452チンギス・ハーンの子孫

ロシア帝国も中華帝国も、その出自はチンギス・ハーンのモンゴル帝国である。西ヨーロッパ、南アジアなど一部を除いて、オセアニア大陸主要部はことごとくモンゴル騎馬隊に征服された(パクス・モンゴリカ)。そうした中、モンゴルの侵攻を独力で打ち破って独立を守った、数少ない国の一つがわが日本であることを忘れてはならない。(先祖に深く感謝しよう)。
ともあれユーラシアは、モンゴル帝国を抜きには語れない。宮脇淳子さんの持説がこもった『日本人のための世界史』(KADOKAWA、2017年)を再読した。モンゴル軍には東の宋国も、西のドイツ騎士団も、十字軍と渡り合っていたイスラム軍団も、ひとたまりもなく蹴散らされている。なぜそんなに強かったのか。宮脇さんはいろいろ説明しているが、ボクが注目したのは「1260年当時チンギス・ハーンの子孫は1万人を数えた」というくだり(同書69頁)。1162年生まれ説が有力だから、1260年では98歳になる(実際には1227年に65歳前後で死亡しているのだが)。ひ孫に子が生まれ始める時期と考えていいだろうか。子孫は放射状に広がっていくものだが、乗数で計算しても1万人の子孫の数は尋常ではない。
戦闘になって一番信用できるのは血を分けた者である。子や孫が裏切って背後から矢を放つことはあまり心配しなくてよい。ではチンギス・ハーンはなぜ特別に子孫が多いのか。理由は簡単で、彼の勢力が強大になると、周辺の国王や有力部族長が自分の娘や国内で調達した美女を差し出すからである。そしてその多くは、彼の息子や孫たちに下げ渡される。こうして子孫がネズミ算的に増えるわけだ。
生まれてくる子どもをどう養育するかという経済問題への回答が必要だ。次々に生まれる子にしっかり領土や財産を持たせないと、いざというときに戦力にならない。本人だけでなく、しっかりした数の部下を率いて参陣してもらわなければ意味がないのだ。部屋住みで飯だけ食わせておけばよいのではない。
その点、女の子であれば、こちらからも政略結婚の素材として嫁がせる方法がある。多少の持参金で処理でき、彼女が嫁ぎ先で産む子孫の経済は相手持ちになる。男の子の場合、いちいち分家させていれば、こちらの経済負担が増す。
ここでよい方法があるのだ。チンギス・ハーンの親族になりたい弱小国王や部族長が、チンギス・ハーンの男系男子を自分の娘の婿として所望するのに応えるのだ。その場合の条件は、その婿あるいはその男子を跡継ぎにすること。これはわが国の徳川将軍家でも例がある。将軍の男系の男子が有力大名の婿になるが、大名家がそれを機に松平(徳川一族)姓に改まった例は多々見られる。結果として神君家康からの男系直系の家が増える。会津のように、徳川家のために藩を挙げて戦ってくれる。
皇統承継の資格者が絶えるかもしれない危機にあるとされる。旧皇族家を復活する方法は考えられるが、それでも人数的に危機克服には不足だろう。皇族の権威を保つには相応の経済力が必要であり、子が多数生まれて資産の分散が起きないよう、この数を最小限に抑えようとする。そうすると女の子しか生まれない世代が出てきて、その宮家は断絶してしまうのだ。
チンギス・ハーン流というほどの独自性はないが、彼の子孫増強策は参考になるだろう。現代のことだから、後宮とか側室はあり得ないが、普通の出産力と意欲を持つ奥方が抑制せずに出産を重ねれば、男系の皇統は高い確率で維持できよう。それに加えて、宮家に二人以上の男の子が生まれた場合、新たな宮家を費用なしで作る方法も講じるのだ。
女の子はこれまでも民間の氏素性がしっかりした男性と結婚して、皇籍離脱しているから、その後の国庫負担はない。しかも今回、秋篠宮家の真子さまは皇族離脱時の一時金を辞退されるようだから、今後はこれを制度化することで、国庫負担の軽減を図る。
男子についても、氏素性が正しく、資産は大きく、子どもは女の子ばかりという家からの申し出を待って、そこに婿入りさせるのだ。条件は一つ、婿入り先の家名を捨ててもらい、新たに宮家を名乗ること。
婿入り先の家に女の子が二人いるとしよう。長女の婿が民間人で、次女の婿が皇族であるとする。長女はその家の家名を継ぐが、次女一家は新たな宮家を名乗る。財産は二分されるはずだから、新宮家は国庫からの財産形成支援はいっさい必要ないことになる。つまり皇族が増えても、国家財政には影響しないのだ。
次女の父親(舅)が口出ししてややこしいことにならないか。当然の懸念であるので、その防止策を講じる。婿入り方式で創設された宮家の場合、2代の間は皇位継承者になれないことにするのだ。その者の孫からは継承者になれるが、その時点では曽祖父にあたる舅はとっくに亡くなっているから、影響力を及ぼしようがない。
万系の皇統を未来永劫に続けるのである。このくらいの長期的仕掛けが必要だと考える。

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