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ドラッグラグと健康保険の関係

 日本の国内製薬業界の開発立ち遅れが容易ならない事態になっていると専門誌などで読むことが多くなった。技術大国はどこに行った?
 世界に通用する画期的新薬をどんどん開発し、海外のカネ持ちに売りさばくことで開発経費を回収し、返す刀で量産効果で販売価格を下げ、国民皆保険になっている健康保険での薬価を下げることで国民の健康と福利に貢献する。それが新薬開発企業の使命ではないのか。だから製薬業界は厚労省の所管になっているのでしょう。
 社説を書く論説委員はマスコミ界でのエリートのはず。怖いものはないはずだから(マスコミ人を狙い撃ちで、ロシアのように暗殺されたり、中国のように刑務所に入れられたりすることもない)、主張を明確にしてもらいたいものだ。
 日本では薬剤の使用流通は二重基準になっている。まず、医薬品医療機器法等で安全性や副作用を審査し、国内で使っていい薬が承認される。これが第一段階。
 次にこれらの薬のうち、治療効果の点で便益とコストの比較に十分耐えうるものが「保険用治療薬」として薬価が決定されて健康保険の支払い対象になる。これが第二段階。
 社説では、このうちどちらを早くせよと主張しているのだろうか。第一段階のことであればまさにそのとおりであり、国内メーカー保護のために海外薬剤の承認を認めないなどは許されない。日本は薬を貿易政策の保護物品にはしないことにしているはずだ。(中国は日本の海産物に難癖をつけて揺さぶっているが、日本政府は薬剤に関してはそうしたミットモナイことをしないという意味)。国内の患者を見殺しにすることは許されない。
 ただし第二段階については話が別。健康保険の財源は限られており、良い薬であれば青天井で保険のカネで買うなんてことはできない。保険使用の優先順位を決めるための専門機関(例えば中医協)もある。この場合、言いたくはないけれど、自由価格で買える人だけが使えることになる。
 この点をごちゃまぜにして、よい薬ならば何億円かかろうが、保険で使えるようにすべきとの暴論を述べる者が残念ながらいて、意図的に議論を混乱させている。
 薬に限らず、診療においても同じことは言える。先般、バイオ医療関係のベンチャー社長の話を個別に聞くことがあった。臓器に発展性のある胚芽細胞を用いた治療をすでに東北地方の国立T大学がずいぶん特許で押さえていて、それを実用化しているクリニックが都内に数カ所あるとのことだった。がんなどでも劇的な治療効果があるとかで、海外にも口コミで広まっている。1回の治療1千200万円を3回ほど行うと成果が出るらしいとのことですごい総額になるが、それをポンと出せる者が少なくないということだ。
 日本人ではあまり患者はいなく、なぜか中国(大陸系)の患者中心の長い待機リストができているという。社会保障政策としてどう思うかと聞かれたから、当面は非健康保険の専門クリニックが、富裕外国人(日本国民もいてのよいが)からどんどん高額治療費をいただいて、所得税を納付してもらえばいいのではないか。そして経験が重なって、普通の医師でも治療ができるようになり、かつ施術費が百分の1程度に下がった時点で、標準医療として健康保険に採用することで日本国民に還元するのがよろしかろうと答えておいた。
 すべての政策は日本国民の幸福のためにある。それをより効率的に進めていくのが政治であり、行政である。

ドラッグラグ 海外の新薬を使いやすく

山陽新聞社説 2024.3.9

 海外で承認されている新薬の国内承認が遅れ、患者が使えるまでに時間がかかる「ドラッグラグ」が深刻化している。背景には日本の薬価制度が外国企業の壁になっていることなどがあり、一部は承認の見通しが立たない「ドラッグロス」に発展している。
 患者の少ない病気や子どもの疾患で目立ち、高額な薬を患者が自費で輸入する例もある。安全性と有効性には配慮しつつ、使いたい薬を使えない患者を減らさねばならない。政府は製薬業界や医学界と対策を検討してほしい。
 患者らが昨年11月、国内での承認を厚生労働省に要望したのは、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬「トフェルセン」である。米製薬企業が開発し、4月に食品医薬品局(FDA)の承認を受けた。
 原因不明で治療法も限られる中、特定の遺伝子に変異がある患者の症状の進行を遅らせると期待されている。日本に取り寄せる場合、薬剤費だけで年2600万円がかかるという。
 ドラッグラグは約20年前から目立つようになった。日本製薬工業協会の医薬産業政策研究所によると、2020年末時点で直近5年間に欧米で承認された新薬243品目のうち、日本で未承認のものは7割超に上っている。
 国が設定する薬価制度は、国民皆保険の日本で財政逼迫(ひっぱく)を防ぐ仕組みだが、企業にすれば政府主導では利益を見通しにくく、割に合わないとの指摘がある。
 新薬の開発を巡る変化も追い打ちをかける。ゲノム(全遺伝情報)解析など技術革新が進み、さまざまな病気の解明とともに医薬品の種類も増加した。開発するのはベンチャー企業が多い。世界の医薬品市場における日本の比率は低下し、わが国での承認を視野に入れずに開発するケースも少なくないとされる。
 開発の早い段階から日本企業がしっかり投資、連携できるよう後押しをする必要がある。国内のベンチャーを育成する取り組みも大切だ。
 打開を図る動きもあり、成果が期待される。国立がん研究センターは今年1月、小児や若年世代のがん患者に、国内では適応外や未承認の薬を投与する臨床研究を始めた。厚労省の専門家会議の了承を得て、慢性骨髄性白血病や腎細胞がんの原因となる遺伝子の変異に作用するなどの5種類の薬を使う。
 大麻草から抽出した成分を含み安全性と有効性が確認された医薬品を使用可能にする大麻取締法などの改正法も昨年12月、成立した。欧米では大麻由来成分を含む難治性てんかんの薬が既に承認されており、日本の患者団体などがドラッグラグの解消を要望していた。
 患者の期待が大きいことは理解できる。医療分野の限定利用であり、大麻の規制緩和との誤った印象を持たれない周知も求められる。

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