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508“日本版”航行の自由作戦 中国による南シナ海領有の承認?

読売新聞1面トップ記事(1月11日)には仰々しい文字が躍っていた。
“日本版「航行の自由作戦」”、“海自護衛艦、南シナ海で”、“中国けん制 昨春から複数回”。
 中国の国際平和破壊行動抑制に日本が重い腰を上げたかと思ったのだが、記事内容を検討すると、どうしようもない羊頭狗肉。
南シナ海はヨーロッパとアフリカ大陸を隔てる公海で、あの地中海よりも面積が大きい。取り囲む国も多い。そのうちで中国の海岸線は割合にすればごくわずかである。にもかかわらず九段線なる荒唐無稽な線引きをすることで、海域全部の領有権を主張している。
例えれば、地中海の一番奥に位置するトルコあるいはさらにその奥の黒海の最深部に位置するロシアが、大西洋への出口であるジブラルタル海峡までの海岸線に沿って線を引き、「この海域すべてが自国のみに帰属する」と宣言したと考えれば分かりやすい。地中海でそんな事態が想定できるだろうか。ギリシャ、イタリア、フランス、スペイン、モロッコ、アルジェリア、リビア、エジプト、イスラエル、シリア…。沿岸国が黙っているはずがない。地中海には直接面していないドイツ、イギリスだって同様に違いない。
ところが東アジアでは中国の無法がまかり通っているのだ。国際司法裁判所が九段線は根拠なしと断定したにもかかわらずだ。サンゴ礁を埋め立てて陸地化し、そこを行政区域と命名して既成事実を積み上げている。空軍基地を置き、ミサイルを配備して軍事要塞化にも余念がない。これを認めれば、次は太平洋。すでに第二列島線なる線引きを終えているのだから。領土領海への貪欲さには際限がないのは中露両国の共通性といってよい。
それを防ぐべく、航海の勝手な領有化を認めないというメッセージを送るのがアメリカの「航行の自由作戦」。読売新聞の解説では「国際法が保障する公海での航行の自由を確保するために、沿岸国が海洋権益を過剰に主張しているとみなした海域で行う米軍による巡視活動。…南シナ海では主に15年から実施し、中国が軍事基地化を進める人口島付近の「領海」に当たる海域を航行している。

この米軍の行動に同調したのだと読者は記事の見出しから判断するだろう。それが大変な間違い。記事本文によると、海上自衛隊護衛艦の航行は昨年の3月と8月。中国が人工島化しているスプラトリー(南沙)周辺だったが、中国が主張する「領海」を避け、その接続水域の航行にとどまっている。先の米軍による航行の自由作戦が、中国が独自主張する領海内を航行するのに比べ、領海内航行を遠慮して接続水域航行にとどめるのでは、メッセージの内容がまったく違う。

― 日本政府は、護衛艦の航行は「公海上の航行であり、何ら問題はない」(政府関係者)との立場だ。防衛省幹部は「国際法をゆがめている中国に対し、航行の自由、海洋の法秩序を守るよう警告する意味がある」と述べ、意義を強調する。 ―
 記者はこのように書いているが、記者はどういう気持ちでこれを書いたのだろうか。日本の護衛艦の行動は、中国にとっては痛くもかゆくもない。むしろ中国主張の領海を敢えて避けたことで、「アメリカと違って日本政府が中国の領海主張を承認していますよ」のメッセージを発していることになる。防衛省幹部コメントの空虚さは、発言の当人が一番感じていることだろう。
 記事は「沖縄県・尖閣諸島への中国の領海侵入が常態化しており…接続水域への進入に限っては昨年1年間で332日を記録し…」と続く。尖閣という自国固有領海への侵入には何らの対処もせず、南シナ海での中国の勝手な領海設定には敢えて承認的航行をする。日本の政治家には、独立国の気概はないのでしょうか。記者の無念さが伝わってくる。
 日本の政治のある意味、本質をえぐる映画を見た。これは次回取り上げよう。

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