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591散骨ガイドライン

地方に依頼講演に行った。『散骨に関するガイドライン』の解説。厚労省の委託研究で1年前に作成した。一般的な関心を引かないテーマだけにマスコミにもほとんど取り上げられない。そうした中、声をかけてくれるところがあった。新幹線グリーンチケット提供の条件だったこともあり、いそいそと出かけた次第。
人はいろいろ経験を積み、反省材料にしたり、他人に教えたりして成長するが、経験を重ねられないことが一つある。それが「死」。
「自分が死んだらこのように葬ってほしい」と依頼することはできるが、そのとおりにされたどうかを確認するすべはない。
 亡くなった人をどのように送るか。その方法はわが国では基本的に火葬。東日本大震災で応急に土葬にしたら、遺族が納得せずに、掘り返して火葬し直したのは知られているところ。
 では火葬した後はどうなるのか。わが国の場合は、焼骨を骨つぼに収め、許可を受けた墓地内の墳墓に埋蔵することになっている。豪邸の持ち主が庭に亡父を顕彰する石碑を建てるのは自由だが、その周りに父親の遺骨を埋蔵することは許されない。個人の庭は墓地として許可されないからである。
 なぜ墓地の許可が制約的なのか。もっと自由であっていいのではないか。そういう主張をする人がいる。法律(墓地埋葬法)では、「焼骨の埋蔵は墓地以外の区域で行ってはならない」とする。ならば埋蔵以外の方式であれば場所を問わず可能なはずではないかと言うわけだ。そして埋蔵とは地中に納めることであろうから、「人里離れた国立公園の風光明媚な場所に砕いた粉骨を野ざらしにする、あるいは景勝地の海域に投下する行為は、墓地埋葬法違反ではない」と論理展開するのである。もしダメだと言うのであれば、法律に禁止行為を逐一箇条列記すべきであり、それがない以上国民の行動の自由が優先するはずだと説く。
 はたしてそうか。墓地埋葬法は規制の目的を、「国民の宗教的感情に適合し、かつ公衆衛生その他公共の福祉の見地」から葬送が支障なく行われることとしている。火葬に付すことで公衆衛生上の問題はクリアされるが、その焼骨のその後の処理において国民の感情や一般公共の利益とのバランスをおろそかにすることは許されない。それが墓地埋葬法の要請である。そうすればいわゆる散骨についてまったくの無規制はあり得ない。研究班はこの立場に立ちガイドラインを作成した。
 ガイドラインはヒアリング等を踏まえて策定したもので、厚労省のHPにも記載されているはずだ。これまでガイドライン設定は法解釈を誤ったものであるなどの批判を聞かない。講演会でも頷く顔が多かった。良識に沿ったものと受け止められているのであろうと思いたい。
ほんとうは自治体が町内会単位くらいで勉強会を開いてほしい。というのは地域包括ケアなど地域住民の助け合いは、つまるところ「死」との関わりを抜きにしてはあり得ないのであるから。

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