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介護者の賃金を挙げよ 課題は方法論にある

下に掲げたのは山陽新聞(2,023.12.19)。介護人材への処遇を上げよ。だれもが賛成するだろう。問題は、昨日今日に始まった問題ではないこと。ずっと指摘されながら解決しない。
介護労働は3K職場。18歳、20歳、22歳の新卒が使命感に燃えて入職する。そして燃え尽きて離脱する。

その先はどうなるか。
”女性の貧困”系の本では、買春関連に従事する女性が介護職から流れてきたというのが多い。図書館でその種の題名の本を斜め読みしてみればよい。ルポライターがインタビューしてまとめている記事が続く。
「介護は人の役に立ち天職だと思ったが、勤務がきつく、それに反して処遇はよくない。生活が成り立たなければ心は荒れる。職場の人間関係で心も壊れる」。
そんな理由で退職する。介護業界で再就職してみるが、状況は似たようなもの。数回転職してこの業界に絶望する。それからは人さまざまだが、ルポ記者が書く業種に転落する者が一定割合になる。
そしてライターの多くが「自分の親族には介護職に就くことを勧めなしい」と締めくくっている。

高齢社会で介護は必要な仕事であり、業種である。いったいどこが間違っているのか。
それは、介護保険に財源を投入すれば介護職員の処遇がよくなると思っているナイーブさにある。
頭でっかちの現場を知らない官僚たちは「近代経営論の教科書通りの経営が行われている」と誤認している。ずいぶん前に「介護職員は安月給だが、経営者の奥方はミンクの毛皮を着てベンツの後部座席に納まって買い物三昧」といった分析をして業界から叩かれた役人がいたが、その実態はいまだに変わっていないのではないか。

個別職場の賃金がどのようにして決まるか。横並び、すなわち近隣の同業者の状況に合わせるのだ。黒字、赤字にはほぼ関係ない。
「うちは頑張って奮発しよう」と思う者でも同業者よりも一挙に何割も高くなんて突出をしない。業界を混乱させることになるからだ。
介護賃金を一挙に他業種並みに上げさせようと思えば強硬措置しかない。教科書人間の官僚は経営者に渡す介護報酬をを引き上げておけば、職員賃金に回るだろうと思うらしいが、それが間違い。賃金は業界の相場で動く。介護報酬の引き上げが直結することには絶対にならない。
厚労省がすべきことは別にある。厚労省には最低賃金法という武器がある。介護労働に特化した最低賃金を設定すればよい。それを介護事業所の指定条件とする。
「そんなに賃金を上げたら会社がつぶれます」と国会議員を通じて苦情がわんさか来るだろうが、「倒産率が5%を超えたら考えます」とでも答えておけばよい。会社は倒産しても、介護分野は人手不足。職員の次の就職先はいくらでもある。倒産介護事業所からの流出人材を引き取った雇用介護事業者には臨時給付金を出すとでもしておけば、業界の体質改善(つまり賃金引上げ)はものの数年で解決する。
出発点が間違ってれば間違った解決策しか出てこない。
出発点を正しくしていれば、当座の混乱はあってもしばらくすれば正しく終息する。
介護労働の処遇が悪いのは介護保険制度を介しての人為的なものである。そう言いきってほぼ間違っていないはずだ。

【介護報酬引き上げ 職員の処遇改善に生かせ】
山陽新聞2023.12.19

 政府が介護サービス事業所の収入に当たる介護報酬を、2024年度の改定で1・59%引き上げる方針を固めた。原則3年に1度、見直すもので、15年度はマイナス改定、18、21年度はプラスだった。
 今回、急務なのは物価高への対応である。厚生労働省による事業所の22年度の経営実態調査で、特別養護老人ホームと介護老人保健施設が光熱費や食材費の増加で介護保険制度が始まって以降、全体として初の赤字となった。全22業態の平均利益率も2・4%で前年度から0・4ポイント悪化した。報酬の引き上げは妥当と言える。
 厚労省は、併せて介護ロボットや情報通信技術(ICT)機器を導入した事業所に対する報酬などを創設する考えだ。職員の人手不足が深刻な中、働きやすい職場環境づくりを後押しする。
 とはいえ、まず求められるのは金銭面の処遇の改善だろう。介護は他業種で広がる賃上げの流れに追いついていない。今年の春闘で全産業平均の賃上げ率は3・58%だが、介護分野は1・42%だった。
 人材は流出している。厚労省によると、介護分野は20年、21年と入職が離職を上回っていたものの、22年は約6万人の離職超過に転じた。
 政府は先に成立した23年度補正予算で介護職員の24年2~5月分の賃金を月6千円引き上げ、6月以降は介護報酬の改定で対応する。事業所は一定の賃上げなど職員らの処遇改善に生かさねば人材難はさらに顕著になり、経営は成り立たなくなろう。
 問題は財源だ。介護報酬は40歳以上の人が支払う保険料と、国と地方の公費、利用者の自己負担などで賄う。
 このうち65歳以上の保険料は厚労省が標準的な方式を示した上で、運営主体である市町村ごとに基準額を決め、所得の段階に応じて基準額が増減する。報酬改定とは別に、厚労省は所得が高い高齢者の保険料を増額する案を、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)部会に示し、大筋で了承された。
 原則1割となっている介護サービス利用時の自己負担を2割とする高齢者の対象範囲を拡大した場合、介護給付費を一定程度抑制できるとの試算も今月公表した。
 支払い能力に応じた負担の仕組みを強化することは、制度持続のためにやむを得まい。2割負担の拡大は先送りするとしても、保険料の増額は暮らしにどう響いているかを注視し、柔軟に対応することが欠かせない。

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