに解釈すれば違憲状態なのに、それが堂々と法制化され実施されている。憲法違反がまかり通るようでは法治国家ではない。もしこれが司法試験の論文問題として出題されたらどう解答すべきか。谷垣さんの述懐は「私学助成は違憲だという答案は書けないだろうと考えました。しかし、合憲を前提にした答案をどう書いたらいいのか、さっぱりわからない」
そこですでに合格している同級生に聞いた。すると同級生は「頭をひねって何とかつじつまを合わせたようなことを、受験生に短時間で書かせる」難問は出題されないから安心せよということだった。
 それを聞いた谷垣さんは、「頭の良さにもいろいろあって、出題傾向を分析して要領よく点数を取る人もいれば、本質的なことを考えていて成績にはすぐに結びつかない人もいる」と気づく。そして自分は後者であると自覚した。
 現実政治にはあらかじめの正答などはない。先送りにしたい難問を逃げずに正面から本質的に分析し、合理的かつ国家国民の長期的利益につながるところに導いていくのが政治家の使命である。谷垣さんは、自身が受験向きの要領者ではなく、じっくり本質を極めるタイプだと自覚したから政治家への道を選んだのだと思う。そうした気質であるから人が集まり、派閥の領袖となり、総理への今一歩のところまで行ったのだろう。
 そこで谷垣さんへの期待である。司法試験の受験生として感じた私学助成の憲法上の問題。これはいまだに解決されていないはずだ。だって憲法89条の文言はそのままであり、私学助成制度は廃止されてないのだから。
 短時間で解答を書かせる司法試験の問題には出されなくても、私学助成の憲法との不整合は現実の社会問題である。憲法を日本語として解釈するならば、この問題の解決は、①憲法条項を改めるか、②私学助成を廃止するか、の二つに一つしか解決策はない。しかるに現実政治は何十年も放置してきた。関与した政治家すべてが、憲法尊重擁護義務(99条)に反しており、議員バッヂをつけていることが本来許されないはずだ。憲法侮辱に処罰する法を制定されれば、即座に刑務所送りである。
 谷垣さんの連載は4月いっぱい続く。その間に憲法が明文で禁止している私学へ公金支出(助成金)をどうすべきと考えるのか、考えを示してもらいたい。法律家としても放置することは良心が許さないはずである。

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