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473 お風呂に入れない

一日の疲れを取るにはお風呂が一番。日本人はほんとうにお風呂好き。
そのお風呂のガス給湯機がおかしくなった。スイッチは入るのだが、しばらくすると勝手に消えてしまう。故障内容を示す表示番号が出ているが、それは電源のオン、オフの不具合を示している。
思いつくのが、メーカーの修理センターへの対応依頼。勤労感謝の日の夜だったが、電話するとつながった。だがよかったのはそこまで。機械音に指示されて順にボタンを押し続け、ようやく人の声が出た。野太い男性の声だったので、当直の管理職かと会社対応を評価したのが早とちりだった。
声の主は、お困りだろうから翌朝早々に訪問するという。そしてきっちり9時半にやってきた。素早い対処に恐縮しきりで、コーヒーでもてなした。そして分かったことだが、本社のコールセンターに電話したつもりが、どういうわけか、地元の提携工事業者につながっていたのだ(このわけはいまだに分からない)。もらった名刺での住所はわが家とは隣の町内会の距離。即座の来訪にも納得がいく。
早速、給湯器を点検した彼が言うには、第一に「故障個所は簡単だが、型番の製造終了に伴い部品の提供を止めるので、修理は不可」。第二に「新品への機器交換が唯一の方法だが、その時期は早くて来年2月以降になる」。
それまで数ケ月、風呂なしで過ごせとの宣告である。困った。近所の公衆浴場は先ごろ閉店したところ。その先の浴場では、帰りに湯冷めしてしまう。原因は給湯器工事が殺到して職人不足が深刻なのか。さにあらず、製品自体がないのだという。全国ブランドの日本のガス機器メーカーが、日本国内で品不足? なんでまた?
 それから1週間の風呂なし生活。これが正月を挟んで続くの? 給湯器故障には「年末年始も問わず対応」がこの国の伝統ではなかったか。今日になってメーカー本社の担当事業部の出荷見通しを聞きたくなった。ひょっとして製品出荷予定が早まっているかもとの一途の望みもあったし。
ところが事業部への接触方法がないのである。ホームページに載っているのは代表電話だけ。人事部の人が出たが、事情を説明しても事業部に回そうとしない。粘ると担当から電話させるという。しばらくしてかかってきたが、その番号は昨日の修理受付センター。登場した若い女性は、「訪問した提携工事業者の説明につけ加える権限を与えられていない」と宣言した。
それはおかしくないか。同社のームページにはこうある。「急速な新型コロナウイルス感染拡大等の影響により、部品サプライヤーの生産に支障が生じております。これにより、一部商品において、ご希望納期での対応ができなくなっております。多大なるご迷惑をお掛けし、誠に申し訳ございませんが、全社をあげて早期解消に努めて参りますので、ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。」その下に該当商品群が並び、「対象商品の変更があった場合のみ、掲載情報を更新いたします」とある。
弊社製品の納期遅延に関するお詫びとご案内 | アフターサポート|ノーリツ (noritz.co.jp)

これが全文。これでは原因も対策も不明。“全社を挙げて”何をどう解決しようとしているのか。社長が木で鼻をくくったメッセージで良しとしているのか。ともあれ事業部の担当者の説明を聞きたくなるではないか。しかるに彼女の応答は、一介の顧客が本社の社員と直接口をきくなどあってはならないことだから、部署の電話番号を教えることはできないというものだった。
でも会社としても本音では、今回は困っているのではないか。コロナで国民が知ったのは、わが国の製造部門が空洞化してしまっていることの安全保障上の危険性だった。そのことを如実に証明したのがアベノマスク騒動。ドタバタ悲喜劇の中で、製造をおろそかにしていると国の基盤が壊れてしまうことを身に染みて悟った。
安全保障では、地道な国内での製造基盤の再構築が不可避なのだ。マスクやLED電球の国内製造能力なしでいいはずがない。そして給湯器でも同じだったということであろう。ならばその事実を明らかにして、「わが社は製造拠点を国内回帰させたいので国民の理解と支援をお願いする」となぜ訴えないのだろうか。
製造拠点の国内回帰が許されない何かがあるのだろうか。あるとしたらそれは誰の思惑なのか。思い過ごしかもしれないが、そういう探りを入れられることを怖れているらしい気配がありありだった。


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