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799火葬場から貴金属 それはだれのもの? 現実に即した法解釈

遺体は火葬されて骨と灰になる。
遺族が骨つぼに入れて持ち帰り、墓地に納骨するのが基本的な流れ。
 
細かい灰になった部分は火葬場に残される。これを残骨灰というが、そのなかに貴重な金属が混じっている。故人の金歯や人工関節・心臓ペースメーカーに用いられていた貴金属類である。
その行方はどうなるか。地域によって一律ではないのだが、京都市の例が読売オンラインニュースに載っていた。
 
≪京都市は、「市中央斎場」(山科区)で火葬後に出る「残骨灰」から抽出した貴金属の売却を進めている。収益は施設の修繕などに充てるといい、その額は1年半で2億円あまりに上った。
 斎場は市内唯一の火葬施設で、1981年に稼働を始めた。残骨灰は敷地内にある収蔵スペースに納めていたが、満杯に近づいたため、骨を細かく砕いて容量を減らす「減容化」を2021年度に開始。「そのままのペースだと、22年度に満杯になる可能性があった」という。
 減容化の過程で金歯や人工関節、ペースメーカーに含まれる金やプラチナなどの貴金属が分別可能となり、市は売却を決めた。あくまで「副産物」という位置付けだ。
 売却は他の自治体でも行われているが、死者の尊厳や遺族感情にも関わるため慎重な意見もある。市の担当者は「財政難のため行っているわけではない。故人が最後に残されたものなので、大切に活用していきたい」と説明している。
 市は21年4月~22年9月の売却額が約2億2100万円になったと発表。23年度は斎場の空調設備の更新や胎児専用火葬炉などの改修、告別ホールの備品購入などに充てるという。≫
 
 読者のコメントは、おおむね京都市の方針を支持している。妥当な結論だろう。
「故人の金歯も相続財産だ」と主張して、棺に納める前にペンチで歯を抜き取ると主張する者が出たらどうするか。実行、即、死体損壊罪で逮捕されるだろう。
 では「この遺体には金歯があるので後でその売上げ分を返してもらいたい」と申し出る遺族が出たらどうなるか。
そういう面倒なことが生じる遺体は焼きません。そういう拒否権は火葬場サイドにはない。墓地埋葬法第13条で、「墓地、納骨堂又は火葬場の管理者は、埋葬、埋蔵、収蔵又は火葬の求めを受けたときは、正当の理由がなければこれを拒んではならない」となっている。
 
 京都市が貴金属の売上金を返さなくてよい法的根拠は何か。
順を追って考えてみよう。遺族から火葬の求めを受け、引き受ける。この時点で遺体の所有権が火葬場に移ると考えれば、遺体の金歯の処理権限も火葬場に移る。よって貴金属売上金は火葬場の設置者である京都市のものになる。
 
 では、焼骨の所有権はどうなるか。日本には収骨の慣習があり、遺族が一部の焼骨と遺灰を持ち帰る。俗に東日本では「全部収骨」、西日本では「部分収骨」とされる。
 この収骨する時点で、その対象として骨つぼに納められたものは再度遺族の所有物に転換すると考えればよい。
そう解釈することにより、墓埋法13条で墓地事業者に対する(焼骨の)収蔵の申し出が可能になる。
 墓地への収蔵の形式として合葬墓とか樹木葬が増えている。骨つぼから出して他の焼骨と混在することになるから、現実的にも遺族が所有権を主張するのは意味がない。収蔵の時点で、遺骨は墓地事業者の所有物に転換すると考えればよい。
 お墓の移動、すなわち改葬ではどうか。
 所有権はいったん遺族に移り、新たなお墓に収蔵する時点で墓地事業者に移る。
 これが実態に即した考えであり、そうすれば遺体の火葬契約がなされた時点で金歯を含めて所有権が火葬場に移っていることになる。

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