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665準公務員の資格と憲法の民主主義原則

所長:「憲法を暮らしの中に」と言われるが、どの程度憲法理念が浸透しているのか。それを考える適材があった。大阪府泉南市市議会で、議員の議会での市長等への質問内容が議員としてふさわしくないとして、市長と教育委員長が議会議長に「善処」を求めた。これを受けた議会が質問議員に対して「謝罪及び反省を求める決議」を可決した事件。
輝明:概要は新聞(産経「中国籍の国際交流員「あり得ない」 市議の発言巡り波紋」2022.9.9)で見ることができますが、表面的な対立事項よりも、当事者たちの憲法観がうかがわれます。その意味で検証する価値があります。
  若い一人の女性市議を、老練な女性市長とこれまた女性教育長が、議会議長などを巻き込み寄ってたかって叩いている構図に見える。議会人は「議場での発言で責任を問われることはない」のが代議制民主主義の大原則。その保証の対象外にしなければならないとすれば、民主主義を破壊しなければならないなどの強烈なアジ演説でもしたのかと思うよね。
香澄:女性市議の質問は、記事によれば「学校に配置される外国語指導助手に中国人を採用するのは問題だ」ということだったらしい。この種の国際交流員(CIR)は市民目線では“準公務員”であり、国の統治機構の一環をなす地方自治体は、わが国の利益に反するような者を採用してはならないというのが市議の質問の趣旨。これだと当然のことよね。
輝明:市議は質問の中で 中国の“愛国法制”に触れ、中国人民は世界のどこにいようとも中国政府の手足となってその対外政策の活動家でなければならないことになっているので、中国国籍の者を採用するのには慎重であるべきだと言った。これが「市民の憎悪と差別を扇動する」と市長等にはカチンときたようだ。「在日中国人の危険性を流布しようとする発言であり、国連の人種差別撤廃条約に抵触する」と強調している。
香澄:国連憲章もいいけれど、その前にわが憲法に照らせばどうなのだろう。わが憲法には「人種において差別されない」という14条がある。しかし、その前提は「すべて国民は」で始まる。日本国民であれば人種で差別するなということ。帰化や国際婚で何十世代も前からこの島国に暮してきた者とは姿かたちが大きく異なる国民が誕生する。そうした者も日本国民。差別はまかりならんと言っているわけで、誰も納得する。しかし外国籍のままたまたま日本に住んでいる人と日本人をどこまでも同等に扱えとは憲法は要求していない。これも当たり前のこと。同等にすべき分野とそうでない分野は立法政策事項。その際には、同盟関係にある国の者と、敵対関係にある国の者とで差があるのは当然。
  議員の代理弁護士は「国家情報法などの支配下にある中国人をCIRに選任させることは市民の安全や個人情報の保護などで懸念が生じるため、市民を代表する議員として市議の議会での発言は正当であり、議会は懲罰的な決議を撤廃して議員に謝罪すべきである」としている。市当局は問題性ある人物を選任しないよう、いわゆる身体検査をしっかりやればいいのであり、議会としても「いいところを指摘してもらって議会の目が節穴でないことを示してくれた」と礼を言うのが筋だと思うわ。
輝明:市民感情ではそうだろうね。でも、中国語のネイティブスピーカーは中国人だろうから。
香澄:中国語は台湾人も母語としてしゃべるわよ。東京弁と関西弁くらいの違いはあっても、中学生がっ学ぶ中国語では大した違いはない。
  それよりもわが憲法の根本である民主主義や人権をどう考えるかが重要だわ。憲法前文には「民主主義は人類普遍の原理であり、それに反する一切の憲法、法令、詔勅を排除する」とある。反民主主義者を統治システムに入れてはならないということだと理解する。外国語指導助手が統治要員に該当するかとか、生徒の個人情報の保全システムは万全かといった検討や応答をすればいいだけのことで、質問が「ヘイトスピーチにあたる」と怒り出すのはなぜか。なにか別の痛い腹でもあるのかと疑念が湧いてくるわ。
輝明:気に入らない発言者には「人権侵害」の怒声を浴びせる。これこそ憲法21条の「表現の自由」の侵害ではないか。しかも発言者は議員で、それも議会での質疑での発言。それを許さないというのであれば、議員は何を質疑すればいいのだろうか。市長の大政翼賛会であるべしと思っているのだろうか。
香澄:人権と言えばウイグルやチベットでの中国共産党の弾圧が次々と明るみになっている。しかし中国は「内政問題だから口にするな」と居丈高。憲法前文では「全世界の国民が、恐怖と欠乏から免れる権利を有することを確認する」としている。人権侵害を国内問題として隠すなどは日本人として許してはならないというのが、日本国憲法の精神。
自治体の議会は人権問題などで決議することが多い。泉南市議会が今回の件をきっかけに、「中国政府は国家情報法によって自国民の外国での行動を縛るようなことをやめよ」と決議するのが事態の収拾策として妥当ではないかと思うわ。議会として名誉挽回になる。

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