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655給食費無償化の是非 そもそも何のために

所長:東京都の葛飾区が公立小中学校給食費の完全無償化に踏み切ることにしたとの報道があった。実施は来年4月からで、必要な予算手当を議会に提案する。所得制限なしは23区では初めて。保護者が負担している給食費は、区が補助している分を除けば月額4千円程度。区の補助金は年間7億円。
区内の公立校通学児童生徒は約2万9千人。完全無償化すれば区の給食経費は17億円に増え、現在よりも10億円の追加支出が必要になる。葛飾区の財政状況も潤沢ではないはずだが、今の時点で完全無償化する政策の是非を考えてみよう。。
輝明: 東京都内で無償化をしているところはごく一部。島しょ部の一部の村に実施例があり、また奥多摩の檜原村では保護者が支払う給食費と同額を補助している。それらがどういう経緯で始まったのか不明だが、小さな村でやっているのだから、それよりは財政状況は大きなわが区でやってもかまわないはずということであれば、典型的な人気取り集票政策。一度始めたら廃止はほぼ不可能。ポピュリズム的バラマキや無駄な公共事業で財政破綻させた北海道夕張市の失敗が教訓になっていない。
香澄:そこまでこき下ろすのは行き過ぎかも。区民が選出した政治家が決定し、区民から特段の批判はないようだし。政策として前向きに評価してみましょうよ。
  まず教育政策なのか、福祉政策なのか。教育政策だとしたら、給食費の無料化がなぜ教育成果を上げる上で必要なのか、ほんとうに学業成績向上につながるのかを検証する必要がある。子どもに三食食べさせるのは親の責任。学校に行かせれば一食分浮くという発想を助長するようなことになれば本末転倒もはなはだしい。そもそも学校で給食を始めたのは、忙しくて弁当を作れない親がいるといった事情からだった。弁当を持参できずに、お昼休みに水を飲んで空腹をまぎらすようでは勉強に身が入るはずがない。タダにするという発想ではなかった。
輝明:香澄さんもけっこう厳しいね。国民に経済力がついてきて、高額費用を払ってお稽古教室や進学塾に通わせる時代になっている。月額4千円の給食費家庭負担を区が肩代わりする財源があるのなら、その10億円で補助教員を雇いあげて学校に配置し、進学塾に通わなくても済むようにしっかり教育体制を整えるべきではないかと思う。その方が家庭の家計も助かる。
香澄:では福祉政策としてはどうかしら。目下の最重点福祉政策は、子育て世帯への支援。健康保険からの出産費助成、育児のための休業中の賃金に代わる雇用保険からの育児休業給付、原則全児童を対象とする児童手当、さらに子ども医療費自己負担割合の軽減や自治体による代替負担、保育所・幼稚園の保育費用無償化などが逐年充実している。それに加えて今回は学校給食費を補助することにした。奥多摩の檜原村の補助金はそういう捉え方ができそう。
輝明:給食は1日1食。3食の内の1食分だけ補助することで、出生率が向上するとか、あるいは親の子育てへの熱意が高まることが期待できるだろうか。週末や祝日、夏休みなどで給食がある日は年の半分くらい。だとすれば6食のうちの1食という比率になる。「子どもの食費は親に負担させません。医療費と同じです」とでも宣言すればすれば、それなりにインパクトがあるが…。
香澄:そうね。そういう点では米国などで実施されている税の控除が参考になる。子を産み、育てることが、子なし世帯に比べて経済的に不利にならないようにすることは公平の観点からも望ましい。そこで子育てに親が払った費用をそっくりその家庭が納付した税から差し引いて還付する。
  税務署から通知があって「〇万円返します」とあれば、「子育てをわが国政府は評価してくれれている」と感激するはずよ。
輝明:そうだね。だが実務的にはどうするのだろう。領収書で出費を証明するとなれば、外食の場合は家族各自の注文の明細をつければよいだろうが、自宅で食べる分には難しい。大根やキャベツの購入費を家族数で按分する…?
香澄:その点、給食分は簡単。給食にかかった総費用を児童生徒数で按分して各家庭に証明書を発行すればよい。保護者はそれを税の申告書に添付する。医療費控除よりも簡単。申告がそっくり控除されることにしておけば、現在のように給食費の一部を区が補助する仕組みも不要になる。葛飾区の場合、現在の年間補助金7億円がまったく要らなくなり、今回予算化しようとしている10億円と合わせて17億円が節約され、新たな教育財源が生まれることになる。
  この財源を用いて「わが区の公立小中学校では、学習塾通いを不要とするしっかりとした義務教育をします」と宣言するのが、責任感ある政治家の姿だと思うわ。
輝明:それに今般の区の方針では、私立の小中学校に子どもを通わせている世帯には恩恵がない。税金は公平に負担しているはずだが、見返りはないというのはいかがなものか。
香澄:税の控除による方式では、通う学校が公立か私立かで違いは出ない。
輝明:もっとも義務教育のときからなぜ私立の学校に通わせる必要があるのだろう。ボクは実は中学校から私立に通ったのだけど、それは当時、区域の中学校が荒れていて、小学校の先生が、区域外の公立中学に越境入学するか、思い切って私立に行かせなさいと指導していたから。その後、荒廃は沈静化したから、今では大部分が地域の公立中学校に進んでいる。公立の義務教育がしっかりしていれば、わざわざ電車やバスを乗り継いで遠くの学校に通わせたい親は多くないはず。地域の子がみんな同じ学校で義務教育を受けることは、福祉政策の基盤とされつつある地域包括ケアの推進にも好都合のはずだ。

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